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【呼吸の奇跡☆声の魔法13】大声出すなんてバカみたい!

「ボイストレーニングなんて、私たち一般人に必要があるとは思えないんですよ」

以前、ある場所で知り合った40代の女性に言われました。

声の良し悪しは生まれつきだし、今は声を出すことにトラブルがあるわけではない。だから自分にとって、ボイストレーニングなんて意味がないし、興味もないのだと。

ボイストレーナーだと自己紹介した私に向かって、「興味がない」と言い放ち、彼女のチクチクと針を刺すような言動は続きます。
ここは抗うまい。
「そうですよねぇ」と曖昧に微笑み、静々とその場を去りました。

ところがですね、その彼女。
後日、私のレッスンを受けに来てくれました。
「え? なんで?」
若干身構える私に、彼女は言いました。

「たまに、歌手や役者が発声練習をしているのを見かけたりもするけど、あんなのバカみたいでしょ。影で笑ってたんですよ。ずっと」
「はあ……」
「だって、格好悪いし。あんなに、大きく口を開けて、大声出すなんて。みっともないですよ」
「そ、そう、ですかねぇ……」
「それに私、人前に出てしゃべるのも嫌いだし、歌も大嫌い。だから、わざわざ声を磨いてまで人前に出ることもないでしょ。一生それで過ごせれば、良かったんです」

彼女、何だか怒ってます。わざわざバカみたいなボイトレに来て苛立ってます。何か事情があるようですね。

「実は、私なりに、賭けた仕事がありましてね。どうしても、顧客にその思いが伝えたくて、私の熱意を受け取ってもらいたくて。そんな風に思ったのは、初めてだったんですよ…… でも、相手にその気持ちを伝えようとしたプレゼンで、声が思うように出せなかったんです」

そう。これ! 
トラブルに見舞われて、初めて声の大切さに気付くんです。

「あぁ、それは辛かったですね……」
私がそう言うと、彼女はうつむいたままで言葉を続けました。

「結局、何も伝えることが出来ませんでした。ショックでした。顧客からも周囲の人間からも、評価はがた落ちで。私の声や表現方法に、原因があるって気付きました。声って、何とかなるものなんですか?」

私は、微笑んでうなずきました。
歌や演劇のためだけでなく、日常で発する声の質を磨くことは、自分のコンプレックスから解放されるきっかけにもなるし、自信にもつながります。

私は時々、弘法大師・空海の言葉を思い出します。
ザックリと現代語訳するとこんな感じ。

 『声は単なる音ではなく 魂の足音
  魂が美しければ その足音の声も美しい
  その美しい声が相手に届くことが
  幸せを作る土台となる


彼女はとても熱心にレッスンを受けてくださり、2度目のプレゼンでは、とても良い評価が返ってきたそうです。
そして、地元のゴスペルサークルに入って、歌にも挑戦しているのだとか。

「急展開ですね!」
私が驚くと彼女は言いました。

「声を出すと、一日元気でいられることが分かりました。
身体も心も軽くなりますしね。何だか、コミュニケーションも、少しずつ改善しているんですよ。不思議」

不思議じゃないんですけどね。
彼女、声がコンプレックスだったんです。出来れば向き合いたくないと感じているのに、それを屈託なく楽しんでいる人たちを見ると、ちょっと拗ねた気持ちになるのはわかる気がします。

声を出すことを、楽しんでくださいね。
その声は、あなただけのものですから。

2011年11月22日配信メルマガ・呼吸の奇跡☆声の魔法より

 


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