見出し画像

【対談】福島県12市町村アーティスト・イン・レジデンス「ハマカルアートプロジェクト」最終報告会

世界・全国・地元から、さまざまな分野の芸術家やクリエーターが、福島県12市町村に滞在して作品を制作する、ハマカルアートプロジェクト。
プロジェクトの最初の年となった2023年度、数多くの応募の中から、映画、演劇、現代アートといった最初に想定していた芸術の分野だけではなく、現在の多様な芸術的表現やカルチャーを反映した多岐にわたる分野を創作するプロジェクトが選ばれ、14組の採択者によって実施されました。

地元の若者が旧地銀を巨大コスプレスタジオに転用した、12市町村での創造の場のひとつである富岡町の「コススタ」を会場に2024年2月20日から3月3日まで、入場無料で展示を行いました。

2月20日の最終報告会にて行われた、本プロジェクト統括ディレクターの岡田智博、文芸評論家の藤田直哉さん、本プロジェクトのスーパーバイザー菅野幸子さんによる対談が行われました。
その様子をお届けします。


スピーカー紹介

岡田智博(ハマカルアートプロジェクト・統括ディレクター)
 所属:一般財団法人クリエイティブクラスター代表理事

藤田直哉さん(SF・文芸評論家)
 所属:日本映画大学准教授

菅野幸子さん(ハマカルアートプロジェクト・スーパーバイザー)
 所属:AIRネットワークジャパン アーツ・プランナー/リサーチャー AIR Lab

岡田さん(左)、藤田さん(中央)、菅野さん(右)


福島県12市町村でアーティスト・イン・レジデンスを行うことで

この対談は本年度におけるハマカルアートプロジェクトの総括、そして今後に向けての展望について語られる場となった。

まず、12市町村でアーティスト・イン・レジデンスが行われることが決まった時の印象を聞かれると菅野さんは「地域の人たちと滞在するアーティストの関係性がうまくいくかどうかが心配だった。結果的にその心配は杞憂に終わった。地域の人もアーティストも積極的に関わりを持ち、作品として地域にフィードバックができたように感じる。」と語った。
藤田さんは「地元の方と関わって、地域にもアーティストにも変化があるのではないかと思う。創造性はたくさんのモノの組み合わせ、地域の歴史や文化を尊重しつつも、アーティストが関わったときに、ある種の新しい文化や構想ができると考えている。地域特有の文化にのまれず、アーティストが表現できることでそれが生まれると思う。」と語った。

また、岡田ディレクターが、都会や環境のいい場所ではなく、この福島県の12市町村という地でやりたがる人は意外と多かった印象があるが、その点についてどのように感じたかを尋ねると、藤田さんは「福島は震災以降、様々な問題に直面し、日本の問題の最先端でありながら、何かを生み出しえるかもしれない場所だと思う。ここで何かを学んで、何かをすることで体現できるものがあると皆さんは考えたのではないか。」と語り、間接的な都心のコミュニティーと直接的な地方のコミュニティーの違いも関係しているのではないかと話した。

3人の対談に耳を傾ける採択者の方々

その後、東北のアーティストインレジデンスと復興のプロセスとの関係性を考察しつつ、小高区の若手のコミュニティによる地域文化の発展を振り返った。
次は双葉町、富岡町などの双葉郡にそのコミュニティが広がるのではないかと岡田ディレクターは話した。

対談も佳境に入り、富岡町でプロジェクトを行った秋元菜々美さんをはじめ、各採択者に感想を述べた。
秋元菜々美さんは「以前あった物事をを続けていくことができない場合もある。その事実を踏まえたうえで新しいものをアーティストと共に作って行くことができるこの活動はすごく価値のあるものだと改めて感じた。」と語った。

南相馬市を拠点に活動に取り組んだ久留飛雄己さんは「まずは、地域に対するリスペクトをもって活動させてもらった。自分が移住して活動をして、こんな未来がみたいと描いたものと、今回のプロジェクトの家劇場理念がミックスされて新しい風景を広げていきたいと思っている。」語った。

飯館村で活動している矢野淳さんは「自分がやることで、変化が可視化されていることが大きい。プロジェクトを進めていく中で、一度0になったからこそ、東京で卒業したての建築学生がやろうとしていることを受け入れて、実現していける土台みたいなものがあると思っている。」と語った。

大熊町に拠点を置き制作をした、嶋田雄紀さんは「音楽はその場で消えてしまうのが基本で、聴いてもらいました終わり、ということが多い。音楽では風景自体は何も変わらない。ただ、そこで流れていたり、そこで関係してくる人が変わっていくという意味では、同じ観点で臨めるのかもしれないと捉えた。」と語った。

浪江町で震災前から制作活動をしてきた板橋基之さんは「昔から浪江町に取材に来ていたが、今回取材した人たちは、みんな初対面で最初は警戒されましたが、こちらから一回突っ込んだことをすると、向こうから声をかけてくれたり、手を振ってくれたり、いい関係性を築いていくことができる。」と語った。


最後に採択者のコメントを聞いて菅野さんは「地域の人との関係性を作って行くのはとても大切という風に改めて感じた。そういった関係性の中から作品として生まれてくるのだと思う」と話した。

また、藤田さんも「人口減少の中、地域生存がなかなか厳しい中で、何とかしようという姿勢をもって活動されていることが大切で、全国的にも希望になるのではと思っている。」と語り、対談を締めくくった。