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#九尾なぐ
狐日和に九尾なぐ 第九話
■牡蠣で食中毒じゃないのは、わらわだけ。「なぐちゃん、なぐちゃん――!?」
何が起きたというのだろう。何の変哲もない厚岸名物を口にした瞬間、床に倒れた挙げ句、のたうち回ってしまっているのではないか。
もしかして食中毒?
牡蠣の食中毒で真っ先に考えられるのは、ノロウイルスだ。
これはウイルスに感染した二枚貝を生食したり、加熱しても不十分である場合に発生する食中毒で、吐き気や嘔吐といった症状
狐日和に九尾なぐ 第八話
■苦手な魚介類を食べさせられるのは、わらわだけ。「えっ、なんで脱いでるの……?」
おそらく彼女としてはカッコつけた感じで決まっていたみたいなのだが、下半身丸出しでドヤ顔をされてもこちらとしては反応に困る。
「わらわがわらわであるという証を見せつけておるのじゃ」
ふわふわもふもふ九本のしっぽはいいけど、半裸で見せつけるな。
「はぁ……」
身体から一気に力が抜けて、思わずため息をついてしまう。
狐日和に九尾なぐ 第七話
■スウェットを脱ぎ捨てるのは、わらわだけ。「え、えーっと……さっき、ぐるなびって言ってたよね? 厚岸で美味しいご飯屋さん知ってるの?」
不思議な力を使い終わり、キズパワーパッドを無造作に剥がす狐少女にそっと声をかける。驚くことにあれだけ出血が見られた傷はものの見事に治ってしまっていた。
彼女曰く「囁きに呼応してくれる力」。どんな原理で治療できるのかは全くもって理解できないが、とにかくそんな不
狐日和に九尾なぐ 第六話
■その能力を使えるのは、わらわだけ。 狐少女を寝かせつけてしばらく経とうとしていた。スウェット姿だけでは寒いだろうから上から毛布をかけたのだが、寝返りを打つたびに足蹴にしていくのが愛らしかった。
私はというと自室に一旦戻り、「体調が悪いので午後休をいただきます」とメッセージをグループチャットに投げてから、彼女のためのうどんスープを溶かしたり、風呂場の掃除を済ませたりした。
おおかたの作業が一
狐日和に九尾なぐ 第五話
■しっぽをいじられるのは、わらわだけ。 根元は小麦色、先端に向かっていくにつれて色素が薄くなっていくその九尾をじっと眺め、また生え際へ目線を戻す。
「生えてる……」
一回りも年齢がかけ離れていると思しき少女の臀部。それをまじまじと観察する独身女性の姿があった。自分の行為が異常なのは承知しているが、目の前に広がるこの光景こそさらなる異常なのだから、見てしまうほかないではないか。
きゅっと締ま
狐日和に九尾なぐ 第四話
■脱がされるのは、わらわだけ。 コスプレというには質感があまりにリアルで、なんなら彼女の身体よりもしっぽのほうが熱量を持っているほどだ。狐のような恒温動物は身体の熱を耳や尾から逃がすという話を聞いたことがある。あるいはこの女の子も本物の狐の一種なのだろうか?
「いや、さすがにそれはないわ……」
いくら精巧にできているとはいえ、それは考えすぎだと首を振った。ただ、そうした間にもそのしっぽはまるで
狐日和に九尾なぐ 第三話
■信じないのは、わらわだけ。「ぷゅこ……」
頭からはキツネの耳がぴょこんと生えており、彼女の苦しそうな寝息に合わせて動いている。さらにお尻からは九本のしっぽも力なく揺らめいているではないか。
こんなに精巧なコスプレは秋葉原はおろか、ビッグサイトの同人誌即売会でも見たことがない。
もしかすると北海道のコスプレ技術は、私が知らないだけでとんでもない独自の技術革新を遂げてしまっていたのだろうか。
狐日和に九尾なぐ 第二話
■化けたのは、わらわだけ。 五月雨の昼下がりだった。釧路からさらに東に位置するこの厚岸の雨は東京と比べてしんと冷たく、春すらも迎えてないのではないかと勘違いしてしまうほどだ。
とはいえ、この天気もむしろ望んでいたことだ。せわしい往来と蒸し暑さが息苦しい都会と比べると、初夏らしからぬ肌寒さと雨音だけを感じていられる田舎というのは、幾分か気が楽になるような気がした。
「田舎に幻滅しても知らないから
狐日和に九尾なぐ 第一話
■狙われるのは、わらわだけ。 逃げて、逃げて、それでもあの人間たちは追ってきた。
どんなに雨粒が傷口を流そうとしても、灼熱の鼓動と共に身体から命の欠片が溢れ出ていく。
「やめろ、人間ども! 命を弄ぶでない!」
負傷した後ろ脚を引きずりながらも、決死の思いで入り組んだ路地へ走り込むがしかし、その無邪気の巨悪が素早く後をつけてくる。
「おい、こっちに逃げた」
「まだ死なねえのかよ、しぶてぇな」