遊亀

哲学者/投資家。思考のデッサン、即興のようなものを投稿しています。1994年生まれ。京…

遊亀

哲学者/投資家。思考のデッサン、即興のようなものを投稿しています。1994年生まれ。京都⇄高知

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    労働や資本主義についての記事をまとめました

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アーレント『活動的生』研究ノート(5/6)

アーレント的議論の適用可能性 アーレントがいうように、現代は労働が賛美された時代で、それこそ「働かざるもの食うべからず」な世の中なわけですが、 その一方で、いわゆるゆとり世代あたりからは、バブルを知らないせいか、「もっと遠く、もっと速く」的な資本主義的価値観を相対化して、「社会の役に立ちたい」という感慨がにわかに存在感を増してきた、そんな文脈もあるわけです。 失われた20年、いや30年といわれますが、デフレ経済で資本主義が停滞した時代には、社会の役に立つとか人のためにな

    • アーレント『活動的生』研究ノート(4/6)

      会社員のための政治哲学? アーレントは古代ポリス世界に定位しながら、そこからの偏差(逸脱性)によって現代社会を「上からアーレント」的に裁断していくわけですが、 これまで見てきたように、古代ギリシャと現代世界では人口も領土もスケール的に明らかに違いますし、アーレントの話は現代ではとても通用しない議論だろうと反論したくもなる。 その一方で、労働、制作、行為というアーレントの区分は実に魅力的で、人間の活動全般について、一定の見通しというか、よき補助線を与えてくれそうな気配もあ

      • アーレント『活動的生』研究ノート(3/6)

        私有財産の擁護と「反民主主義」 アーレントは「9 社会的なものと私的なもの」で私有財産(≠富, GDP的なもの)の重要性を強調している。 公共性、公的領域での〈行為〉について、アーレントは、同時にそれが確固たる私的領域によって守られていなければならない、ということも示唆していますが、 つまり、私的領域にいつでも匿われるというのが公共的な〈行為〉が成立するための条件であると。 しかし、そうなってくると、結局、私有財産が豊かにある市民だけが、公共的生活に十分な権利をもって

        • アーレント『活動的生』研究ノート(2/6)

          私的領域が公的領域を侵食し、社会という次元が誕生 第二章の「6 社会の成立」では、私的領域の家政、エコノミーが、社会全体に拡張し、しだいに古代において精華を極めた公的領域が消滅してしまったという旨が主張されている。 それまで家政の一環だった〈労働〉が、社会全体に拡張していく。労働は家で奴隷(や女性や子ども)にやらせるものではなく、(資本主義的な)労働市場で「売り」、提供するものとなった。 ところで、古代において、公的領域における〈行為〉に価値があったのは、 あくまで、

        アーレント『活動的生』研究ノート(5/6)

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        記事

          アーレント『活動的生』研究ノート(1/6)

          ハンナ・アーレントの『活動的生』という本を読んだので、研究・考察ノートとしてまとめたものをぼちぼち投稿していきたい。非常に長くなってしまったので、6回に分けて投稿する。 真面目な研究ノートいうよりは、アーレントの文章を批判的に検討しながら、そこから思いついたり連想したりしたことをあれこれ書き留めたものになります。 なお、今回読んだ『活動的生』は、アーレントが1958年にアメリカで『人間の条件』として出版したものを、友人の助けを得ながらドイツ語訳し、表記や注に若干の加筆修正

          アーレント『活動的生』研究ノート(1/6)

          進歩主義、全体主義、カルト・・・

          最近、近代イギリス史について少し勉強しているのだが、その関連で、19世紀の哲学者ジョン・スチュアート・ミルのことが気になったので、Wikipedia等を活用しながら、軽く調べてみた。 ミルといえば、大学時代に『自由論』や『大学教育について』を読んだことがあるが、中身についてはほぼ忘れてしまっている。なんとなく「リベラルな人」というイメージしかない。 Wikipediaの英語版を読んでいると、やたら progressive とか development とか improve

          進歩主義、全体主義、カルト・・・

          ホモ・サピエンスは共感の生き物?

          ホモ・サピエンスは共感の生き物、助け合う動物だという見立てがありますが、 もちろん、仲間でだべったり団欒したりするのはすごく楽しいんです。充実感というか、濃密な時間感覚、存在ごと肯定される感じを得られるんですが、 だけど、あくまでこれ、「人間は自然界では弱い」という前提でのみ好意的に成立した本能なんじゃないかという気もするんですよね。 いま現在、衣食住もほぼ解決され、資本主義が(良い悪いは別にして)生活をより豊かに、より便利に更新していってる中で、「人間は弱い生き物だ、

          ホモ・サピエンスは共感の生き物?

          なぜ労働はなくならないか、なぜ「仕事」はブルシット化してでも生き延びようとするのか(雑記)

          たとえばこんな問題設定を念頭に、散歩しながら労働と現代社会についてあれこれ考えてみたんですが、 衣食住足りても、というか足りれば足りるほど、人間の余分な精神性がより強く浮かび上がってきて意識されるので、バランスを欠いて神経症的に情報や記号に従属し、それ自体は実在しない欲望とか不安に左右されやすくなってしまう。 人に合わせよう、ママ友界隈に乗り遅れないようにしよう、あいつよりいい車に乗ろうと無理するから、余計に働かないといけなくなるし、身の丈に合わないことをしていると借金も

          なぜ労働はなくならないか、なぜ「仕事」はブルシット化してでも生き延びようとするのか(雑記)

          医学情報をどう受け取るか

          医学系の本を読んでいたら、HPVワクチンの話に出くわした。一般には子宮頸がんワクチンとして認知されているこのワクチンだが、2020年のある研究によれば、有効率は63%、年間では、子宮頸がんの発症を10万人あたり5人から1人に減らすことができるらしい(青島周一『薬の現象学』)。 パーセンテージに直すと、接種なしで全体の0.00527%が発症し、接種ありだと0.00073%「しか」発症しない。7倍くらい効果が違うわけですが、逆に、発症しなかった人の割合は、100から引くので、未

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          國分功一郎氏の消費社会批判について

          生活を楽しむしかなかった時代? 久しぶりに、國分功一郎の『暇と退屈の倫理学』を手に取ってなんとなく読んでいたら、生活を楽しむための訓練を説いている箇所が目に留まった。 イギリスの哲学者バートランド・ラッセルや社会運動家ウィリアム・モリスを引き合いに出しながら、現代人は消費社会によって人間性を疎外されており、人間らしい生活を取り戻すために、それを楽しむための「訓練」が重要になってくると國分さんは主張する。 ここで訓練というのは、古典文学を楽しむためにギリシャ語を習得するとか

          國分功一郎氏の消費社会批判について

          男女の進化論

          プレジデントオンラインのポッドキャストを聴いていると、東大の小林武彦教授の記事が取り上げられていた。 小林氏は『生物はなぜ死ぬのか』(講談社現代新書)という面白い本を書かれた生物学者で、上の記事でも、「生物にとって死とは何か」という問題について、わかりやすく説明されている。小林氏によれば、「なぜ死ぬのか?」というのはもう問いの段階でズレている。そうではなく、人間は死ぬから生きるんだと。死ぬことで変異がたくさん起き、進化するんだと。 昆虫なんか、交尾を終えるとすぐ死んでしま

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          お金のゆくえ

          ところで、お金をバンバン使ったほうが道徳的に優れているというのは、直感には反するけど、やっぱりそれだけ現代がサービス業主体の社会だということなんだと思う。 衣食住足りたらそれでいいと満足してたら、サービス業で自分の労働力を売るしかない大多数の人々を食わせられなくなる。 もちろん、道徳とか倫理とはいっても、同時に遊び、あるいは美意識の感覚にも支配されている。ほんまに困ったら田舎に住んで畑耕して自給自足すればいいっていうのはそうなのだが、しかし、現実に、人間は衣食住足りたら足

          お金のゆくえ

          メディア時評

          先日、アメリカの政局にまつわるこんな記事があった。 この記事、一言でいえば、バイデン大統領が最高裁の一連の判決を批判し、それを覆そうとしているという趣旨の話で、それをBBCも素直に紹介しているんですが、 これ、立場が逆だったとして、つまり、トランプが同じように最高裁の何らかの判決について文句を言った、といったことがあったとすれば(実際に任期中ありました)、メディアは一斉に「三権分立を脅かすものだ!」「司法の独立性が損なわれる!」などと、ものすごいスキャンダラスな見出しをつ

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          乳製品から医学的エビデンスを考える

          だいぶ前のものになるが、New York Timesで、"Are Low-Fat Dairy Products Really Healthier?"(低脂肪乳製品はホントに健康的か)という記事があった。 記事によると、これまで健康のためには低脂肪乳製品が良いということが言われてきたが、最新の研究では、低脂肪であろうとなかろうと、乳製品の摂取は高血圧や心血管疾患、糖尿病のリスク抑制に貢献することがわかってきた。低脂肪の方が太りにくいということもあまりないようだ。 僕は、牛乳

          乳製品から医学的エビデンスを考える

          AIの発展で識字率が下がる?

          サウナでTVをみながらぼんやり考えたんですが、生成AIの発展で人口の識字率が下がる展開、わりとあるんじゃないか。 AIのアシスタンスやエンパワメントに頼っていると、自分で読解したり計算したりする必要がなくなりますからね。 現に、どこかで聞いた話ですが、最近はマニュアルが読めなかったり、お釣りの計算ができなかったり(しかもそれでいて本人は平然としている)というZ世代の若者が少なからずいるみたいですしね。これは、Z世代に片足突っ込んでるような自分でも体感的によくわかる。もう一

          AIの発展で識字率が下がる?

          スピノザ考察ノート

          西田幾多郎の『善の研究』をちびちび読んでいる。読みながら、「汎神論だよなあ」との感慨を強くする。西田自身は直接に神とは言わず実在と言うのだが、実在は統一かつ矛盾であるとか、「一なると共に多、多なると共に一、平等の中に差別を具し、差別の中に平等を具するのである」とか、とにかく汎神論的な気分が横溢しているのだ。『善の研究』の終盤で直接神について語る地合いにおいても、「万物は神の表現である」「神即世界、世界即神」と西田は書いている。 汎神論といえば、しかし、やはりスピノザである。

          スピノザ考察ノート