『B計画(ビー・プラン)〜彼女の住む宇宙〜』

『B計画(ビー・プラン)〜彼女の住む宇宙〜』作 すがの公

<あらすじ>都会から離れた人がほとんど住まない田舎。その村にアートディーラーの森脇は辿り着いた。事の始まりは、最近しだいに勢力を増している新興宗教。自称宇宙人たちのコミュニティサイトの会員数は10万人を越えた。パスポートはURLが組み込まれたデジタル画像『黒い天使』。無機質なそのパステル画にはサインがない。森脇は謎の絵の画家を探すうちに『シルクハットの男』の絵にたどり着いた。携帯電話の電波が届かない、電車が止まらない、雪が降らない村。電車も止まらないような忘れ去られたこの田舎で、森脇は盲目の女性に興味を持つ

<開演>

SE列車、近づいて来て、そのまま通り過ぎる。
ガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトン。

無人駅のある。土手の上に線路。

■1場「アートディーラー、森脇」

電車、遠くからやってくる。ガタンゴトンガタンゴトン。
そのまま通り過ぎて小さくなる電車。
車内の明りに照らされる直立不動の森脇。
夜。街頭の灯り。

森脇:やっぱり通りすぎる。
この町、いや、この村に止まる電車なんて無いというハナシは本当だったのか。
ド田舎の無人駅。おかげでこの駅を通り越し次の駅で降りた。
前の駅まで歩いてどのくらいですかと聞いたら、
「家5つですよ」て言われたから歩いたら、
家と家の距離が、尋常じゃなかった。家と家の距離、約1時間。。
どっか、泊まるとこないですか?

少し人を探す。

森脇:、、、、、、誰もいないですか。

街頭の灯り、消える。月明りのみ。

森脇:暗い。、、、どうして街灯が消えるんだろう。今

SE獣の声。ヒョヒョヒョホ!ヒョヒョ!ウィー

森脇:恐い。一体この村には何が生息してるんだ。
駅から漏れるあおじろーい光り。
これで誰か出てきたら間違いなく何かを叫ぶな。


娘登場。娘、でかい懐中電灯で手だけ照らす。

森脇:とぼけんなよぉ!!手!!手だけ!手!

娘、でかい懐中電灯を消し、場所を変え、顔を照らす。

森脇:と!とぼけんなよぉ!!
娘:おう。
森脇:とぼけんなよぉ!!
娘:おう。

消す。

森脇:座敷わらしか。田舎には出るのか。
娘:ちょっと。何してんだ。

至近距離で森脇の股間を照らす。

森脇:至近距離でどこ照らしてんだ!

森脇の顔を照らす。

森脇:やめろ。まぶしい。とける。
娘:おじちゃんだれ?どこのだれ?どっから来た?
森脇:なんだ。村のガキか。
娘:どっから来た人?何しに来た人?何歳の人?あまいものすき?
森脇:出たよ。村のガキ特有の質問攻め。
娘:おじちゃん。人参食べれる?ピーマンすき?
森脇:古いな。いいかい?おじちゃんはお兄さんだよ。おじょうちゃんいくつ?
娘:3歳。
森脇:そう、3歳がこんな夜ふけに何してんの。ちょとまぶしいよ。
娘:あ、わかった。宇宙人?わかった!宇宙人!
森脇:出たよ。村のガキ特有の突拍子も無い「わかった」。
娘:おじちゃん宇宙人?おじちゃん星人?!
森脇:そんな星はない。答えてやろう、その、どちらでも、
娘:あ、100円玉発見。
森脇:最後まで聞けっ

街灯がつく。

森脇:お。ついた。
娘:総理変わってこんち、どうも接触悪いな。小泉の方がましだ。
森脇:3歳って言った?
娘:そー。
森脇:3歳なわけあるか!
娘:3歳だのの!
森脇:どうしてそういう得の無い嘘をつくんだ。ガキめ。
娘:3歳だっちゅーの。
森脇:お。出たな懐かしの「だっちゅーの」さては田舎ではやっているな。
娘:あんだばかやろう。アイーん
森脇:出たなあんだばかやろう。アイーン
娘:どーもすいません。
森脇:出たなどーもすいません。どこまで遡る気だ。
娘:とお!(殴る)
森脇:痛い!
娘:***娘ギャグ(謝罪系統)***
森脇:お、なんだそれ。
娘:自分で作った。
森脇:なかなかのもんだ。
娘:誰?誰?どこの人?偉い?平社員?
森脇:うるさいな。
娘:誰?
森脇:村のガキに名刺なんぞもったいない気もするが。
私、こういうもんです。
娘:?
森脇:アートディーラー、森脇、、

一瞬手に取り、落とす。

森脇:貰えよ。落とすなよ。拾えよ。読めよ。
娘:宇宙人じゃねーなら用はねぇよ。やれやれだな。
あ、100円玉じゃなかった。王冠だった。やったぁ。
森脇:まいいや。このへんに今から泊まるとこないかな?寝るとこ。
娘:あるよ。
森脇:え?ほんと?

指さす。

娘:宇宙センター
森脇:え?どこ?何?
娘:宇宙センター
森脇:どこ。
娘:そこ。
森脇:あれは電車の止まらん無人駅だろ。
娘:違うよ。太郎ちゃんも住んでるよ。
森脇:それはなんだ。トイレの花子さんのたぐいか。
娘:はーあ。ばぁか。
森脇:ためいきまじりにバカだと?
娘:ほらこれ(懐中電灯)貸してやるから、消えな。
森脇:俺をそのへんの優しい大人だと思うなよこのやろう?
娘:はいはいわかりましたよ。
おおまかに混ぜときゃ文句無いでしょうが。納豆。
森脇:ん?なんて?
娘:そやって炭水化物ばっかりとってると幸せ逃げてくよ。
もともと味ついてんだから。
でもあの人は別。ナイス人生。ほとんど無農薬。たまには醤油。
森脇:おい。
娘:あ、やっぱ100円玉だった。ちっ。
森脇:なんだ。ぶっちゃけ、頭おかしいのかお前。
娘:おかしくない。
森脇:、、あ、そう。
娘:ハーフだもん!
森脇:、、あのさぁ。
娘:地球人とは少し違うだけだ
森脇:はいはい。あのさぁ。どーせわからんと思うんだけどさぁ、

森脇、かばんの中から『シルクハットの男』の絵を出す。
SE列車、近づいて来る。ガタゴトン、、ガタゴトン、、

森脇:この絵描いた人知らないかね?えーと、
娘:知ってる。
森脇:まだ見せてねぇよ。
娘:「宇宙人の子供」だもん。あたし。
森脇:え?

そのまま通り過ぎる。
街灯が消える。
ガタンゴトン!ガタンゴトン!ガタンゴトン!
車内から漏れる明りの中、娘退場。

森脇:電車走るたびに切れるのか。この村の電気は。

小さくなる電車の音。
曲聞こえてくる。(SE-NOハモニカ)

森脇:でな。この絵なんだけど。

懐中電灯で『シルクハットの男』照らす

森脇:知ってる?あれ?、、?おい。

懐中電灯をつけて娘を探す。

森脇:、、、消えた。やっぱ座敷わらしか。
、、、、宇宙センター、あおじろーい光り。
タロちゃん、いるんだよな。
でも、野宿よりましか。
宇宙人の子、、、ばかばかしい。

森脇、仕方なく無人駅へ向かう。

録音による男の古いテープに入ってたような声。
美しい照明。

『子供は2つ違いで二人。男の子でも女の子でも健康ならどっちでもいい。
名前も4つ用意してる。双子だったらまた考える。』

盲目の女、白杖をついて現われる。

『今は共働きだけど彼女には子育てに専念して貰う。
週末は家族サービス。公園やキャンプやピクニック。
たまには会社に疲れた僕と育児に疲れた彼女の二人で温泉にでも行く。』

娘、女の手をひっぱる。

『子供はどちらかの両親に預ければいい。
月曜日。僕はまた家族のために会社へ行く。普通の幸せ。
僕を迎えるあったかい家庭。』

「そら」を見せようとする娘。
笑顔を作り、応える女。

『僕の完璧な計画。
僕には計画がある。
僕には、誰にも負けない計画がある。
、、、、、、、、、、、、。
彼女に子供が出来た。
僕の計画通りだ。
、、、、、、、
ひとつだけ計画と違ったのは、
彼女が「宇宙人の子供が出来た」っていった事だ。』

曲上がっていく。

娘、「そら」に向かって手を伸ばす。
娘にだけ見える星をつかもうとする。
女、目をつぶり、それを待つ。
届かず、あきらめ「そら」を見る娘。
じょじょに、夜空に輝くたくさんの星。

『彼女が消えて、何年か経った。
彼女は今、どんな空を見てるだろう。』

女、それを待つ。

全暗。

■2場「稽古中」

サスにサラリーマンサングラスメガホンの男。

男:とある田舎の村!
電車も止まらない田舎町に男がやってきました!
仕方が無く男は無人駅に泊まります!
夜が明け、いつものように見回りに来た駐在さんが目にしたものは、、。
よおおおおおおい、アああクション!

朝のすずめ、チュン、チュンチュン、チュンチュンチュン
朝。無人駅内部。森脇脚を大きく広げ、八ツ墓村の湖の死体のようになっている。
駐在、死体を前に、神妙な面持ちで立ち尽くしている。
胸に「駐在」のネームプレート。

駐在:事件だ、、、。
村の玄関にはカギというものがない。
この村の歴史の中に犯罪という二文字が存在しないからだ。
平穏無事であったこの村に、
とうとうカギの文化が広まるのは時間の問題だろう。
そしてこの日を境に村に埋もれていた血生臭さい過去がよみがえるのであった。
この村の駐在として赴任して半年、初の事件だ。
現場は、無人駅の待合室。

森脇、ばたん

駐在:!!!!!!!!!!!!!!!

駐在、ビビったついでにそぉっと退場する。
少し考えた後、駐在再び登場。頭を抱える。

駐在:僕のバカ!僕のバカバカ!
ビビったついでにそぉっと退場してどうする!
この村の平和を守るのは、僕しかいないんだかだ!

再び八つ墓村となる、遺体。

駐在:よし、現場検、、!!!!もぉ勘弁してくださいよ!
落ち着け落ち着け。今ボクがおちつかずに誰が落ち着くのであろうか。
いや、俺!よし、今は俺と呼ぼう。ボクを!いや俺を。
俺として、俺的に!

少し、ななめになる。

駐在:ななめ!ななめななめ!ななめ!

ビッと戻る。

駐在:きゃあ!くそう!俺なのに!!!よし!
銃を構える!そしてドスの利いた声で台詞!

銃を構える。そしてドスの利いた声で台詞

駐在:う「うごくなにゃぁ!(高い)」

学ランの少年すかさず登場

少年:声たかーい!

そしてドロップキック

駐在:あ。
少年:ぜんぜんドスきいてないや〜〜〜ん。
駐在:お、おざなり!
少年:そしてビビリついでにト書きを読むな〜〜。
駐在:おざなり!
少年:何してんだ童貞。
駐在:何って!この八つ墓村的危機的世紀末的状況がわかんないか?!
少年:的が多い。的が。
駐在:童貞って言うなああ(怒)!!!
少年:おせえよ!
駐在:死んだ死体が、動いたんだぞ!

少年、距離を取り、たっぷり時間をかけてドロップキック。

少年:死んだ死体ってなんだー
駐在:ああ!少年、距離を取り、たっぷり時間をかけてドロップキック。
少年:ト書き読む前にもっと国語を勉強しろ。
駐在:まさか、、!

銃を少年に向ける。

少年:、、。
駐在:きさまか!

あっさり取り上げる。

駐在:あ。
少年:村の駐在。一生懸命だが小心者。
ちょっと抜けてる所がある。、、、、のか!!(銃で殴る)

駐在:銃で。
少年:見ろ、あの死体だってもう、こっそり休んでるぞ。

ビッと立つ

駐在:ひゃあ!
少年:(胸ぐら)物語に都合良く反応するのはやめろ!童貞!
駐在:なんで怒られなきゃいけないんだ精一杯やってんのに!!
!!そして、童貞だとおお!!
少年:だから都合良く反応するのはやめろ!ゴキブリ!
駐在:ひゃあ!
少年:自分が無いのかお前は!
駐在:精一杯やってんだろぉ!
少年:そうして物語上のキャラクターに隠れてしまうのか!
駐在:(すがりつく)必要な存在だろお!!!そういうの!
どうしても、必要になるだろお!(胸に顔うずめる)そういうのぉ、、、
少年:「お、おい、、泣くなって」(貰い泣き)
駐在少年:(鼻すすり)グスッ
森脇:疲れるんだよぉおお!!
駐在少年:あ。
森脇:はやく進めろ!
少年:やろやろ。
駐在:うん。ぐす
少年:まさか死体がうごくわけないじゃないかおっちょこちょいだなぁ
駐在:そんなこといったってボクはとてもこわがりなんだよ
少年:それでよくおまわりさんになれたものだね
駐在:なんだともういっぺんいってみろぉ
少年:うへぇちゅうざいが怒った
駐在:おとなをからかうな
少年:あっかんべぇ

森脇、立ち上がる、手に台本を持ってる。一人づつ殴る。

森脇:ちゃんとやれ。
駐在少年:!
森脇:棒読みとか。
駐在:はい。
森脇:ばかにした態度して。
少年:それはこっちが(指さす)
駐在:え?俺?
森脇:おまえだこの
駐在は結構ちゃんとやってた。
おまえは。
少年:やってました
森脇:いいきれるか。
少年:、ちっ
森脇:舌打ちか
少年:してません。
駐在:してました。
森脇:つげぐち。かっこわるい。
駐在:はい。

女、登場、様子を見てる。

森脇:何にやにやしてんだ。
少年:してないです。
森脇:してるだろ。
少年:してません。
駐在:してましたっ
森脇:かっこわるい!
少年駐在:、、、、、。
森脇:いくぞ。
少年駐在:はい。
森脇:頼むぞ。
少年駐在:はい。
森脇:楽しいな。
少年駐在:はいっ。
森脇:よっ!(八つ墓村ポーズ)

女、男どものやり取りのなか、後ろで娘を呼び、箱足を置かせて、
上から垂れてるバインド線に「稽古中」テロップをひっかけさす。
娘、退場。男のたちの会話の終わりごろ、

森脇:よーいスタートっ
少年:まさか死体が動くわけないじゃんか!
駐在:そんなこといった、あ。

女、森脇を杖で叩く

森脇:いたい!
女:そんなんでいいのか。
3人:!!
女:何してんのあんたたち。さっきから3人で。東京まで来て。
少年:いや、なぁ
駐在:うん。
森脇:ちょっと。
女:ちょっと何。
少年:遊んでた。
女:遊ぶな!こんなとこまで来て。
駐在:え
女:芝居がどんどん伸びてますから。いや、芝居じゃねぇ。
森脇:ほらおまえら
女:おまえもだ。(杖)
森脇:いたい!杖、
女:そんなだから売れないんだチケット!
東京出てきたのに!売れないんだ!
そんなだからおまえ脚本賞のひとつも取れないんだ!
森脇:あ。
女:送っても送っても取れないんだ!
少年:いいすぎだぞ!
女:そやってウケばっかねらいやがってこのドスケベどもが!
コントグループか!
森脇:あの、

メガホンをもったサラリーマンスーツグラサンの男登場。
森脇の肩に手

森脇:え?
男:いちについてよーーーーーーい!台詞ー!

SE拍子木、カーーーーーーーーーーーン!
照明変わる。男、走り去る。

女:演劇とはすでにある体制をくつがえすための芸術の名を借りたささやかな革命である!
駐在:考えた事なかった
女:考えろおおおおおおおおおおおおお!

女、直立のまま、駐在を殴る、ぶっとぶ。
SE殴る音。ズどおおんん!!!!!!

少年:日本一!
女:ちゃんと考えろおおおおおおおおおおお!

女、直立のまま、少年を殴る、ぶっとぶ。
SE殴る音。ズどおおんん!!!!!!

曲(SE-NO『日だまりの中に』)
照明。ストップモーション。曲下がり、独壇場。

女:ちゃんと、考えて、、。
人はなんのために生きるの?
駐在:え
女:日本の事、未来の事、地球の事、ちゃんとたくさん考えて。
私たちはなんのために生きるの?ただ死ぬために生きるの?
存在する理由はなんなの?
森脇:ちょっと。
少年:まちな。
女:寝て起きて食って出してまた寝てまた起きて食って出して。
毎日毎日その繰り返しが人生なの?
銀河の大海原に産まれた、太陽系第3惑星、地球という名の大きな生命体。
その体液としての文化なの?人間なの?
ただ滅びるための道程をいく、
許された時間の中でむやみに種の存続の歴史を刻むための文明なの?
忘れ去られる予定に気付かずにただ造られた、創造種のためのモルモットなの?
いずれ滅びる運命の中でまるで老廃物のようにたそがれの時間をすごすの?
ならこの想いはなんなの?つき上げるこの激情はなんなの?
歯を食いしばりあふれる涙をとどめんとするこの胸のつかえはなんなの?
この感覚すら無意味としていけるの?
宇宙の星々にとっての私はなんでもない存在かもしれないけど、
私は私の計画を貫くの!命を喰らい!あたしとあなたの証を守り!
細胞の一つ一つが生まれ変わる!今日から明日!
おまえたちの予想を遥かに越えて、私の未来を切り開く!
森脇:あのう
少年:しゃらくせええええええ!!

森脇をなぐりつける。娘登場。

森脇:ののおおお!
娘:かあちゃあああん!!
女:共鳴しなさい!!!!!!!!!

娘、女をがっしり抱きしめる。

女:あたしの子。あなたは私のために。いのちという名の証だから。
森脇:あの、
駐在:聞けええええええええええ!!!!!!!
女:食いしばり、握り締め、あらがい、この大地に勝利する!
生きて殺して殺して生きて。
私のため、私はあなた以外の全てを否定する!

杖だったものの鞘を抜く、細身の刀の光りが見える。

女:立てば芍薬(しゃくやく)、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。

鞘を捨てる。

女:邪魔する男は、挨拶がわりにぶった切るよ。
駐在:うわあああああ!!!!

切られる駐在、SEキィン!ズバアア!
切られる少年、SEズバアアア!ズバアア!
切られる森脇。SEキィン!ズバアアアアア!
立ち回り、くるくると回り、ほとんど動かない女。

男、登場。

娘:おかあちゃん!

女、男につかまる。
カッターを首筋に当てるサラリーマンスーツの男。腰にメガホン。

女:!!
男:めくらとは思えんな。
女:あんた。
男:やんちゃしてないでこっちの船に乗れ。
子宮から出た激情で考えた事なんだろ。
月に一回血溜まり産むたび、
女心と秋の空ひけらかされた日にゃぁこっちはやってられんのよ。
それじゃ世の中渡ってけないのよ。
それじゃ勝った事になれないのよ
俺の勝利がおまえ幸せにしてやるからよ。かわいい女におさまんな。
女:牡丹!

娘、駐在の奪い、銃を構える。

娘:、、!!
男:観念しろ。俺は少し食当たり気味だ。
女:わかってんね牡丹。
娘:はいかあちゃん。
女:言った通りに出来るね牡丹。
娘:はいかあちゃん。
男:いっときの激情で物事進めてんじゃねぇ!
女:牡丹。
男:てめえのガキに撃たせる気か!
娘:かあちゃん!
男:俺はおまえの父親だぞ!
娘:かあちゃん!
男:俺はおまえらのために言ってんだあ!
女:さいなら。
男:俺には、計画が。
女:ごめん
男:え
女:くそくらえだ。
男:!!
女:ごめんね。
男:聞いてくれよ!
女:牡丹。
男:俺には計画があるんだよ!俺、完璧な計画があるんだよ!
女だてらにキバるんじゃねぇ!!与えられた人生生きろ!
その先に女の幸せあるんだろーが!
女:牡丹んんん!!!!!!!!!!!!!!!
男:やめろおおおおおおお!!!!

銃声。ズキュウウウウウウウウウン。女、倒れこむ。
男、抱き抱える。

男:おいいいいい!!!!!
女:、、牡丹。
男:おい!しっかりしろおい!
娘:えらい?
男:ばかやろう!自分のかあちゃん撃ったんだぞ。
女:ぼたん
娘:はいかあちゃん。
女:えらいよ。
娘:えへへへ。どのくらい?日本一?
女:宇宙一えらい。
娘:えへへへへへ。
男:百合、、百合ぃいいぃいいい!!

照明変わる。

死んだ少年が掲げる「宇宙No1」の扇子。

森脇:え?

死んだ駐在が掲げる「宇宙No1」の扇子。

森脇:なんだ?なんだこりゃああ!?!?!

笑う娘、泣く父親、揺れる扇子。

曲上がる。シルエットの中、各自スタンバイ。
曲消えクロスフェードして『村人のうた』
メガホンをもち、サングラスをかけ、ディレクターチェアに足組みしてる男。
その前で肩を組んで歌ってる5人(駐在、少年、森脇、女、娘の順)
森脇、歌詞カードを見てる。

♪『村人のうた』♪
(SE-NO『青空の散歩』のメロディ)
ケセラセラ〜、いつもケセラセラ〜、なるよになる〜で〜もぉ、
ぼ〜くたちはぁ、なんのために〜生きてゆく〜?
食物連鎖ァのくさーり〜、いー、ぼくら今日も〜あいしあう〜
(以下、宝塚)
そー、れー、でー、はっ。ぷんぷんぷんぷん、
おわかー(礼)れしまーしょ。(礼)(ぷんぷんぷんぷん、)
たーのーしーィ、(ぷんぷんぷんぷん、)
悲劇〜の(礼)ゆう〜べ(礼)(ぷんぷんぷんぷん、)

■3場「彼女の住む宇宙」

森脇:あのう。

男、立ち上がりソロ。

男:♪(ソロ)だ〜、れ〜、に〜、もっ!(ちょいちょいちょいちょい)
とめらぁれはしーない(ちょいちょいちょいちょい)
わぁたあしの!(へいへいへいへい)
愛しのガラクータ(パヤパヤパヤパ!)
森脇:あの!

ポーズを決める村人たち。

村人:♪めしあーーがぁれぇ〜〜(ハモれ)
森脇:あの、、
男:はいおっけい!(男、グラサンを外す)
いやぁご苦労さまでした皆さん!はい、お互い拍手!
今日の夜にまた稽古、その後本番!

拍手拍手自画自賛の村人たち。
口々に賛えあう。

森脇:すみません!
村人:?
森脇:あの、

拍手拍手自画自賛の村人たち。
口々に賛えあう。

森脇:楽しそうなとこすみません!
男:オラが村演劇会稽古に突然手伝ってもらっちゃってどうも有難うございました!
森脇:演劇会、、?
男:名演技でした!
村人:(拍手。口々に賛える)
男:人は見かけによりません!ねぇ皆さん!
森脇:どういう意味ですか
村人:(拍手。口々に賛える)
男:のどもと過ぎれば熱さも忘れる!ねぇ皆さん!
森脇:だからどういう意味ですか!
村人:(拍手。口々に賛える)
男:おカミさん以外後かたづけー。
女:あ、差別!
村人:ど!(みんな笑う)
森脇:?

動かない盲目の女と、理解出来てない森脇を残し、
皆、口々に何かを言いながら片付ける。
ついでに女の杖を普通の杖に変える、男退場。

森脇:、、、あのー。
女:はい?

森脇と女の会話の間、駅の中を右往左往する村人たち

娘:おかあちゃんー。くれよんどこー。
女:くれよん?おかあちゃん知らないよそんなの。
森脇:おかあちゃん?
女:ごあいさつしなさい。
娘:くんぬつわー、くれよーん。
女:自分で探して。おかあちゃん見えない。
森脇:あ。(見えないのか)
男:じゃ集合してください!

村人どやどやと集合する。皆、きちんと体育座り

森脇:小学生かおまえら。
村人:どっ!(笑う)
森脇:それほどじゃないです。気を使わないでください。
駐在:都会からいらっしゃったんですか?
娘:え?都会!?都会?!
森脇:いや、
娘:え?!都会!?都会都会?!都会都会都会ぃい?
森脇:うるさい!(つい殴る)
村人:!
森脇:あ、、
村人:(ひそひそひそ)
森脇:えっと、、***娘ギャグ(謝罪系統)***
村人:どっ!
森脇:、、助かった、、
娘:ソレ面白い!
森脇:おまえのだ。おまえの。

一升瓶2、3本もってくる。

男:はい、早朝稽古おつかれさまでした。
森脇:え?酒?
村人:やんややんやあ
森脇:どういう村だ。

村人、マイ湯飲みをどこぞから出す。
互いにつぎあう村人たち

森脇:マイ湯飲み。
女:朝っぱらから、すいません。じゃ乾杯!
村人:乾杯ー!!
森脇:あ、かんぱい。

皆、飲む。

娘:くはー!
女:おっ!おいしい音!
村人:くはー!、、、、、(注目される森脇)
森脇:、、くはー!
村人:おお!おいしい音!
森脇:なんか疲れる。

再びつぎあう村人たち。飲む。

森脇:いいんですか未成年まで?!3歳でしょ?!
男:気にしない気にしない。
男:あ、自己紹介遅れまして。私演出担当の、佐藤忍と申します。
駐在:駐在の中山です!
男:そっちから、ぼんちゃん、おカミさん、太郎。
3人:こんちわー。
森脇:あ、どうも。あの、一体、なんだったんでしょう。さっきの芝居
女:村の有志で演劇会作ってるんです。くはー!
男:代役ありがとうございました。無理やり。くはー!
女:え?無理やり?
駐在:だって駅に稽古の準備しに来たら寝てんだもん。くはー!
少年:無理やり起こして台本渡して、くはー!
女:そうだったんですか、なんか、すみません。くはー!
娘:ああ。くはー!
男:なんせ過疎まっただなかの村ですからジジババばっかで。
少年:電車止まらないもんだから若モン増えねーし。
娘:テレビもねぇ
男:らじおもねぇ
女:車もそれほど走ってねぇ
駐在:おまわり毎日ぐーるぐーる
村人:どっ(笑い)ぐびっ、くはー!
森脇:あ、あの私、アートディーラーの、森脇と申します。
村人:?
森脇:あの、芸術全般のプロデュースとマネジメントを。
村人:??
森脇:平たく言えば、主に芸術作品、美術品のトレードなどを。
村人:???
森脇:えっと、、、商人です。
村人:あ〜〜〜〜。(納得)
森脇:えらい納得されましたね。
駐在:どしたんですか?商人が。
男:物売りつけにきたんだべ。は?
森脇:いやあの、ちょっと、見ていただきたい絵がありまして。
村人:(ひそひそひそ)
森脇:(かばん探る)、、あれ?あれ?無いな。
村人:(ひそひそひそ)
森脇:昨日は確かにあったんです、、あれ?、、どっかに、、。
娘:ひそひそひそ
男:大阪のかただな。
駐在:んだ。
女:んだんだ。
娘:だば、だば。
森脇:いや、違うんですけど。どうして突然なまられたんですか?
男:いーなかもんだと思でばーかにしてぇ。
都会のもんなんでもかんでもホイホイ買うともっだら大間違いだど。は?
駐在:押し売りが?バナナの叩き売りが?
森脇:バナナは美術品には入りません。
娘:おやつ!
森脇:バナナはおやつに入りません。言わせないでくださいこんな事。
女:わだす化粧品だら買うかもど?
駐在:それより奇麗になってどうすんの。
女:やんだー
男:きれいかどーだか見えねぇくせに。めくら。
女:やんだー。差別。
村人:どっ(笑い)
男:へも、すだらぎゃぁ、ぼろんもおじょりいんこごすまろ?
駐在:しゅちゃっく!
女:ほげほえもぉ、だもだいもぉ、あびりばりでぐ!
娘:ちょいやっさ、ちょいやっさ。おじょりいんごすまろ。
村人:おじょりいーんこごすまあろお
森脇:さっきまで普通にしゃべってたじゃないですか!
男:さんだぎゃるべい(立つ)
駐在:あ、さんだぎゃる。(立つ)だいも。ぼ。
女:ああ!さんだぎゃ。(立つ)どら?
娘:どってんまいやー。(立つ)
男:(飲み干す)ばっ
村の人:(飲み干す)ばっ!
森脇:外国かここは!
男:あ!この駅、自由に使っていいですよ。
太郎も住んでるし。
森脇:住んでる?こんな所に?
少年:わりーかよ。
男:こいつんち、火事で全焼しちゃって。な、不幸中学生?
少年:うるせぇ!もう中学生じゃねぇよ!
駐在:なんで学ラン着てんだよ。
少年:服これしかねぇんだよ!
村人:どっ!(笑い)
森脇:、、ははは。
駐在:あ!なんか無くしたんですよねぇ?
後で紛失届けだします?サインします?
女:駐在さん、久しぶりの仕事でうれしいんでしょ。
駐在:はい!取ってきます!(退場)
森脇:あ、ああ。あの。
女:じゃうちから毛布もってきますね。
雪は降りませんけど、冷えますから。
男:じゃ、決まりだ。
少年:こっちの部屋は渡さねぇ。
森脇:すみませんなんだか、よそものが。
女:牡丹、毛布出すの手伝って。
娘:あのおじちゃん宇宙人?
女:どーだろね。後で聞いてごらん(女、娘退場)
男:太郎、枕貸してやれ。
少年:しかたねぇな。
森脇:、、、。
男:みんないい人たちでしょう?
森脇:はぁ。
男:たぶん僕も新参者なんですけどね。
森脇:たぶん?
男:みなさんあっという間に受け入れてくれまして。
今は誰も住まなくなった家に。
森脇:ここの人じゃないんですね。
男:ええ。たぶん。
森脇:たぶん?
男:あ!夜、またお願いしていいですか?
森脇:え?
男:今日も夜から新作台本の稽古です。
役者足りないんです。
森脇:、、はぁ。
男:太郎、台本コピーしといて。
少年(声:うぃー。

少年登場。

少年:枕。

束ねた古本。

森脇:あ、、、どうも。1号2号合併号。、、いつのだ。
少年:文句。
森脇:無いです。

少年、奥へ行こうとする。

森脇:あ、これ、何?
少年:なに?
森脇:「稽古中」
少年:これつけないとよくわかんなくなるから。稽古だか本公演だか。
森脇:え?どういう事?
少年:客なんて一人もこねーから。
森脇:あ、そーか。

ちんもく

森脇:けっこうやってんの。
少年:うん。今日の夜。本公演だ。
森脇:そう。
少年:意味あると思う?
森脇:え
少年:客もいねーのに。
森脇:あ、、どうかな。
少年:俺、無いと思う。
森脇:じゃ、なんでやってんの?
少年:、、、べつに。
森脇:いい人たちだねぇ。
少年:どーだか。みんなこの村の人間じゃないよ。
森脇:そうなんだ。どうしてこんなド田舎に。
少年:おじさんは?
森脇:あー、おじさんは、ビジネス。
少年:、、、ふーん。
森脇:あ、演出の人、へんな事言ってたな。「たぶん」って。
少年:あの人、記憶喪失。
森脇:え?
少年:なんだってさ。
森脇:記憶喪失?ほんとに?
少年:うん。
森脇:いつから。
少年:火事んとき。
森脇:火事。
少年:はやいとここんな村、出てった方いいよ。
森脇:、、
少年:記憶喪失。めくら、サインきちがい、ノータリン。後はジジババ。
ビジネスなんて出来んのかよ。
森脇:ああ。でもなぁ。絵なくしちゃったしなぁ。知らないかな?
少年:、、、。
森脇:ここで寝てる間になくなったんだよ。
そっちで寝てたんだろ?
何か物音聞かなかった?
少年:さぁ。

少年、奥に行こうとする

森脇:、、駅の奥。そっちって、何あんの。
少年:昔の台本とかコピー機とか。村で唯一のインタネットつながるパソコン。
森脇:あ〜、青白い光りの正体はそれか。
改札の車掌室って事?みしてみして。
少年:だめ。
森脇:なんか、おじさんの事嫌ってる?
少年:別に。
森脇:太郎くん。学校行かないの?
少年:学校はやめた。他になんか聞きたい事ある?俺今日の台本のコピーしなきゃ。
森脇:いや、また聞くよ。
少年:、、(背中を向ける)
森脇:あ、ひとつだけ。
少年:、、、。
森脇:この台本って。誰書いてんの?
少年:おカミさん。
森脇:、、あの人目見えないんだ。
少年:みりゃわかんだろ。

少年、奥へ。

森脇:どーもガキに嫌われるな俺は。

手元の台本に目を落とす。

森脇:世間に忘れられたような田舎に住む、
盲目の女性の脚本ってか。
こりゃひょっとすると、売り物になるかなぁ。
ん?タイトル、、。!!、、『Bプラン』

不安な曲(B計画テーマ)
列車が迫ってくる音。ガタン、、ガタンゴトン、ガタン、ガタンゴトン、、
森脇の顔つきが変わる。
森脇、台本を読み出す。
列車に遮られる日光。

ガタンゴトン!ガタンゴトン!ガタンゴトンッガタンゴトン!

照明、森脇を一人にする。
台本を閉じ、台詞。

森脇:事の始まりは、最近しだいに勢力を増している新興宗教。
「自分は宇宙人だ」と信じる人間の集まるコミュニティ。
東京本部、大阪支部、福岡仙台北海道。
そのオカルトサイトの会員数は10万人を越えた。
パスポートになるのは『天使の絵』。
ホームページへのURLが組み込まれたデジタル化された画像。
全国各地にバラまかれたその画像はテレビ新聞雑誌で取り上げられ、
目にしたことの無い日本人はいないと言っても過言ではない。
『黒い天使』。無機質なそのパステル画にはサインがない。
私は同じ画家が描いたと思われる、
『シルクハットの男』の絵を手にいれた。
その画家を探す旅の終着駅で。
ふと、ある盲目の女性に興味を持った。
電車も止まらないような
忘れ去られたこの田舎で、
私はソレを手にした。
そこに広がる彼女の宇宙は、
我々の住む世界を圧倒した。
その宇宙は一体、何で構成されてるんだ。

プロジェクターの映像、『シルクハットの男』

曲上がる。

■4場「お茶」

みちばた。昼間。記憶喪失の男登場。
肉体労働者の格好、ランニング。穴を掘ってる。

冬の鳥の声オオハクチョウ。

男:よっ。ほっ。よっ。ほっ。よっ。ふいー。
酔っ払った後の労働は格別だなぁ。
お、山も奇麗だ。湖も、奇麗だ。

盲目の女、登場。白い杖で叩き捲る

男:いたいいたい!いたい!いたいいたい!
女:あ、すみません。気付きませんで。
男:気付いてください!そのための杖だ!、、?
女:せいがでますねぇ。
男:、、
女:まだ出てきませんか?もう半年になりますでしょ?(客)
男:こっちですこっち。それ、えーと、蛙です。
女:うぇ!蛙?きもちわる!
男:こら!
女:すみませんー
男:蛙に謝ってください。(礼)
女:(礼)まだ出てきませんか?
男:ええ。すみませんねぇー、毎日毎日。
女:いんですよ、今日、お店おやすみにしようかって。
男:自由でいいですね。
女:どうせお客さん来るわけじゃなし。
男:そうか。お客さんったって僕らだもんな。
あ、足元気をつけてください。だいぶ奇麗になったと思うんですけど。
女:ほんとだ。随分歩きやすくなったみたい。
男:そこ、玄関です。さっき発掘しました。
で、ここがリビング。そんで、ここがキッチン。
広い屋敷だったんですねぇ。いいなぁ。一戸建。
僕、間取り好きだったみたいで。
たまにアパートマンション情報とか立ち読みしたりして。
5LDKとかありますか?もっと?
女:こんな田舎に似合わないような洋館でしたから、
おばけが出るとかウワサされてたんですよ。
男:出たんですか?
女:まさか。はいコレ、お弁当。行きますよ。はーい。(違う方に投げる)
男:ああ、ぎゃく!(拾いに行く)
女:あ、すみません。
男:今しゃべってたじゃないですか!
女:ね。
男:ねじゃないですよ。いただきます。仕事いただいた上に、すみません。
女:ほんとは機械とか、あればいんでしょうけど。
毎日大変でしょう、お一人で。
男:おカミさんだって、この火事以来、
一人でお店きりもりしてるじゃないですか。
女:いちお。牡丹もいますから。
男:半年前の火事。ひどい火事だったなぁ。空がまっかで。
となり町から消防車ついた時にはもう全部燃えてくずれちゃってて。
太郎もおカミさんも無事で良かった。
、、みつかるといいですねぇ、ご主人。
女:、、ええ。
男:あ、ごめんなさい!いや、ここじゃなくて。
ひょっこりどっかから現われてくれればって。そういう意味で。
女:そんなに気を使わなくても。
主人って言っても結婚してたわけじゃないですから。
年もずいぶん離れてたし。あの人と出会って1年も経たないうちに、あの火事で。
私、もう気持ちの整理もつきましたから。
あの人出てきたら、お気づかいなくおっしゃってください。
男:、、はい。
女:どうですか?何か、出てきました?
男:少しづつ掘り返してんですけどねぇ。
一向に出てきませんねぇ、何も。、、僕の記憶も。
もう半年経ったんですねー。僕の記憶も、あの日からですから。
真っ赤に燃えさかる炎。その前の記憶が何もない。
たまに、なんかふっと思い出しそうになるんですけどね。
こう、掴もうとすると、逃げてくっていうか。
ぼくの名前も、佐藤なんだか。なんなんだか。
女:焦る事、無いですよ。
男:焦ってるわけじゃないんですけど、
なんかしてないと落ち着かないっていうか。
あ、太郎にインターネットで調べてもらったんですけど、
人間の脳はその場所によって記憶する事が違うんだそうです。
僕の場合、日常知識があるのに自分のことだけを忘れてます。
つまり、それほど重傷では無いんです。
外因性の記憶喪失び場合は、比較的早く記憶が戻る事が多いそうです。
、、でももう、半年たっちゃったなぁ。
外因性、、じゃないのかなぁ。とか。わはは。

ちんもく

女:、、お茶、いれましょうか?
男:あ、すみません。

女、ポットからお茶をいれる。
男、その様子をみてる。

男:、、、。
女:どうぞ。ちょっとぬるいかもですけど。
男:どうもありがとう。
女:いえ
男:なんか、いいなぁ。
女:え?
男:いや、こやって人に何かして貰うのって。
女:こんな事ならいくらでも。
男:もう忘れちゃってますけど、
僕はそういうのに縁遠い生活をしてたような気がするんです。
女:、、。
男:、、いただきます。ぶーーーーーー!!!!(吹く)
女:どうしたんですか?面白い音出して。
男:しぶい!粉っぽい!つぶつぶ!にがい!なんだこりゃ!
女:あ!もしかしてあたし、
お茶っ葉と間違えてオリジナルブレンドコーヒー粗めに引いたものを!
男:オリジナルブレンドコーヒー粗めに引いたものですか!
女:すみません!
男:いや、いんですいんです。あれ?
女:え?
男:今、なんか、、
女:どうしました?
男:今、なんかこう、なんていうんですか?デジャブ?っていうんですか?
女:思い出せそうですか?
男:うーん。ずっっと前になんか、、同じような事が、、
女:あったんですか?
男:わかりません。逃しました。
女:あたし!明日もオリジナルブレンドコーヒー粗めに引いたものを煮出してきます!
男:結構です!結構!

遠くの冬鳥の声(オオハクチョウ)

男:聞こえます?さっきから飛んでんです。
なんて鳥ですかね。あれ。
奇麗にV字になってますよ。
女:たぶん、冬鳥だと思います。
男:冬鳥。
女:オオハクチョウとか、ガンとか、カモ。
村の向こうの湖にくるんです。
冬の間だけ日本に渡ってくるんです。
男:へぇ。わざわざ。
女:冬が終わったら、違う所にいっちゃうんだそうです。
男:へー。渡り鳥ってやつだ。
どっちの住まいが本拠地なんでしょうね。
あっちか、こっちか。
女:、、ええ。

遠くの冬鳥の声

男:、、僕は、この村の人間では無いんですよね?
女:太郎ちゃんと村のご老人たち以外は、みんなどこかからやってきたみたいです。
男:この村の人間だったら良かったなぁ。
女:、、なんでそう思うんですか?
男:なんだか、汚れがなさそうで。
思うんです。もし記憶を取り戻して、本当は汚らしい人間だったらどうしようって。
ま、今の僕が美しいかどーかは別として。
女:、、。
男:ここの暮らし、気にいってんです。
寒い!雪降らないのが、せめてもの救いですね。
寒いときは動け!さっちゃっちゃとほっちゃおう。次はリビング!
女:それじゃあたし、戻ります。
男:はい。あ、今日の新作。楽しみにしてます。
女:(礼)

女、ゆっくりといなくなろうとする。

男:、、、あの。
女:、はい?
男:僕、最近恐い事があるんです。
女:、、恐い事?
男:記憶が戻るかわりに、記憶を無くしてるその間の出来事を忘れるんでしょーか。
女:、、
男:ほら、たとえば今とか。お茶うれしいとか。息白いなぁとか。
山、奇麗だとか。冬鳥とか。鳥鳴いたとか。なんでもない事。
、、そういうの、わすれちゃうんでしょうか。
、、なんか、恐いんです。
女:忘れないと思います。
男:、、
女:私は、忘れないと思います。
男:、、、、

遠くの冬鳥の声

男:送ります。
女:すみません。
男:今日弁当なんですか?
女:にっぽん弁当。
男:なんすかそれ!日の丸じゃないんすか!
女:にっぽん弁当。
男:気になる!

男、女退場。

■5場「幸せのかたち」

駅の中

森脇:、、、、、、、、。

携帯電話をとりだし、かける。

森脇:圏外、、、。
太郎くん〜、このあたりは、全部圏外〜?
、、、、、、、無視、、、と。
なんとなく嫌われてるな、俺。ま、今に始まった事じゃねーか。

振ってみる。キャッチしてみる。ジャンプしてみる。
髪の毛で静電気してみる。少しほっといて、みる。

森脇:太郎くん〜、、、ネットかしてー、、、無視、、、と。

娘登場。

娘:?

振る。キャッチ。ジャンプ。
髪の毛。少しほっといて、みる。

娘:♥

振る。キャッチ。ジャンプ。
髪の毛。少しほっといて、みる。
その様子を真似する娘。

森脇:はー、いかん、酔いがまわった。
娘:はいもっかい!
森脇:え?

振る。キャッチ。ジャンプ。
髪の毛。少しほっといて、みる。
その様子を真似する娘。

森脇:やらすな!
娘:何ていう遊び?
森脇:決めつけてんじゃねーよ。仕事のうちだよ。
娘:ほら毛布。(投げつける)
森脇:のあ!あー疲れた。(寝転がる)
娘:あー疲れた。(寝転がる)
森脇:真似すんじゃねーよ。
娘:まぬすんじゃめーろ。
森脇:おめーにいってんだよ
娘:おめーぬいってんばる。
森脇:一文字二文字違うんだよ。
娘:みもふたもねーんだよ。
森脇:だいぶちがうよ。
娘:内部紛争。
森脇:そうきたか。俺はおまえと低レベルの会話してる暇なんてねーんだよ。
娘:こっちの台詞だこのやろう。
森脇:てめえ。
娘:やんのかコラ?
森脇:他んとこで遊べよ!何しに来たんだよ。
娘:ボタボタのボタ雪の練習を宇宙センターでタロちゃんと。
そんで雪色に雪色のくれよんのやり方で宇宙と交信して
かあちゃんに褒めてもらおう。いーひっひひひ。
森脇:、、おまえに質問した俺がバカだったよ。
娘:先生が火事で死んだのでタロちゃんが先生の番。
森脇:火事で死んだ?
娘:油の絵に火をつけて。タロちゃんいなくて良かったなぁ。
森脇:油絵。
娘:全部まっくろこげ。でも見つからないんだけどな。
森脇:おい。
娘:全部燃えたんかな。
森脇:そいつ画家?
娘:ホネホネ
森脇:絵描く人か?
娘:タロちゃんおじさん。
森脇:絵、いっぱいあったか?家に。
娘:宇宙人のおじちゃん。
森脇:らちあかねえなおめぇじゃ。おい、太郎!太郎くん!
娘:タロちゃん宇宙と交信中〜。

奥へ行こうとする。

娘:とお!(ドロップキック的なアタック)
森脇:のわ!
娘:じゃまする男はあいさつがわりにぶったぎるよぅ。
森脇:めんどくせぇガキだなぁ!ころころころころこのやろう!
娘:失礼だな!(痛いケリ)
森脇:いて!ただ痛い!
娘:ふっっふっふっふっふ。
森脇:ちくしょう俺をそのへんの優しい大人だと思うなよ?
娘:きぃ!

追う逃げる回る、駐在

駐在:なにしてんですかちょっと!
森脇:おういいところに来た。そのガキつかまえてくれ。
駐在:え?

駐在加わる。回る

駐在:落ち着いてください3歳児相手に!
娘:わははははははは
森脇:俺だって年がいもなくこんな事したくねぇよ!
娘:わははははっはは
駐在:ああ!目がまわる!

少年登場

少年:全員!コミカルな動きをやめろ!!

3人ぴたりと。止まれない。

娘:おー、先生ー。
少年:大人と子供が何してんだ。
森脇:、、きもちわるい。
駐在:いったん出ましょう。ね。森脇さん。(柱に)
森脇:それ柱だよ。
駐在:ほんとにまっすぐ歩けない。
森脇:何しに登場したんだ。都合の良い奴め。
駐在:ほっといてください。サインください
森脇:うるせえ。

森脇、駐在退場。

少年:なんだあれ
娘:せんせー、今日も髪サラッサラのスネオみたい
少年:うるせえ!
娘:今日は降るかなぁ。
少年:雪か。
娘:外でお願いしてきたんだけど。宇宙人に。
少年:ふらねーよ。聞いた事ねーもん、雪降ったとか。

クレヨンをみせる。

娘:問題出してー問題。
少年:しかたねぇな、はい、じゃー、赤。
娘:あか
少年:赤
娘:んー。これか。
少年:そうそう、これで、*****のりつっこみ*****。だって青だもん。あか。
娘:んー。これか。
少年:これこれ。*****のりつっこみ*****。だって黒なの!。違う。赤。
娘:はい。
少年:もう無理だ。無理。ギブアップ。
なんで色の名前覚えられねんだよ。おまえ。
娘:へへへ
少年:褒めてねぇよ。例えばこれは?
娘:便座。
少年:え?
娘:便座の色。うちの。今は違うけど。
少年:、、何言ってんのおまえ。
娘:新しく変えたから便座シート。ペロンって奴。
少年:、、、便座色。
娘:便座色。前の。
少年:、、便座色。
娘:前の。
少年:オっケーわかった。これ。
娘:山!夏の!
少年:これ。
娘:秋の!山!
少年:じゃ、これは。
娘:口びる色。
少年:よし。じゃ、これ。
娘:うんこ!肉!
少年:早いよ。じゃ、
娘:うんこ!魚!
少年:まだ出してねぇよ。
娘:便秘?
少年:そういういみじゃねぇよ。
娘:あー楽しかった。勉強になるなぁ。
少年:まだ何もおしえてねぇよ。勝手な名前つけやがって。
娘:これ。雪色。
少年:あ?白だろ。白。
娘:あたしの色ー。
少年:なんで?
娘:牡丹だから。牡丹はボタボタのボタ雪の牡丹。
少年:なんだそれ。
娘:ほんとは、牡丹雪。でも、空からボタボタ降ってくるんだって。だからボタ雪。
少年:花の名前じゃねーの?
娘:雪の名前。粉雪、細(ささめ)雪、花片(はなびら)雪、吹雪、大雪、小雪、牡丹雪。
少年:なんだよそれ。突然頭良くなったな。
娘:形で雪の名前が形変わるんだって。
あたしの名前、ぼたん雪から来てるって、おかあちゃんが。
空から牡丹の花、ぼたぼた降ってくんの。
少年:へー、雪の花、空からおっこってくんのか。
娘:ゆっくり、ふわぁーーーっと。まっすぐ。ぼたぼた
少年:ゆっくり、ふわぁーっと、まっすぐ、ぼたぼた。
娘:おかあちゃんが雪の降る町から来たんだって。
少年:おかあちゃんねぇ、、。
娘:おかあちゃん。目見えないけど。
少年:ふーん。でも、そんな雪、想像できんな。
娘:見てみてぇ。、、それをおかあちゃんに見せる。
少年:、、でもなぁ。
娘:褒めてくれるだろか。
少年:どやってみせるんだよ。目、みえねぇだろ。
娘:絵にする。
少年:絵にしたら見えんのかよ。
娘:うん。
少年:なんで?
娘:わかんない。
少年:わかんねーの?
娘:わかんない。
少年:、、、やっぱアホだなおまえ。
娘:今日は、雪のやり方を習いたい。
少年:しかたねぇな。どら。
娘:スケッチブック!
少年:おう。
娘:雪の絵。もう、いっぱい描いたんだけどさー。

娘、白いスケッチブックに、塗られた白いくれよんの絵をみせる。

娘:ほら、ほら、ほら。
少年:なんも描いてねーじゃん。
娘:ちがうちがう!よくみろ。近くで
少年:、、、あ。
娘:ね。
少年:そうかぁ。
娘:雪色に、雪色やっても駄目だ。
少年:そうか。
娘:だから雪のやり方が知りたい。
少年:、、ああ。いいよ、教えてやるよ。
娘:やったぁ!ぽーぽーぽー
少年:でけえ3歳児だな。
娘:まーな。宇宙人の子供だからな。
少年:、、。
娘:宇宙人の子だから地球人の子みたく出来なくてもしかたないんですぞ。
少年:そんな事誰言ったんだよ。
娘:お母ちゃんですぞ。
少年:、、
娘:地球人的にアホでも宇宙人的に天才だもん。
まだ3歳なのにこんなにしゃべれてえらい。
少年:、、それでいいのかよ。
娘:宇宙センターに通って先生に絵習えればよい。
少年:だからぁ先生ってやめてくんねーか、それは、火事で死んだおじさん。
娘:いなくなったから変更。タロちゃんたくさんもの知りで魔法の箱も使えるから。
少年:パソコンは、中学校行ってた時に習ったの。
娘:えらい!
少年:えらくねぇよ。
娘:えらいえらい!
宇宙人の子が言ってんだ。先生えらい!
少年:牡丹。
娘:ん?
少年:ボタボタの牡丹雪、見たいだろ。
娘:見たいみたい!
少年:、、見せてやろうか。
娘:え?
少年:誰にも言わないって約束するか?
娘:いわないいわない!
少年:俺、計画があるんだ。
娘:計画?
少年:こんな村出るんだ。
娘:どっかいくの?
少年:いく。こんなとこ出るんだ。
一緒に来るなら、見せてやろうか。
牡丹雪ボタボタふってるの、見せてやろうか。
娘:よし!見せて貰おう!
少年:約束な。
娘:約束な。
少年:そんで。
娘:そんで?
少年:、、てやんでい!なんでもねぇや!
娘:お、江戸っ子!
少年:立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花つってな!
娘:なにそれ!
少年:おまえのかあちゃんの台本に書いてあったろ
娘:もっかいもっかい!覚える
少年:おぼえれんのか?
娘:毎日いう。忘れる前に必ず言う。
少年:立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花
娘:立てばしゃくしゃく
少年:やく
娘:先生もっかい。
少年:たてば、
娘:たてば
少年:しゃくやく
娘:しゃくしゃく百合の花。
少年:ちぢめんじゃねぇ。
娘:先生
少年:先生じゃねーよ。まんざらでもねーよ。
娘:たてばしゃくしゃくしわればボタン、あるくすがすがゆりのはな!
たてばしゃくしゃくしわしわボタン、あるくすがすがゆりのはな!
少年:あー、もう、わかったわかった。
娘:でもサラッサラのスネオみてえ
少年:うるせえ
娘:あ、いかないと!ほら早く!
少年:どこ?
娘:雪!ほら、早く!
少年:おい!
娘:たてばしゃくしゃくしわればボタン、あるくすがすがゆりのはな!
たてばしゃくしゃくしわしわボタン、あるくすがすがゆりのはな!

次第に調子をつけて行進しだす娘。
曲上がり、照明、少年を一人にする。娘退場。
曲下がり、独白

少年:こんな電車も素通りするような、出るんだ。
そんで、そんでそんで!
金持ちになって、いろんなとこ行って、
ボタボタの牡丹雪見て、そんで、
偉い先生みつけて、そんで、おまえのアホの頭治してやる。
おまえは宇宙人の子供なんかじゃねーって。
そんでそんでそんで!

遠くから聞こえる、SE電車が通る音。

!うるせえええ!
そんで、そんでそんで!
大人んなって、バカじゃなくなって、そんで、、
うるせぇって言ってやんだ!うるせえ!うるせえ!うるせえって言ってやんだ!

娘(声):たろちゃーーーーーーん
少年:、、牡丹。、、、わかったって!

駐在、森脇

駐在:サインください!サイン!
森脇:だから、やったろぉ。紛失届け。
駐在:違います!こっち♥(色紙)
森脇:なんでそんなもん持ち歩いてんだよ!
駐在:サイン!サインさいん!
森脇:ねぇよそんなの。芸能人じゃあるまいし、
駐在:いや!その顔はあるとみた!
森脇:小学校ん時、考えた奴、なら。
駐在:そんなん貰っていんですか?!
森脇:そんなん書いていいのか!
駐在:趣味なんです!サイン集め!
森脇:こだわりのねぇ趣味だな。
駐在:いいですか?!
森脇:わかったから。貸せっ。
駐在:日付、いれてください。森脇さん。
森脇:うるせぇな。
駐在:うほほほほ
森脇:寄るな、書きにくい。

牡丹

森脇:ん?
娘:んんんん
森脇:なんだ。うんこしてえのか?
娘:違う!

少年

少年:あ、こんちわー。
駐在:なにしてんの?
少年:宇宙人と交信中。
森脇:は?
娘:んんんんん、ば!
森脇:なんだそれ。
少年:雪、降らすんだと。
娘:んんんん、ぼ!
森脇:変わったぞさっきと。
娘:ほら、早く!
少年:えええ。
駐在:なになに、どやってやんの。
娘:んんんんん、どばぁ!
駐在:んんんん、どば?
娘:ほらタロちゃんほら。
少年:どうすんだよ。
娘:んんん、どばあぼああ
少年:なんだそれ!
森脇:じゃ、私は、そろそろ札幌に
少年駐在:まてえ!
森脇:いそがしんだよ
娘:やれこら!
森脇:やだよ!
娘:うるせぇ!
森脇:そんなことやっても雪ふんねぇこの!
娘:やだあ!!
森脇:やだじゃない!

男、女

駐在:んんんん、どば?
男:何してんの。
森脇:ちょっと助けてくださいよ。
娘:おかあちゃん(泣)!
女:どした?
少年:泣かした。
女:なんだとこのやろお!
森脇:いやちがうちがう、あのね
娘:だーやばばーやだーだ!ばーじゃーごーじゃ!
森脇:何言ってっかわかんねぇ
女:子供の夢をおお!!
森脇:わかったのか!
男:おっけい!
女娘駐在:んんんんん、ば!
少年男:んんんん、ぼ!
村人:んんんんんっば!(以下、ばらばらに続ける)
森脇:、、、、

森脇、逃げる、つかまる、
自分だってやらされてんだからと村人
結局、やることになる森脇。

曲聞こえている(SE-NO smile bird)

じょじょに夕暮れになる風景。
ゆっくりと照らされる幸せの景色。
道端の二人、オオハクチョウをみる。その様子を教える男。
無人駅の二人。絵を教える少年。笑う娘。
駐在と森脇、サインをせがまれ、いやがる森脇。

録音による女の声。

『彼女は次の計画を思いつきました。
彼の計画とは別の、次の計画を思いつきました。
誰にもじゃまされない、自分のそらを探しました。
そして彼女は、目をとじたのです。
まぶたには彼女の宇宙(うちゅう)が広がりました。』

幸せの景色。

その景色を描き消すように列車。
ガタンゴトン、ガタンゴトンッ、ガタンゴトンッ、ガタンゴトン、

暗。

■6場「雨」

雨の音。サアアアアアアアァアァアアァァアアッァ、、、

明。無人駅の中。森脇、一人でつったってる。
駅の、ある一部をみつめてる。
狂人のようにも見える。

森脇:、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、。
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、。
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、。
、、、、、、、、、、、、、、、ああ。なるほど。

メモ帳に何かを書き出す。
駅のある一部にさわろうとすると、駐在。

駐在:いやぁ、結構降ってきましたよ。
森脇:そうだねぇ。
駐在:見つかりませんか?
森脇:え?何が?
駐在:絵ですよ。絵。
森脇:あー、ね。出てこないよ。困ったなぁ。
駐在:あんまり困ってなさそうですね。
森脇:いやいや、困ってるよ。困ってる困ってる。他は?
駐在:雨じゃ仕事にならないっていうんで、みんな居酒屋で飲んでます。
森脇:居酒屋?
駐在:はい。おカミさん、屋敷の火災保険でお店始めたんですって。
森脇:受け取り人だったって事?
駐在:籍は入って無かったみたいですけどね。
森脇:内縁の妻ってやつか。
駐在:良かったら、行きません?居酒屋。って呼びに来たんですけど。
森脇:俺?
駐在:どうですか?
森脇:皆さん、仲睦まじいこって。
駐在:みんな仲良しで、いいですよね。
森脇:そういう意味じゃねぇよ。
駐在:は?
森脇:一番長くいるやつ誰だ。
駐在:あ、えーと太郎です。
森脇:え?
駐在:太郎。
森脇:あ、あの目の細い。
駐在:はい。
森脇:肩の無い。
駐在:はい
森脇:幸薄い
駐在:いいすぎです。
森脇:あのさ。太郎ってのはさ。火事になった屋敷の息子なの?
駐在:違います。
森脇:違うのね。
駐在:可愛そうな奴なんです。
小さい時に母親が蒸発して、そのうち父親も女作って、
学校じゃいじめられて、中学1年から登校拒否。
親戚中たらい回しにされたあげく、
遠縁のおじさんのとこ預けられて、この村来て。
森脇:それが、あの屋敷か。
駐在:あ、行ったんですか?
森脇:え?ああ、やる事ないからさ。
駐在:ひどい火事でしたよ。
森脇:相当金持ちだったな。
駐在:そのおじさんってのが偏屈な画家で。
森脇:どこいったんだろうな。絵。
駐在:は?
森脇:掘っても掘っても燃えカスすら出てこねぇって言うじゃんか。
駐在:あ、詳しいですね?
森脇:牡丹っつーのは、あれ。なんだ。
駐在:モデルです。
森脇:は?
駐在:絵の。
森脇:モデル?
駐在:だったってきいてます。
森脇:ちびっこモデルか?
駐在:本人わかってないでしょうけどね。
森脇:あれは、昔から頭おかしいの。
駐在:さぁ、僕がここに赴任してきた時にはすでに、
森脇:3歳か。
駐在:ええ
森脇:ほんとは何歳だ?
駐在:、、さぁ、15、16、17、、うーん。
森脇:宇宙人の子供。
駐在:地球人ですよ?ホントに。
森脇:わかってるよ!おカミさんに言われてんだろ?
宇宙人が簡単に居てたまるか。
駐在:詳しいですね。
森脇:近所のジジババに、ちょっとな。
駐在:聞き込みですか?なんか刑事さんみたいですね。
森脇:誰が。
駐在:森脇さん。
森脇:まさか。俺は金の事しか考えてねーよ。
駐在:え
森脇:間違い。アートの事。アート。
駐在:アート。
森脇:あの記憶喪失の男は?さとうしのぶ。
駐在:あー。わかりません。
森脇:わからない?
駐在:火事の時に、記憶喪失になったんで。
森脇:その前は?
駐在:いなかったです。
森脇:どこの誰ともわからんような記憶喪失の男を
土方で使ってるわけね。おカミさん。

強くなる、雨。

駐在:久しぶりだなぁ。雨。
雨っていいですよね。なんか全部洗い流される感じがして。
森脇:洗い流して、奇麗になりゃいーけどなぁ。
駐在:、、そんなに調べて、どうすんですか
森脇:駐在さん、
駐在:はい。
森脇:童貞なんだってね?
駐在:なんですかいきなり!!
森脇:がんばんな。
駐在:や!やめてくださいよ!僕は大事にしたい方なんですから!
森脇:わはははは
駐在:違う話題違う話題!あ!そうだ!
夜、新作台本の稽古ですよ!あ、コピー出来てる!
森脇:読んだよ。
駐在:手伝って貰えますか?
森脇:まぁ、気が向いたら。
駐在:、、、。

立ち去り際

森脇:駐在さん
駐在:はい?
森脇:奇麗なもんは、大事にしたらいいよ。
駐在:、、、。
森脇:一回汚くなるとおしまいだ。

森脇退場。

駐在:あの!、、、傘。
、、、、、いい人だなぁ。俺。

「さゅうざい」のバッジを触る。

駐在:これ、ぼんちゃんが作ってくれたんですよ。
字、間違ってるんですけど。
、、うれしかったんです。俺は。

雨の音。駐在、退場。

■6場「壊れ始め」

曲(SE-NO 日だまりの中に)
女登場、サス、一礼。カッターをマイクのように持ってる。

女:雨降って、地固まると申します。
町に雨が、降り注ぎ、雨は、全てを洗い流し、正常な世界に戻します。
女は思いました。
「しかし私はずるくて汚すぎて、
後に残るものが奇麗であればいいのだけど」と。
朝雨は女の腕まくりと申します。
女が腕まくりとして大した事ではない。
女の力など男の力にくらべればなんでもない。
女は、あらがい方を知りません。

カッターの刃をゆっくりと出す。

男:やめろおお!!

明、劇的空間にサラリーマンの男、台本をいちお持ってる。

男:どうしてそんな事!
女:止めないで!止めないでおくんなまし!
男:止めずにいられるだろうか!いや止めずにはいられないだろう!
女:私!あなたの人生をズタボロにした!ズタボロにした!
男:ズタボロにされたってかまいやしないさ!
女:私は!私の罪をつぐなわなくちゃあいけません!
男:罪ってなにさ!罪ってあんたなんなのさ!
女:あたしの罪!あたしの許されない罪!

娘、台本をいちお持って登場。

娘:かあちゃん!
女:牡丹!
娘:かあちゃんかあちゃん!
男:おい!おまえの母ちゃんを止めろ!
女:見てて牡丹!
娘:はいかあちゃん!
男:止めろ!なんでもそやって言う事聞くな!
女:動かないでぇ!!
男:やめろってぇ!

女、ゆっくりと自分の耳を切りとる。
SEブキャウ。
耳、取れる。

女:受け取って、これ、あたしの落とし前だから。
男:あああ!なんてこと!これ、ちょっと、、ちょっと
娘:でっかくなっちゃったね。
男:言わせてくれよおおおおおお!!

駐在(ヒゲ)

駐在:ゆりー!!!
女:あんた!
男:あんた?
駐在:何しているんだ百合!
こんな所で耳切ってないで!さっさと家に帰るぞ!
男:ちょっとまて!一体それはどういう事だ!
駐在:なんだこの男は。
女:動かないでぇ!!

女、ゆっくりと自分の耳を切りとる。
SEブキャウ。
耳、取れる。

女:受け取って、これ、あたしの落とし前だから。
駐在:あああ!なんてこと!これ、ちょっと、、ちょっと
娘:でっかくなっちゃったね。
駐在:言わせてくれよおおおおおお!!

少年(学ランスーツ)

少年:ゆりー!!!
女:学ランスーツ!
駐在男:学らんスーツ?!
少年:何耳切ってんだ百合!
てめえ宿題終わったら観覧車乗ってユッサユッサゆらしまくる約束だったろぉ!
駐在:なんだこの学ランスーツは!!
女:動かないでぇ!!

女、ゆっくりと自分の耳を切りとる。
SEブキャウ。
耳、取れる。

女:受け取って、これ、あたしの落とし前だから。
少年:あああ!なんてこと!これ、ちょっと、、ちょっと
娘:でっかくなっちゃったね。
少年:そんな事じゃねぇ!!!
耳、何個持ってんだよおぉおおぉおお!
駐在男娘:おおお(拍手)

カッターを落とす。カタン

少年:早く行こう百合!
駐在:戻って来いよ百合!
男:百合!
女:、、、、
男:君のために考えた、完璧な計画があるんだ百合!
僕には計画がある!
僕には、誰にも負けない計画があるんだ百合!
女:、、聞こえない
男:僕が君にあげる普通の幸せ。
女:、、聞こえない。
男:君のため、僕の家族のため。
女:、、聞こえない
男:月曜日、僕はまた家族のために会社へ行く。
僕を迎えるあったかい家庭のため
女:きっと、あなたのため。
男:え
女:それはきっとあなたのため。
男:そんな事ない!
女:あたしの声が聞こえる?
だからあなたから逃げ出したの。
男:聞いてくれ!百合!
女:聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない!
男:、、、、
女:ねぇ。、、あたしの声は聞こえてる?
男:聞こえてるよ。
女:あのね、あたしね。
男:うん
女:あのね、あたしね。
男:聞こえてるよ!
女:だめだ、きっと聞こえてない。
男:聞いてよ!聞こえてるよ!
女:ねぇ、牡丹。
娘:はいかあちゃん!
女:いいね。
娘:はいかあちゃん!
女:言われた通りできるね。
娘:はいかあちゃん!
女:立てば、芍薬、
娘:立てば、芍薬
駐在:ちくしょう。
女:座れば、牡丹。
娘:ぼたん!
少年:ちくしょうちくしょう
女:歩く姿は、
娘:百合の花!(カッターを渡す)
男:ちぃいいいきしょおおおおおお!!!!
駐在:うわぁあああああ!!

娘、銃を持ち、円を描くように走り出す。
女立ち回り、くるくると回り、ほとんど動かない女。
女に切られる駐在、SEキィン!ズバアア!
娘、とどめを刺す。SEズキュゥゥゥウゥン!

駐在:なんで。

切られる少年、SEズバアアア!ズバアア!
娘、とどめを刺す。SEズキュゥゥゥウゥン!

少年:必ず

切られる男。SEキィン!ズバアアアアア!

男:殺されるんだ。

娘、とどめを刺す。SEズキュゥゥゥウゥン!

女:あんたああああああああああああ!!!!!!!!!

くずれおちる、女。

娘:おかあちゃん。
女:え?

娘、女をなでる。

娘:泣いとる。
女:え?あ、泣いてない泣いてない。
娘:泣いとる。
女:ぼたん、これ、お芝居。
娘:目。水。泣いとる。
女:これは、嘘の涙
娘:そんなのねーよ。
女:、、ぼたん、、
娘:どっか痛い?
女:痛くないよ。
娘:元気ないな。
女:、、あるよ。
娘:おかあちゃん、牡丹のおかあちゃんになってからずっと元気ないな。
女:、、ぼたん、、何言ってんの
娘:ボタボタの牡丹雪、見たい?
女:え?
娘:ボタボタの牡丹雪、見たい?
女:でも、おかあちゃん、目。
娘:大丈夫大丈夫!
女:でも
娘:元気だせって!(ばん)

女の背中を叩く娘。

娘:大丈夫だかだ!(ばん)
まかしとけって!(ばん)
安心しれって!(ばん)
笑って笑ってえ!(ばん)
女:でもね。
娘:ほら、にこ!こう、にこ!宇宙一きれーだ。
女:、、見たいなぁ。
娘:ん?
女:今、あんたの顔、みたいなぁ。
娘:わかったおっけー。

女、娘の胸にもぐる。

娘:泣いた!
女:泣いてない泣いてない。
娘:だれだ泣かしたの!
女:泣いてない泣いてない。
娘:おまえか!この!
女:泣いてないってばよ
娘:だってばさってばよ
女:だってばさってばよぉ。
娘:わはははは

じゃれはじめる女と娘。

男:、、、、。
少年:、、、、。
駐在:、、、、、。

止められず、ただみてる男ども。

曲、少し上がり、切れる。

森脇:おお!やってますねぇ!

私!台詞あります!?
男:いや、あの
女:あ、今日もやってくれるんですか?
森脇:どこですか?ここ?僕?
『どいつもこいつも善人ぶりやがってぇ。
嘘まみれの笑顔が気にくわねぇええんだよお。
女の涙は真っ赤な蛇口。出してりゃそのうち熱くなる。ってかぁ!』
男:ちょっと、
駐在:まぁまぁ
森脇:素晴しい!素晴しいですよー!先生!
女:やめてください本気にしますよ?
森脇:本気ですよ。
女:、、。
男:酒とってきます。
森脇:あれ。どうかしました?
男:別に。
女:あ、ぼたん、店から持ってきて。
娘:あいー。のもーのもー

男、娘退場。

森脇:あれ?なんかしました?わたし。
駐在:いや、まぁ、ちょっと間が悪かったっていうか。
森脇:あーそーですかー。全然きづかなかったなぁーぜんっぜん。

少年立ち上がる。

少年:宴会終わったら呼んで。
駐在:どこいく?
少年:奥。
森脇:なんかそうとう間が悪かったみたいですねぇ。
女:いえ。気にしないでください。
森脇:しかし素晴しい。実はそこで見せて貰ってたんですよ。
駐在:あ、そうなんですか?
森脇:なんだか、芝居だか現実だかごっちゃごちゃになって、
こりゃどーしよーもないなぁと思って、
止めたんですけどね。つい。
駐在:、、そういう言い方は、ないんじゃないですか。
森脇:すいません。長年アートの仕事なんかと関わってると、
こう目線がね、お客さんのように素直じゃなくなるというか。
最終的に、人に見せる事考えてしまうわけで。
駐在:これは人になんて見せないです。ですよね。
女:ええ。まぁ。
森脇:もったいないなぁ。もったいない。
女:え
森脇この電車も止まらないようなド田舎に埋もれていくのかと思うとね。
なんだかこー、せつないですよ。アートディーラーとしましては。
せっかくの素晴しい台本だってのに。
女:なんか、都会の人にそう言っていただけると、うれしくなっちゃいます。
駐在:あ、僕も思いました。今までと違うっていうか。
いいですよ今回の。なんかこう、グっと来ます。
女:駐在さんまで。
森脇:そうだ。駐在さん。私ちょっと、私のサインで訂正したい事ありましてね。
すんませんが取ってきていただけますか。
駐在:今?
森脇:今。、、お願いします。
駐在:、、

森脇と女を残し、退場
雨の音、ザアアアアアアアアアアアアアアアアア

駐在:あー、また降ってきましたねぇ。
女:絵、出てきました?
森脇:いや、紛失届けは出してもらったんですけどね。
女:この村で事件なんて、火事の時以来無いんですけどね。
森脇:ま、どっか私が置き忘れたんでしょ。
だいたい見当はついてるんです。
おかげで色々面白い事がわかってきましたよ。
女:、、、
森脇:ところで。この物語なんですけど。
これは、おカミさんの自伝的要素が絡んでるとみましたが、どうですか?
女:まさか。そんな事ないです。
森脇:そうですか?
女:、、、、。
森脇:自分の罪を償うために、
ヒロインが自分の耳をカッターナイフで切り取るくだりとか。
女:、、。
森脇:この、ヒロインが自分の子供を降ろしたかわりに、
捨て子を手にいれるくだりとか。
女:そこまで熱心に読んでくださるなんて、有難うございます。
森脇:自分におきかえて考えてみましたよ。俺だったら無理だなぁ。
だって女房が男作って子供作って蒸発したって話しでしょ。
耳つぶした程度でそんな事、チャラになるのかなぁ。
それでも一緒にいるこの男。許してるんですかねぇ。
しかえしじゃないですか?
女:しかえし、、
森脇:目つぶろうが耳ふさごうが世界は変わらないんだ。
女:え

森脇、過去作品の原稿の束を出す。

森脇:読ませていただきましたよ。これ。
あなたが書いた歴代の作品を全部。
こんなにある。この村に来てからかかれたんですか?
女:まぁ。
森脇:おっと

森脇、突然、原稿の束をばらまく。

女:、、、。
森脇:すみません。手、すべっちゃった。
、、あー。ほんとに目見えないんですね。
いや、自分で書いてらっしゃるっていうから、
少しは見えるのかなぁと思ってね。全盲ってわけだ、全盲。
ワープロ打ちですね。ブラインドタッチ。そういうわけだ。
女:何か、お仕事に関係あるんですか?
森脇:おおいに関係あるんです。
女:どういう事でしょう。
森脇:あ、これ。ビジネスパートナーとしての話しですからね。
女:あの、よくわからないんですが。
森脇:『黒い天使』の絵。ご存じですよね。
女:、、、
森脇:やっぱり、あなた、信者でしたか。
女:信者とか、そういうのじゃ。
森脇:ま、愛した男が絵を描いてた。
そんなとこですか。
女:、、

肩に手を置く森脇。
凍りつく女。

森脇:一緒にこの村出ませんか。
女:!
森脇:どうしてあなたのような奇麗な方がこんなド田舎にいるのか
どうも解せないんですよ。
幸せですか?こんな電車も止まらないようなとこで。
女:、、、はい。
森脇:目。どしたんですか。
自分でやったんですか。
薬品ですか。
それにしても奇麗な目だ。
森脇:いや、変な意味じゃなく。
一緒にこの村出ませんか。
私のBプランです。
女:、、。

女、やっと払う。男、メモ帳を出す。

森脇:近所のジジババんち上がりこんで、色々聞いて回りました。
田舎ってのは恐いですね。みんな知ってるのに素知らぬふりだ。
女:もう勘弁してください。
森脇:あなた、屋敷の主人を追ってこの村に来た。
そして、内縁の妻となったが、半年前。
ご主人は火事で亡くなられた。というか消えた。
保険金で居酒屋経営。そこに現われた記憶喪失の男。
ここにいる理由ってなんですか。
牡丹ちゃんのためですか?
あれ、まさか奥さんが産んだわけじゃないですよね。
謎だらけだ。
女:どうか、ほっといてください。
森脇:ほっとくと金になりません。
そういう秘密が芸術なんです。
あなたたちの演劇会。あれ、素晴しいですよ。
世界にたった一つ。あなたにしか作れない、宇宙だ。
さっきのなんて私、なんでかわかりませんけど、
泣きそうになりました。これすごい事ですよ。
なんでかわからないのに泣きそうになったんです、俺が。
すごいじゃないですか。
でも一文の価値もない。
女:、、
森脇:全国各地に出回っている『黒い天使』
自分を宇宙人だと思いこむコミュニティ。
10万人が登録してるオカルトサイト。
あなたに興味を持つ観客はいくらでもいるんです。
例えば、あの記憶喪失の男。
あなた知ってんじゃないですか。とか。
知ってて、ご主人の遺体を探させてるんですか?とか。

森脇、手を取る。

女:、、、手をよけてください、
森脇:お願いしますよ。
あなたの秘密を教えてください。
女:これはごくごく私的なものです。
森脇:駄目ですか。
女:無理です。
森脇:へー。(手をはなす)
女:人様に。お観せする気はありません。
森脇:なんで作ってるんですか、コレ。
女:、、。
森脇:誰かに聞かせるためじゃなく!

散らばった、台本を掴み、突きつける。

森脇:どうして言葉が出てくるんですか!
女:、、、。

突然、紙を片付けだす。
駐在登場。ビール持って登場。

駐在:なんですかこれ。
森脇:ああ、いいですいいです。私片付けときますから。
いや、ちょっとね。おカミさんがほらアレして、
アレだったもんだから。大丈夫ですかおカミさん?
駐在:転んだんですか?
女:あの
森脇:いやいや大丈夫大丈夫。
おカミさん、困った時はお互いさまっつってね!
あ、私?私は平気です。ケガも無し!良かった良かった!
駐在:なんか様子おかしくないですか?おカミさん。
森脇:そっか、ちょっと頭ぶっけたからなぁ。
もしあれだったら、もう休んだ方いいかもな。
駐在:あの、

娘:わー、紙だらけーい。
森脇:牡丹ちゃんちょうどいいや。あ、おかぁちゃん帰るってさ。
ちょっと肩かしてあげて
娘:どっか痛い?
森脇:そー具合悪い。具合悪い。
駐在:あれ?佐藤さんは?
娘:運動してくるーって。
駐在:え?
娘:穴掘り。
女:この雨の中?
森脇:おや、心配ですね。
女:、、、。
森脇:ぼんちゃんぼんちゃん。痛いってさ、いろいろ。
娘:だいじょぶー?
女:うん、だいじょぶ
娘:どこ痛い?
女:ちょっとね。

男、少年、女、退場。

森脇:童貞って言っても素人童貞なんですっってね。
駐在:は?
森脇:いやいや、言ってみただけです。
駐在:なんだ、びっくりしたな。
森脇:太郎君も大変だねぇ。こんなとこで半年もくらしてんだ。
駐在:ええ。なんとかしてやりたいですよ。
森脇:不良になってヤクザになったら大変だ。
駐在:、、え、ええ。
森脇:そうだ。入れ墨の墨って落ちにくいんですか?
あー、だからおまわりさんの制服、クリーニング出したままなんですか。
駐在:、、、、、
森脇:折り入ってちょっと相談したい事あるんだけど。
いやいや、ヤクザがどやって村の優しいおまわりさんに収まったかなんて、
そんなことはまぁ、どうでもいいんですよ駐在さん♥

列車。ガタンゴトン、ガタンゴトンッ、ガタンゴトンッ、ガタンゴトン
列車の漏れ光の中、駐在、森脇退場

少年、登場。
二人の話しを聞いていた。

少年:、、、、、、。
うそばっかりだ。どいつもこいつも。

無人駅の一部をみる。
板のようなものを外すと、
札束が出てくる。

少年:、、牡丹。

場転

■7場「男」

雨の音、ザアアアアア

一人で穴を掘り続ける、男。

男:はー、、、はー、、はー。

一人で穴を掘り続ける、男。

男:、、はぁ、、はぁ、、、、、はぁ、、
、、、ちくしょう。

雨の音、ザアアアアア

男:どうして、こんなに腹が立つんだ。

録音による男と女の声、交差する。

『昔むかし。
地球という星に子宝に恵まれずに困っている女の子がおりました。
お医者さんに相談に行っても神様にお願いしても子供はできません。』

『子供は2つ違いで二人。男の子でも女の子でも健康ならどっちでもいい。
名前も4つ用意してる。双子だったらまた考える。
週末は家族サービス。公園やキャンプやピクニック。
たまには会社に疲れた僕と育児に疲れた彼女の二人で温泉にでも行く。』

『彼女の彼は目の奥をどよんとさせて、次の計画を押し付けます。
彼女は彼が大好きでした。でも心のどこかで、彼女は思っていました。
「他に、願いを叶えてくれる人はいないかしら」
彼女は世界に繋がる魔法の箱から秘密の絵を手にいれました。』

曲(SE-NO Smile Birdインスト)
手を止める男。

『僕の完璧な計画。
僕には計画がある。
僕には、誰にも負けない計画がある。』

『この世のものとは思えないその絵に彼女はしだいに引き込まれ、
気付けば彼女はある名前の無い宇宙人と出会っていました。
そして魔法の言葉を聞きました。
「アブラカタブラ。この星には次のプランが必要だ」』

『彼女に子供が出来た。
僕の計画通りだ。』

雨の中、夜空に星、光りはじめる。

『彼女は次の計画を思いつきました。
彼の計画とは別の、次の計画を思いつきました。
誰にもじゃまされない、自分のそらを探しました。』

普通とは違う、輝きをする、彼女の宇宙。

『ひとつだけ計画と違ったのは、
彼女が「宇宙人の子供が出来た」っていった事だ。』

『彼女は彼を置き去りに。
そして彼女は、目をとじたのです。
まぶたには彼女の宇宙(うちゅう)が広がりました。』

『彼女が消えて、何年か経った。
彼女は今、どんな空を見てるだろう。』

彼女の宇宙に気付かず、
一人で穴を掘り続ける、男。

雨の音ザアアアアアアアアアアアアアアアア

■8場「金」

娘、少年、無人駅。
かばんにつめられた札束で遊ぶ娘。

娘:きったねぇ紙だなー
少年:バカ、これが物を言うんだよ。ちゃんといれとけ。
娘:おかあちゃん元気ないんだよねぇ。
少年:準備しろ。もうこんなとこいられねぇ。
娘:でも、おかあちゃん
少年:約束したろぉ!
娘:したけどさー。おかあちゃん元気ないからさぁ。
少年:元気にするために見せに行くんだろ?
娘:そうだけどさー。雨降ってるよ。
少年:雨が、雪になるんだよ。
娘:うそつき
少年:嘘じゃねぇよ!
娘:うそだろ?
少年:嘘じゃねぇ!!
娘:、、、タロちゃん、、おっかない。
少年:、、、。

少年、娘の肩をつかむ。

少年:親戚んとこ点々として、最後、おじさんとこきてさ。
俺、おじさんが大好きだった。
俺、毎日絵のモデルになった。
おじさんニコニコしながら俺を楽しそうに描くんだ。
毎日2時間。地下のおじさんのアトリエに行って、
おじさん、俺の絵描くんだ。
「これは芸術なんてだいそれたもんじゃない。
描きたいものを描きたいだけ描いてるだけだ。
言ってみりゃお絵描きだ。
このお絵描きが好きな人が好きだって言うだろう。
このお絵描きが嫌いな人は嫌いだって言うだろう。
おじさんは大好きなものを描きたい。
だから、お前が描きたい」
娘:タロちゃーん
少年:ある日、牡丹が来た。覚えてねぇだろうけど。おまえが来た。
毎日2時間づつ、おじさんは俺と牡丹の絵を描いた。
そのうち、おまえの時間が少しづつ増えた。
そんで俺の時間が少しづつ減った
いつのまにか俺の時間が無くなった。
俺は、なんだか悔しくて。そんで、、、
娘:ううーー。
少年:牡丹。俺、お前がおじさんとこ来たとき、
俺。くやしくて、守ってやれなかったから。
俺、今度こそお前を守ってやろうって決めたんだ。
いい医者に見せてやる。
娘:うう〜
少年:俺、知ってんだ。
本当のお前は、もっと賢くて、美人で、明るくて、きれーで。
俺が元に戻してやるよ。
おまえに初めて会ったとき。
お前、なんて言ったか覚えてるか?
娘:タロちゃん、いたい。
少年:計画があるんだ。
金ならいくらでもある。
俺、おじさんの絵売って、
インターネットで商売してんだ。
すげえんだ!ボロ儲けなんだ!
娘:うーん。わかんないよー
少年:一緒に行くんだ牡丹!
俺がおまえを必ず、幸せにしてみせるから!
娘:しあわせだってばさってばさ
少年:ふざけないで聞けよ!
娘:耳いたいー
少年:聞けって!
娘:!
少年:おまえ、アホだから気付いてないんだ。
こんな、電車も止まらねぇ村で、
誰もみねぇ芝居してるの間違ってんだ。
本当の本当のしあわせは、こんなんじゃないんだ。
娘:みた事あんの?
少年:え。
娘:本当の本当の幸せなんてみた事あんの?
少年:、、、、ねぇよ!
娘:みたことねーんじゃーーーん
少年:だから見に行くんだよ!
ボタボタのボタ雪、それと一緒だ!
娘:あー、そーかぁ。
少年:よし。とりあえず線路沿い、歩くぞ。
娘:傘ー。
少年:傘、傘だな。ちょっと待ってろ。

駐在登場、突然殴りつける。手にパステル画

娘:タロちゃん!
駐在:、、、、
少年:、、なにすんだよ!
駐在:なんで盗むんだ。
少年:もともと俺のもんだ。
駐在:この金は。
少年:俺んだ!
駐在:違うだろ。
少年:俺と牡丹の絵だ。だから俺んだ!
駐在:どおりで掘っても掘っても出てこないわけだ。
いつからそんな事してたんだよ。
少年:うるせぇ。
駐在:なんで盗むんだよ。人の物。
少年:盗んでなんていねぇよ!
いくぞ牡丹!

駐在つかまえる。

娘:タロちゃん!
少年:はなせちくしょう!
駐在:学らんのガキと頭のおかしいガキが二人でなに出来るってんだ!
少年:はなせ!
娘:タロちゃん〜〜〜(泣)
駐在:どうせ都会でだまされて!カネ全部巻上げられて、
少年:はなせっ俺はそんな事にならねぇ
駐在:困ったあげくに盗み働いて、なにも感じなくなって、
少年:俺、もともと不幸なんだ。
駐在:誰かにつかまって、いつの間にかクスリとか手ぇ出して、
そのうちサラ金に手出して、暴力団がらみの仕事初めて、
少年:俺は一人でもやってける!
駐在:やってけないって!
少年:やってける!
駐在:やってけなかったんだ!
少年:、、
駐在:弱いんだから。
一人でなんて、とても、生きてけなかったんだ。
少年:誰の話しだよ。
駐在:、、太郎。
娘:タロちゃ〜〜〜ん(泣)
駐在:聞けって!牡丹泣いてる。
少年:泣くな牡丹!
娘:でぼ〜〜〜
少年:ボタボタの牡丹雪見てぇだろ
娘:びたい〜〜
少年:かあちゃん元気にするんだろ
駐在:おまえ!

遠くから聞こえる、電車の音。ガタンゴトンガタンゴトン

少年:それ持って線路沿いに走れ!
駐在:太郎!
少年:泣くな牡丹!俺は強くなる!
少年:そのためならなんだってするんだ!牡丹!
駐在:牡丹!行くな!
少年:走れええええええええええええええええ!
娘:おかあちゃああん〜〜〜
駐在:牡丹!!

通り過ぎ電車。漏れる光。
ガタンゴトン!ガタンゴトン!ガタンゴトン!ガタンゴトン!

かばんを持って、走り出す牡丹。
かばんからこぼれる札。
駐在、少年をぶんなげる

駐在:牡丹、なにもわかんないのに。
、、、やり方が、汚いだろ、、
少年:、、知らねぇからだ。
駐在:なにを
少年:ほんとの牡丹。
駐在:、、え
少年:ある日、牡丹が来た。毎日2時間づつ、おじさんは俺と牡丹の絵を描いた。
いつのまにか俺の時間が無くなった。
俺は、なんだか悔しくて。どうしてなのか聞いた。おじさんは答えた。
「仕方がないんだ。これは芸術なんだ。」
おじさんの言う事が変わった。目つきが変わった。
牡丹の時間はそのまま増え続けた。
4時間から5時間、そのうち、起きてる間は一日中。
牡丹がおかしくなった。
牡丹の怯えた目が、俺を見るんだ。
助けてって俺を見るんだ。
なのに俺、くやしかったから無視をした。
地下のアトリエから出てくるたびにどんどんおかしくなった。
自分の事を3歳だって言うようになった。
火事の日、あの日まで、俺、牡丹を無視した。
俺のせいだ。
駐在:、、、。
少年:絶対、俺が幸せにしてみせるんだ。

少年、牡丹の後を追う。
森脇と擦れ違う。

森脇:犯人、見つかりましたかお巡りさん。
駐在:、、、見つかりましたよ。
森脇:良かった良かった。はい、ちょっと拝見。
まぁ、事実は小説よりも奇なりってやつで。

森脇、駐在のポケットから、録音機を取り出す。

森脇:どうですか。劇的な秘密は明かされましたか。
駐在:、、
森脇:あ、安心してください。
私、口固い方だから。
駐在:、、、、それ、どうするんですか。
森脇:宣伝材料になるようなら
なにかの形で取っておくし。
まーたいした使いもんにならなけりゃ、
消します。
駐在:消す?
森脇:アートってのはそういうもんです。
人によっちゃくだらないものが、人によっちゃ重要なんです。
駐在:くだらない
森脇:人によっちゃ重要な事でも人によっちゃゴミだったり。
駐在:ゴミ。
森脇:うん。おや。

駐在、録音機を取る。

駐在:いいですよバラして。
森脇:あー。
駐在:これ、駐在として没収します。
森脇:、、どーもこどもに嫌われるな。俺は。

駐在退場しかけ

森脇:あ、おい。金は?
駐在:子供が持って行きました。
森脇:えええ。

駐在退場。森脇、残る。あぐらをかき、絵を見る。

森脇:、、、、、うーん。へったくそな絵だ。、、100円。

場転。道端
雨の音、ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

男、一枚の絵を持ってる。

男:、、、どしたんだ。牡丹。、、あ。

少年走ってくる。

少年:おい、記憶喪失!
男:ん?
少年:牡丹みなかった?
男:あ、いたいた。
少年:どっち?!
男:あっち。

少年、駆け出す。

男:おいっ。
少年:なんだよ
男:これさぁ。
少年:、、、!
男:出てきた。
少年:どっから、、
男:焼け跡。
少年:、、、、、まさかこれ、、、みせてねぇよな。
男:え
少年:、、どうなった。
男:なんか、よくわからん事しゃべって。
少年:なんて!
男:覚えてないよ。だっていつもの事だから。
少年:ばかやろう!

少年走り出す。

男:あ!
少年:なに!
男:汚いって。
少年:!!

少年、思い切り走り出す。

男:おい!

傘をさした女、登場。

女:佐藤さん?
男:あ、はい。
女:どうかしました?
男:えっと、

絵の事を言おうとして、やめる。

男:別に。
女:あの、ちょっと、稽古つきあっていただけません?
男:今ですか?
女:、、、、

雨の音、ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
じょじょに、暗。

■8場「稽古」

雨の音、ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
無人駅、明。男と女、向かい合ってる。

女:昔むかし。
地球という星に子宝に恵まれずに困っている女の子がおりました。
お医者さんに相談に行っても神様にお願いしても子供はできません。
彼女の彼は目の奥をどよんとさせて、次の計画を押し付けます。
彼女は彼が大好きでした。でも心のどこかで、彼女は思っていました。
「他に、願いを叶えてくれる人はいないかしら」
男:あの。
女:どうぞ。台詞。
男:あの、、
女:二人芝居なんです。
男:、、はぁ。
女:どうぞ。
男:、、、、、、、、、、、、、、。
「僕の精子の量が少ないから、
子どもは出来ないという診断を受けた。
だから、僕たちは子供をあきらめて、
彼女のための違う計画を考えた。
彼女に子供が出来た。2ヵ月だった。
もう3ヵ月も彼女と一緒に寝ていなかったのに妻に子供が出来た。
彼女は『宇宙人の子供が出来た』っていった。
僕は、妻と、その浮気相手を、、にくんだ。」、、これ。

女:彼女は世界に繋がる魔法の箱から秘密の絵を手にいれました。
この世のものとは思えないその絵に彼女はしだいに引き込まれ、
気付けば彼女はある名前の無い宇宙人と出会っていました。
そして魔法の言葉を聞きました。
「アブラカタブラ。この星には次のプランが必要だ」

男:「彼女は僕を置き去りにした僕は手がかりを探した。
妻は自分が宇宙人だと思い込んでる連中の集まる、新興宗教に入っていた。
僕は、その新興宗教の団体を、、、にくんだ」、、、。

女:例えば、プレゼントを貰った時のあたしの喜び方が計画と違う時とか。
あなた突然目の奥だけ笑顔のままどよんと曇る。どよんとする瞳。
あなたが私を幸せにしようと計画を練るほど、私は彼の目におびえる。
答えられなかったらどうしよう。
応えられなくて、どよんとしたらどうしよう。
真っ黒い瞳。あなたの質問。私が探す正しい答え。
私は一生懸命、あなたが計画してる「あたしが言うはずの答え」を探す。

男:、、あなた、、?

女:こころからあなたの瞳が好きでした。
好きで好きでたまらなくてだから私逃げだしました。
どこまでもいつまでもずっとほんとはあなたのそばにいたかった。
でも私、約束におびえました。あなたの計画におびえました。
わたしのしあわせはあなたの計画の一部でした。
心の中で叫びました。
どうせなら、あなたをあなたの中にいれてください。
でも私はあなたの一部じゃなかったから私それが寂しかった。
寂しくて寂しくて私は、
インターネットから寂しい宇宙人の集まる寂しいコミュニティに参加しました。
男:「僕は君を探した」
女:そこの人たちはとても弱くて、でもとても普通でした。
男:「僕はずっと、君だけを探した」
女:そこで、あなたによく似た可愛そうな宇宙人と出会い、
男:「僕はずっと、君だけを探した」
女:宇宙人の子供が出来ました。
男:「僕はずっと、君だけを探した」
女:私はまた、宇宙人の彼の瞳から逃げ出した。
男:「僕はずっと、君だけを探した」
女:そして。私は、私のため、
男:「僕はやっと、君を見つけた」
女:宇宙人との子供をころした。
男:「産婦人科で、君の住む場所がわかった」
女:あなたのとこへ帰れなかった。
男:「君はまた、その男と暮らしていた」
女:だからまた、宇宙人の彼の所に向かった。
男:「君は、頭のおかしい子供といた」
女:別の宇宙人の子供がいた。
男:「君は、弱みにつけこむように」
女:あたしの子供に新しい名前を与えた
男:「間違ってると思った。」
女:でも、またあたしは彼の目に怯えた。
男:「終わらせようと思った」
女:同じあやまちを繰り返すのが嫌だった。
男:「こころから、君が、、(にくかった)」(読まない)
女:だから、あの日。
男:だから、あの日。
女:あの日も、雨が降ってた。

ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

男:あの絵を描いた画家の住む屋敷に向かった
窓ガラスを割り、屋敷の中に入り込んだ
絵を見た。たくさんの絵を見た
男の子と女の子の絵を見た
僕たちが考えた子供の名前がよぎった。
豊、誠、貴志、礼、繋、翔、八重、きり、雪子、小雪、さち、百合、、
僕はおちついてた!
僕はガソリンを手にしてた。

女:すべて無かった事にしたかった。
あの絵を描いた画家の住む屋敷にいた。
子供たちを外に出した。窓ガラスが割れてた。
私は魔法の目薬を手にしてた。
男:すべて無かった事にしたかった。
マッチに火をつけた、屋敷は火に包まれた。
しだいに大きくなる炎の向こうに、君が見えた。
女:目薬を瞳にいれて、目をつぶった。
しだいに薄れていく光りの中に、
あなたが見えた。

ガタンゴトン!ガタンゴトン!ガタンゴトン!ガタンゴトン!ガタンゴトン!ガタンゴトン!
突然通る列車、光りの中、記憶を取り戻す男。


男:、、、、
女:女の子は思い出しました。
とうとう本当の魔法の言葉を思い出しました。
男:、、、君、、。

雨の音、ザアアアアアアァアァァアアアアアアア
曲。舞台、交差する。
道端、村の電気が消える。

駐在:太郎おおおお!!牡丹んんんんん!

懐中電灯の光り。駐在、太郎と牡丹を探し、走ってくる。
舞台下手前。

駐在:くそ!また降ってきた、!はぁ、、はぁ、、、、線路沿い、、、どっちだ、、
、、、また、列車なんてきたら、、。

懐中電灯、消える。

駐在:どうして今消えなきゃいけないんだ!なんで!(懐中電灯を叩く。)
畜生!たろおおおおおおおお!
ぼたあああああああああああああん!

女:女の子は思い出しました。
とうとう本当の魔法の言葉を思い出しました。

少年を探す駐在の影、いなくなる。

女:彼女は次の計画を思いたはずでした。
彼の計画とは別の、次の計画を思いついたはずでした。
誰にもじゃまされない、自分のそらを探しました。
そして彼女は、目をとじたのです。
まぶたには彼女の宇宙(うちゅう)が広がりました。

娘を見つけた少年の影。金の入ったカバンを持ってる

女:その魔法の言葉を思い出したら、
女の子が作ったこの宇宙はおしまいです。

舞台下手前、少年。

少年:なにしてんだよ牡丹、、
、、だめじゃないか牡丹、、、
アホだなおまえは。カネ、道端に置いて。
言う事きかなきゃだめじゃないか牡丹。

舞台上手、娘の影
別人のようにゆっくりと登場。

少年:、、、。アホだなぁ、牡丹。
そんなとこで遊んで。
、、牡丹。線路から降りろ、、
こっちだ、こっちだ牡丹、、

女:女の子は思い出しました。
とうとう本当の魔法の言葉を思い出しました。

少年:牡丹、、、、こっちだ、列車くるから。
列車来たら危ないから。
アホだなぁ。

女:女の子は彼と初めて会ったときの、魔法の言葉を思い出しました。
男:、、、

娘:ねぇ、この言葉、覚えてる?
少年:、、
娘:立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
少年:、、、!

正気を取り戻した娘、それに気付いた少年。

娘:覚えてる?太郎ちゃん。
少年:、、だって、、
娘:太郎ちゃん。
少年:だって、おまえが言ったんだ。

男:初めて会った時、君言ったんだ
女:魔法の言葉。
男:黒眼がおっきくて、きれいな眼、犬みたいですねって。

娘:立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は、百合の花。

男:、、ゆり。
女:もうこまぶたの宇宙はおしまいです。

少年:「奇麗な言葉でしょ」って、君言ったんだ。
娘:ボタボタの牡丹雪。そらから。
少年:君の名前。
娘:ゆっくり、ふわぁーーーっと。まっすぐ。ぼたぼた。雪
少年:これで、この金で、一緒に見にいくんだ、牡丹。
娘:雪色。真っ白。牡丹。

女:とうとう女は本性を現わしました
目の前には、
己の幸せのために我が子を殺し、
己の欲望のままに狂った子に名前を与えた、
醜い女の姿がありました。
男:、、、、。

少年:牡丹
娘:そんな奇麗な名前貰えない
少年:え
娘:だってあたし汚い。
少年:汚くないって!
娘:あたし、ぜんぜん奇麗じゃない。
少年:おまえはちっとも汚れてない!
娘:そんなことないよ。
少年:あいつの事なんて忘れていんだ!
忘れたままでいんだ!
忘れたくて!狂ったんだ!
娘:たぶん違う。
少年:、、、え
娘:忘れられなくて、狂う事にしたんだ。
少年:、、。

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たくさん台本を書いてきましたが、そろそろ色々と人生のあれこれに、それこれされていくのを感じています。サポートいただけると作家としての延命措置となる可能性もございます。 ご奇特な方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。