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「同じ方向を見とるけん」濵田農園になくてはならない存在、従業員から見たみかん農園で働くということ

愛媛県八幡浜市で約80年続くみかん農家「濵田農園」。みかんの段々畑が広がる農園で、太陽をいっぱいに浴びた「日の丸みかん」を栽培しています。

12月に収穫を終え、一段落した今。今回は二人のスタッフにスポットを当てたいと思います。Uターンを機に7年前に入社した濵川さんと、4代目の善純(よしずみ)さんの声がけで3年前から働く大西さんです。それぞれ50代になってから、濵田農園の一員になりました。

4代目、5代目が「なくてはならない存在だ」と口を揃える二人。そんな彼らにとって、濵田農園はどのような存在なんでしょうか。普段はじっくりと聞くことができない、みかん農園で働くことのリアルを聞きました。

濵田農園との出会い。入社の決め手は「人」

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(3年前から濵田農園で働く大西さん)

――最初に、濵田農園との出会いを教えてください。

濵川さん:僕は愛媛県の出身ですが、ずっと県外に出とったんです。母親の介護をするために、こっちへ帰ってきたのが7年前。息子がみかん採りのアルバイトでお世話になった縁で、最初はみかん採りの仕事をさせてもらっていました。母の介護をしながら働くのに、ちょうどいい環境だったんです。

――大西さんは3年ほど前に入社したんですよね。

大西さん:はい、ただ前職を退職した7年ほど前からずっと4代目に声はかけてもらっとって。体の調子が悪かったこともあり、なかなか定職につけない状態だった僕に、「自由に来てくれていい」と言ってくれたんですよね。

以前、農協で働いていたこともあり、具体的にどういう仕事をしているか把握できていたのも入社しやすかったポイントの一つでした。体調が悪くても、「こういう作業だったらできるかな」というのが分かっとったので。

――お二人とも、実際に入られてどうでしたか?

濵川さん:まったくの素人ですから、最初は4代目の言うとおりにやるのが精いっぱい。僕の場合は、何も知らなかったのが逆に良かったと思いますね。自分のこだわりがあったわけじゃないから、すんなり受け入れられた。

あとは一緒に働く人が、話しやすかったです。アルバイトから入社を決めたのも、単純に現場に出るのが楽しいという思いがあったからでした。

大西さん:山の地形を把握するのが大変でしたね。除草剤を撒く作業などで、段を間違えたり飛ばしたりしてしまって。隣の農園との境界線も何回行っても、なかなかよう覚えんので。大変です。

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――作業をする中で、4代目はどのような存在ですか?

大西さん:おおらかで、いつもやさしく見守ってくれています。

濵川さん:大西さんが言うように、よく気にかけてくれますね。これまでの会社とは違うアットホームな雰囲気で、プライベートなことも話しやすい。濵田農園には定年がないので、働ける間はずっとお世話になりたいです。

助け合いながら、みかん農園で働くということ

――嬉しかったことや良かったことは何かありますか?

大西さん:全体的に単純な作業は多いんやけど、大変なときや課題に感じていることをクリアできたときはやっぱり嬉しいですよね。体からすっと力が抜けるというかね。

濵川さん:外での作業が多いのは体力的に大変なんですけど、他の仕事みたいに失敗したら取り返しがつかないとか、クレームが来る仕事ではないので。間違えてもやり直しがきくのは、精神的に負担が少ないです。ただ、収穫の時期はやっぱり体力的に大変やね。

ーー1年の集大成ですもんね。

濵川さん:収穫が終わるのが、毎年12月末。そこでようやく「今年も一年終わったな」という感じがします。その分、年末年始が心身ともにゆっくりできるのがいいですね。

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ーー仕事をする上でのこだわりはありますか?

大西さん:もともと体の調子が悪かったこともあって、作業中に怪我をせんように気をつけとります。僕の性格だと思いますが「このくらいでええか」ではなく、細かしいところまでやるのがポリシー。そればかりに時間かけてもいかんので、バランスが難しいけれども。

――濵田農園のみかんについては、どう思いますか?

濵川さん:みかんの味は言うまでもないね。何よりも、ここのみかんは安定している。他の農園にもおいしいのはあるけど、個体によって差がある。

大西さん:糖度と酸味のバランスやね。甘いだけじゃなくて、酸味が良い具合で入ってる。甘さばかりを重視する人もおるけど、僕らはやっぱり酸味がないとって思います。みかんらしい味、というかね。

濵川さん:もちろん工夫や努力はあるけれど、土地と太陽の恵みは、真似しようとしてもできんから。ぜひ色んな人に味わってもらえると嬉しいです。

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「同じ方向を見とる」ふたりが考える未来

ーー4代目と5代目から「ふたりは言われたことをするだけじゃなくて、しっかりと意見を言ってくれるので頼もしい」と聞きました。そういう働き方になった理由はありますか?

濵川さん:効率よく良いみかんを作りたいですからね。良い値段がついたら嬉しいですし。

大西さん:どんな仕事でもそうやけど、経験を重ねていくうちに見えることが増えてくる。足らない部分を手直ししていきたい。4代目や5代目と同じ方向を見て、濵田農園として良いみかんが作れるようになっていきたいという思いがあるからですね。

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――おふたりから見て、濵田農園が抱えている課題はどんなことですか?

濵川さん:やっぱり農園を維持していくことを考えたときに、若い子がいないのは課題。僕たちも60歳近くなり、いずれ入れ替わりが必要になるときが絶対に来る。そのときのために、今から育てていきたいです。

――農業自体をする人が減っている?

大西さん:そうですね。今までやったら長男が継ぐことが一般的やったけど、安定した収入がないと生活ができんので。浮き沈みがある農業をやるよりは「サラリーマンせえや」ということになってしまう。

濵川さん:不安定やけん、人件費を安定して払えない。だから若い人を雇うのがなかなかできんという悪循環。ただ最近では、このへんのみかんは値段が安定しとるけん、少しずつ若い人も増えていると聞きます。

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ーー若い人に来てもらうには、具体的にどうすればいいと思いますか?

濵川さん:やっぱり何らかの形で一緒に仕事してみてもらうのが、一番早いと思います。以前、インターンシップで来てくれた子のなかには興味を示してくれた子もいました。僕みたいに、最初は収穫のお手伝いだけでも濵田農園の雰囲気は伝わりますから。

大西さん:それから、八幡浜の町自体をもっと盛り上げていく必要もあると思いますね。いろんな産業があって、飲食店が流行って、人が増えて。そうしていくうちに農業に取り組む人も増えて、自分もやってみようかなという気持ちになったらええな、と。

ーー町の活性化が、農家にも人を呼ぶ。

濵川さん:農家も悪循環になっとるんじゃないですかね。人がいないから自分で何とかしようとしているけれど、それでは事業の維持や拡大は難しい。濱田農園では新しい人を入れようとしているから、だんだん良い方向に広げられるかもしれないと感じています。

【ご案内】
濵田農園の紹介記事:https://note.mu/hamadafarm/n/nd6ba2f79a683
濵田農園オンラインストア:http://shop.kiwami-mikan.net/

制作:ローカルマガジン「おきてがみ
(執筆:ウィルソン麻菜/編集:庄司智昭)

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