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Amazon audibleの音質はわるい。わるいといったらわるいなんていわず、わるいもんはわるい。

目次から。



恥ずかしながら、わたくし、文学の朗読をやっております。

ののラジオ

著作権が切れて「青空文庫」に入ってる小説を朗読する、という市民活動を長らくやっています。
それもただプレーンな朗読ではなく、
地の文=ナレーターで一役にして、
小説の登場人物それぞれに出演者をあてて、
生活音や環境音なんかも付けちゃって、
ラジオドラマ風、
オーディオドラマ風、
声劇(せいげき)風、

の朗読音声として仕上げているのです。

大したことはしてませんが、これ本の朗読なの? ドラマなの? 原文は一切変えないという縛りをつけてしまったの。ということもあり、先達がいるようであんまり見当たらない、妙な道を歩いてきました。


「朗読」の裾野を急速に広げるaudible


ところが昨今、世の「朗読」に大きな地殻変動が起きています。
そうです。Amazonのオーディオブックサービス
「audible」です!

audible

テレビCMでも見かけるし、有名俳優さんの朗読作があったり、話題芥川賞作がすぐ出たり、著名ひろゆきさんのビジネス書を通勤電車で倍速で聴いてスキルアップしたり、などなど。

Amazonは国際企業なので、先行して海外から始まったサービス。
日本版開始は2015年だったそうです。

audibleによって拡大した「朗読」のユーザー、聴取者。
(※倍速視聴ユーザーの波はここにも及び、ちょっと前に騒動がありましたが、それは後述)
でも、朗読音声のサービスはそれだけじゃありません。


老舗のオーディオブックaudiobook.jp

日本で初めてオーディオブックの配信プラットフォームを作ったのは、(株)オトバンクで、2007年。
当時のサービス名は「FeBe」(フィービー)でしたが、2018年に名称を変え、それが今の
「audiobook.jp」(オーディオブック ドット ジェイピー)です。

audiobook.jp

創業からの流れなどは、自社noteの記事にくわしく。

2007年開始の元ベンチャー「audiobook.jp」。
対し、
2015年に日本サービス開始、Amazonの「audible」。

小説の朗読をしている身から、どっちに登録しようかしら???
と、悩んで、調べました。
立派なこたつ記事として、あれこれ比較している記事・動画を漁ってきました。
さあ、比較、スタートです!


audible vs. audiobook.jp 比較

結論をいえば「そんなものは何をしたいかによる

のですが、
身も蓋もないので一個いっこ見てきましょう。

いやさ
こちらのサイトで見てきましょう。

見おわりましたか?


特色の比較

Audibleは
・12万冊以上!
・(☝ただし外国語作品含む。日本語の冊数は1万~1万8000冊くらい?)
・ビジネス書、小説、子供向け、まんべんなく取り揃え
・話題作を採り上げ、朗読者も話題性ある人が多い
・限定Podcastなど、本の朗読以外の音声コンテンツも色々
・海外Amazonの洋書朗読もあり、冊数が莫大
・Audible以外では配信しない契約のものもあり
・アプリ内視聴のみ
・月額1500円
・初回30日間無料!

audiobook.jpは
・1万5000冊以上!
・ビジネス書に強い
・日経新聞 その日の主要ニュースを20分にまとめた「聴く日経」
 (月額550円Podcast)が、無料!
・作品を購入すると、アプリ外で再生・保存可能
 (=サービス終了後も視聴可能)
・月額1330円 or 年間契約ならひと月当たり833円
・初回14日間無料!
・朗読愛を感じる ☜

という感じ。
先んじて好みを結論づけてしまいましたが・・・。


小説朗読勢からの比較

はい。無料体験で聴いたのと、以前入ってたことはあるのです。実は。
その時も思っていたことを、今回改めてよくよく確かめた次第です。

audiobook.jpに感じて、audible(の……経営陣)からさほど感じない
「朗読愛」とは、いったい何でしょうか?
まずひとつ目は

「音質」

です。

すなわち、音質の違いは、作品への扱いの違いだろう、そもそも。という観点から。


オーディオブックというのは、本一冊をすべて朗読するので、10時間を越えたりすることもざらにあります。で、それだけデータ容量も大きくなる、というのはわかりますよね。

「あまり容量が大きいと、通信速度が足らなくなり、通勤電車の中で途切れてしまうかもしれない」
また「通信量が大きくなり、ケータイ料金が膨らんでユーザーから不満が出るかもしれない」
・・という事情も、あるのだとは思いますが、

audibleの音質は、えれえ悪いです。

もちろん作品にもよるとは思いますが、かなり圧縮をかけて品質を劣化させている。
もはや、頭に入るサウンドロゴ
 (ピン!ジャッワォォ~・・ジュ~ンン・・・)
 「audible………」
にも
「ロゴが求めてる音の広がりが無いぞ???」

と、思うほどです。

シャリシャリした音が混じりがち、こもっている、膜がかかっているよう、何か喋るたびにシュワッ、シャウゥ、という
”音域はここまで!”
バリアが感じられる。などなどなど

・・こう書くと、「わたしは別に気にならないけどね」と思う人もいるでしょうが・・耳をよ~く開いてほしいです。そして、そういう方への意見も後述します。


聴いてみよう

ここで
高橋一生さん朗読による、村上春樹 著『騎士団長殺し』のサンプルを聴いてみましょう。(リンク先。5分間あり)




「めちゃめちゃいいじゃん」


そう、一生くん(ファン呼び)の朗読は、めちゃめちゃいいんです。

でも、音質はどうでしたか?

ブランケットかぶった中で話してるような、音のこもり。
しゃべり出すと鳴り、黙ると止まる、シュワシュワシュー、みたいな音。
声のなかにもデジタルな雑味が混じり、ややイガイガしています。



容量に関するチェックあれこれ

では、こちらの容量を見てみましょう。
オフライン再生のためのダウンロードを選ぶと、ファイル容量が表示されます。

(下)ですみません。9時間21分
539.3MBと出ました

9時間21分=561分 で 539.3MB。
1分あたり約0.96MBですね。

(ここからは技術系にまったく詳しくないのにてきとうな検討をくりひろげますが)

音質の基準であるCD品質ですと、WAVファイル形式で読み込んだとき、
データ容量は1分あたり約10MB
つまりこの作品は、CD音質の10分の1くらいまで圧縮されている状態・・と、
これは、別に圧縮音源の容量としては、ふつうかと思います。

でも、音質はそれ以上にわるいのだ。これはなんでだろう???

比較対象として、ためしに
橋爪功さんの『河童』(芥川龍之介 作)を圧縮してみました。

(この朗読も、新潮CDの名作です)

iTunesでCDからWAV取り込み→MP3へ変換します。
ビットレート:標準音質=128kbpsを選択。74分で67.6MBになりました。
1分あたり0.91MBですね。
これは『騎士団長殺し』よりも少し低いけれど
どっこい、わたしの耳には「若干張り出しが弱くなったかな」くらい。

んんん、なぜaudibleは、データ容量以上に音質が劣化しているのか???

で、さらに低品質の圧縮で実験しました。

結果、64kbpsで変換したあたりの音質が、audibleに近くなった感じです。標準音質と呼んでるのの半分ですね。
容量は、17MB。1分あたりだと0.22MB。ぬーん。

チェック結果

$$
\begin{array}{l:r:r}
作品&圧縮度合&1分あたり&聴き心地\\ \hline
例:CD音質&1411kbps(非圧縮)&約10MB&よい\\
『騎士団長殺し』audible&?kbps&0.96MB&どうもわるい\\
『河童』MP3(1)&128kbps&0.91MB&ふつう\\
『河童』MP3(2)&64kbps&0.22MB&どうもわるい
\end{array}
$$

audibleはそこまでデータ容量落としてないのに、音質は聴いた感じおなじくらい劣化している。
audibleはシャリシャリ系で、こっちの変換ではキュロキュロした異音が混じり始めているということで、ぜんぜん、圧縮方式は違うのでしょうけど。

ストリーミングのしくみがまずいのか???

ともかく、圧縮標準音質の半分と同じくらいな聴こえ方、と私は感じています。主観ですが実感。


audibleに高音質バージョンはあるか

あります。
アプリの「プロフィール」→右上の歯車→「データ&ストレージ」→「ダウンロードオプション」で

選んでて、このくらい。
(空間オーディオ対応しとる場合か?)

しかし、2009年の記事でこういう報告もあります。
まだ海外サービスだけだった頃。audibleで英語力をアップしようというブログに、
「Audible Enhanced Audio」なるものが登場したとの知らせ。

これがいまもあればいいんですが。
あるの? 海外版にはあるの?


audiobook.jpの音質

さて、ひるがえってaudiobook.jpです。
こちらは、まさしく(一部作品での)高音質化の報告が2020年にされています。

というか、この「HQ」マークがついていない作品もいい音です。たぶん本当にmp3の標準音質で圧縮したくらいの音質。
充分な音質。
朗読の人の声質がしっかりわかり、余計な膜は(あまり)感じない、どの音域を出してもバリアに(さほど)触れない・・かといって口の中が思い浮かぶほど細かい音は含めない・・ちょうど良い距離感の朗読音声。と思う。


ためしに『嫌われる勇気』のサンプルをお聴きください。
なぜなら、わたしがさっきから嫌われる勇気を発揮しているからですね!

さらに、audiobook.jpさんは小説作品の場合、複数キャストによるオーディオドラマ形式(音楽・効果音あり)なことも多く、
情報を摂取する態度とは違って頼もしい。

これはTARAKOさん朗読による さくらももこエッセイ。もう本人じゃないか?
あまりに臨場感のある、すばらしい朗読です。

エッセイに登場する父、母、姉のセリフもTARAKOさんが読むというのは、ここだけのプレミアムな体験かも。


プラットフォームとしての態度

う~ん

「わたしはaudibleの音でも、朗読の雰囲気は十分楽しめるし、べつにASMRとかじゃないんだから、十分だけどなあ」

というありがたい人がいたら、それこそAmazonがつけこんでいる・・と言ったら言いすぎですか?


「映像」「音楽」に比べ、なめてる感

なんで腹が立つかといえば、これですよね。
audibleを提供するAmazonじたいが、この音質軽視のサービス状況によって「朗読」じたいを軽視しているように、わたしは見えるんですよ。
いろんな作品、企画をどんどんだして裾野を広げているのは、勿論、万々歳としたうえで。
出口でこの音質に落としてしまってどうするのか、と。


だって、Amazon Prime Videoで「孤独のグルメ エピソード1真夏の博多出張編」を見てくださいよ。

ほら、「孤独のグルメ エピソード1真夏の博多出張編」には、ビデオ品質の選択肢がありますよね。それも丁寧に、3択にそれぞれ
「1時間で約○○GBのデータを使用」と通信量も書いてある

実はこれ「孤独のグルメ エピソード1真夏の博多出張編」以外の全部のビデオで、こうなんです。


作品をレンタル・購入する際も、あたりまえのように画質によって値段の勾配をつけますよね。あたりまえのようにというか当たり前です。今。


Amazon Musicだって、ロスレス(CD音質と同等)の「HD」、ハイレゾにあたる「Ultra HD」について、FAQをもうけています。
このへんは他社とハイレゾ・ハイレゾ・ハイレゾ・・映画クレヨンしんちゃん第一作のごとく、競り合っていますものね。


ネットフリックスのプランは、今こんな感じ。

むかしは一番安い「ベーシックプラン」が720pまでという制限でしたが
いまは「広告が出ます」という制限が最安となり、画質はフルHD化したようです。


つまり、映像サービス音楽サービスに比べて、
audibleには音質についてなんの説明もない、この態度はなんなのか、という不満なのです。


なんであんな音質になっとるのか

「ま、そんなでもないっすよね。朗読の・・音質? 気にする人って。
そもそも倍速ユーザーも多いし。まあデータはあるっすけど、言わないけど、あとCMでもリスキニングとか、実用書とか、英語のリスニングとか、押してるしね
なんかあなたたちが・・作品世界に入る? というのを、う~ん、主軸にしてるわけじゃないんでね。そのご体験は尊重しますけどね
つまりその、
検索バーでaudibleって入れてさ、
「audible 音質 悪い」
って出てきます?
それが、マジョリティってことですよね。
高音質にすると、それでサーバー代、伝送、どれだけ跳ね上がるかっていう。あなたたちのその、朗読ガチ勢? が、どれだけペイできるのかって。消費者として。
上はね、一声目なんですよ、おメーらが会社支えてから言えよ。って、層がね、無視できなくなってからの話だって。
そういうことで・・こっちの判断基準とあなたたちが、理屈を立ててきたか知らないけど、そもそも噛み合ってないんだよね。そういうところで判断してないんだよ。
文化的な皆さんならわかるよね?
そうだね?」


こんな奴はいないと思いますが(しかし時おりマンガみたいな人間と出会ってしまうのが人生の面白いところですが)

やっぱり、「そんなに文句でてないし」という理由はむちゃくちゃあるはずだ。
それが、費用対効果の計算になり、現状になり・・じゃないでしょうか。

そして次につながる。


「倍速視聴」騒動と、朗読文化の軽視

朗読といえば、2023年の11~12月にこんな騒動がありました。

こちら何かというと、Audibleの作品の「レビュー」欄に
”語りの音量やペースが一定でないから、
 倍速再生のときに耳心地悪いし、聴き逃がしがち。良くないなあ”
というの書き込みがあったとのこと。で、
「朗読をなめるなよ!」
と、声優、俳優、文化人は怒った。というような次第。

そのレビューの中でとてもいいなぁと思うのは、「倍速のことを考えてない」「カスタマイズ性に欠ける」という、アドバイス調ですね。君はまだニーズを汲めてないロートルのようだけど・・という態度。
「等倍で聴く人なんてまずいない」は、あきらかに口が滑って管見ですが。

”朗読によって生まれるもの”に全然興味なく、その味わいの体験も知らないまま、消費者として大きな声を出し、ニーズで市場を動かしていく存在になっていき、総じて、新しく生まれる作品もどんどん痩せていくよ。と「文化を知る大人」たちは思うだろう。
上記の騒動は
「そんな需要のためにやってないんだから、本人に言うな」というだけだ。

でも

そういう大切な「朗読作品」を、うすらシャリシャリ・モゴモゴ音質としてしか市場に乗せてないのは誰なのか?

どころか、音質の選択肢をデータ容量の観点にばかりして、
どのような圧縮をしているかも説明せず、
サンプル音声の提供だけで澄ましているのは、何か。

そこには、文句つける筋、あるだろう。

あの騒動で朗読の意義を解いてくだすった方々も、
ちゃんと、audible聴いてみたことあります?????

一聴すぐ、思うと思うんです。
音悪いな! おい!!



っていうことを、延々言ってきたわけです。



まとめ

・audibleは

 あんなに力の入った作品をいっぱいもってるんだから、
 早く音質をまともな圧縮レベルに上げてください。

・海外作品は

 朗読文化が盛んなので、品質アベレージ高いです。だから音質をまず・・・

・audiobook.jpは

 みんな今すぐ聴いてください。



サンプルの試聴たくさんありますので
まずご自分の耳で、ぜひどうぞ。



おしまい。




補足

MP3圧縮での音質変化がどんなものか調べた記事。
2012,13年に書かれたものですが、原理を垣間見るのに。


こちらは圧縮方式のそれぞれをわかりやすく概観した記事。これいい!


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