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教室シリーズ だらだら体操

黒板で踊るチョークの音。
カンカンカンカン!カッカッカン、カカ、カンッカンッカン!
このリズム、もう寝なさいって感じに聞こえるよね。
先生たちによってそれぞれリズムが違うんだけど、もうこの音をまとめてベスト盤作ったら、催眠CDって評判になるんじゃないかなぁ。

月曜日の5校時、先生の打ち鳴らすチョークのリズムは、僕を夢の世界に誘っていた。それは僕だけじゃない。周りを見れば、あいつもあいつも、あ、あの子も、必死に睡魔と闘ってる。
あ~ぁあ、もう負けちゃってるのも多いな。
この状況だと、そろそろ先生がこっちを向いてなんか言うぞ?

「あ~みんな」
--来た!!
「お休みのところ悪いんだが、ちょっと話でもしようかな」
国語の八巻先生。この人、突然いろんな質問してくるから油断ならないんだ。
「え~じゃ、坂本っ!」
「ほほぇ、は、はい!」
さすがだ、爆睡中の坂本直撃弾。見てないようで見てるんだよなぁ。
「質問だ、お前は朝礼とか体育の時にやる体操、得意か?」
「た、たいそう?第一とか第二とかっすか?いや得意って言うか、誰でもできるんじゃないすか?」
「そうか?じゃ体操、ピシッピシッてちゃんとやるか?」
「い、いやぁ~、やらないっすぅ」
「なんでだ?」
「えぇ~っと、なんか、タルいっていうか?」
「そうか、めんどくさいって事だな」
先生はそう言うと教室の、特に男子を見渡して言った。
「この中で、体操をきちんきちんとやってます!っていうの、いるか?」
誰も手を上げなかった。それはそうだ、体操だもん。タルいに決まってる。
「そうなんだよなぁ、あの体操って、みんなだらだらするんだよな。でも、なんでだ?」
--いやだから、タルいんだって。
僕は心の中でそう決めつけていた。
「小学校の頃とかは割とちゃんとやってなかったか?でも、中学に入ると急にだらだらしだすだろ?なんでだ?」
--そういやそうだ、小学校の頃はみんなちゃんとやってた気がする。でも高学年になるにつれ、なんかやらなくなったな。
「お前たちは小学校からずっと体操をやってるんだから、ものすごく上手になってていいんだが、そうしない。考えたことあるか?」
僕の心の中で、ちょっとした疑問が沸いた。
--確かにそうだ。第一、第二なんて、チャ~ンチャッカチャンって音楽がかかればすぐに出来る自信がある。でもちゃんとやらない。なんでかな?
そのときクラスの頂点、委員長の川上が手を上げた。
「先生、それってきっと、簡単な体操なんかを命令されてやるのが嫌なんだと思います。思春期特有の体制への反抗心って言うか、先生の言うこと聞きたくないって言うか。それよりもう授業に戻りませんか?僕は寝てなかったし、さっき手は上げませんでしたが、体操もちゃんとやってるので」
--ひと言もふた言も多いヤツ。まったく頭がいいんだかなんだか、そういうの嫌われるんだよ?だけど人目をあまり気にしない川上には分かんないんだろ。
僕は川上を見ながらそう思った。
--でもあれ?そうなのかな?先生の言うこと聞きたくないからってだけ?人目を気にしない川上は体操をちゃんとやるんだろ?
そう思うともう、疑問が疑問を呼んでしまう。論点を整理してみよう。
「体操はみんなできる。絶対出来るんだ」
「小学校までは号令に合わせてちゃんとやってた。中学に入るとやらないんだね」
「そう、だから思春期の反抗心ってこともあるんだろうな」
「でもさ、川上はちゃんとやってるけど、クラスでは目立たないおとなしい子たちもなんかだらだらしてるぞ?」
「あのおとなしい子たちも、反抗心、なんだろうか」
「ポイントはやっぱり『川上』だ。頭はいいけどあんまり空気を読まない。人目も気にしないヤツだ」
「人目?もしかして、人目を気にしてるのか?僕たちみんな」
「誰の目を気にしてるんだ?」
「あ、そうか、誰でもできるはずの体操、それを真面目にやってもしできなかったら?」
「真面目にやってるのにガタガタで、かっこ悪い体操しかできないんなら?」
「それを『見られたくない』って思うな!」
「つまり、体操なんて本気でやれば簡単にできるぜ!って、格好つけてるだけなんじゃ」
「そうだよ。体操って意外と難しいんだもん。かっこ良くなんてできないもんね」
その時、八巻先生の声が響いた。
「・・って言うことなんだな。学生ならそれもいいんだが、社会に出ればそういうことこそしっかりできなきゃ、誰も認めてくれないんだぞ?」

あれ?先生、もう答え言ってる?
聞き逃しちゃった!!
僕の推理は当たってるの?どうなの?

ちぇ!
こんなの、みんなに聞くのも恥ずかしいや。
寝てたのか?かっこワル!!って思われちゃうもんね。

知ってるふり知ってるふり。
うんうん。

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