歳とっちゃったな

何で空目したんだか忘れた。だから鵜呑みにしないでほしい。早とちりの勘違いだと思うから。

僕は若い頃バンドをやっていてミュージシャンというかアーティストを目指していたんだけれど、曲が書けなくて1番に僕のメン募に応募してきたギター野郎に曲作りを任せて、歌いやすいようにアレンジしたりメロディを修正したりリリックを書いたりしていた。そうそう僕は一応バンドのリーダーでボーカルだった。つまりバンドをやりたくて自分でメンバー集めて作ったんだよね。起業するようなもんだね。アントレプレナー。

……ほんの数回ライブをやって、バンドメンバーとのコンセプトの相違と、歌うのは大好きだったけど上手くはない下手でもない程度だったんで自分の実力に限界を感じ、自分の歌声もコンプレックスになっちゃって、そのうち生活のために働いていた絵の仕事がメインになって、バンドは空中分解した。

辛かったな。幸い仕事が楽しかったからそっちに打ち込めたけれど、なんていうか自分のいくつかある夢の大きい母船がガリガリと座礁して沈没したような虚しさだった。

その頃にミスチルを知った。存在は知っていて、いいなアイツらは。うまくやって売れてるんだなってちょっぴり悔しく思う程度で、特に好きでもなかったんだけれど。

……あれ? これいい曲じゃん。なんか元気が出るぞ。覚えて歌ってみたいな思いっきり…って思ったのがドラマの主題歌になってあちこちで流れていた『HANABI』だった。

『HANABI』がリリースされた頃は僕はグラフィックデザインの仕事を失って音楽のローカル放送局でスタジオ管理&モニターのアルバイトをしていたんだよね。音楽の機材は何でもござれで扱えたから内容的には楽だったけれど、毎朝スタジオと機材の掃除をしたり時間ピッタリに機材の調整をして動かしたりプログラムを組んだりお客さんの電話リクエストに応えたりしてけっこう慌ただしい仕事で毎日ヘトヘトだった。

仕事が終わると一緒にバディを組んでたもう1人の相棒とビルの外にある灰皿んとこで一服してお疲れ様って帰るんだけれど、家に帰ると挫けそうになるんだよね。疲れるからさ、明日もきちんと出勤できるかなぁって不安になったりしてさ。

そんな時に『HANABI』を聴いたんだ。

毎日ハードワークでバタバタして体もだけれど頭もいっぱいいっぱいでヘトヘトになっている。でもせっかく見つけた大好きな音楽のバイトだ。辞めたくはない。そこに歌詞がすうっと染み込んできたんだ。

誰も皆問題を抱えている
だけど素敵な明日を願っている
臆病風に吹かれて波風がたった世界を
どれだけ愛することができるだろう
もう一回 もう一回
もう一回 もう一回

この歌を覚えるのにかなり苦戦した。ミスチル、桜井和寿の歌い方はちょっと独特のものがあって、爽やかにスっと歌っているように聞こえるけれど自分で真似をして歌ってみようとすると歌詞が複雑だったり旋律が難しかったりしてその癖のようなものに慣れるまで何度も何度も歌いこんでやっとなんとか歌えるようになったって感じ。

僕は洋楽が好きだったからJ-ROCKにハマるなんて思っていなかったな。それもごくメジャーな。

その桜井和寿が、「今回のアルバム『SOUNDTRACKS』以上のものを作れる気がしない。アルバムはこれで最後にしたい」みたいな事を言っているのを…いやちょっと違うニュアンスだったかもしれないけれど、ネットで見てショックだったんだ。え、もう辞めちゃうのかな? 僕はミスチルが好きになってiTunesで聴いたりカラオケで熱唱したりするようになったのってつい数年前の『HANABI』からで新参者なのに? そういえば桜井和寿老けたような気がする。朝ドラデビューしたドラマーの大きな息子もいるみたいだし…でも僕とそんなに歳ちがわないよな? アルバムが最高だって言いたいだけかな? やめてくれよ、僕はこれから何かを成し遂げて人生のオチをなんとかつけたいと思っているのに、同年代の人はもう締めくくりに入っているのかな? 冗談じゃないよ…

そんな事を思ったんだ。同世代で活躍してる人が老けたと感じるって事は、僕自身ももちろん老けたって事だ。

いやだな。老け込みたくないな。外見もだけれど心も気持ちも脳みそも。いつまでも馬鹿みたいな厨二病でもいいよ。子供のようにキラキラした目をして走っていたいと思うよ。

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