見出し画像

整体で5万の利用チケットを買わされそうになった

「整体に行ったら、5万円の利用チケットを買わされそうになりました」

そう上司に報告したら、怒られた。

数年前のことだ。
私は非常に姿勢が悪く、巻き肩で猫背でお腹がぽっこり出ている。
当時は痩せていたので、私の身体は地獄の底に住む餓鬼のような体型だった。
そんなアンバランスボディを矯正してもらうべく、人生で初めて整体に行った。
整体って、マッサージみたいなもんかな?と思いつつ、扉を開けたらやたらとトロピカルで陽気な格好をしたお兄さんやお姉さんに迎えられた。
(所々ぼかして書いてます)
そしてあれよあれよという間に整体を受けて、「インナーマッスルを鍛えましょう」と言われ電気が流れるらしい装置を付けられたのだ。
「この機械を装着するだけで、インナーマッスルが鍛えられ、お腹が引き締まるんですよ」とニコニコするお兄さん。
実は、私はインナーマッスルを鍛えるベルトをすでに持っていた。
毎日付けて「これで腹筋が鍛えられるぞ」とわくわくしていたのだが、風呂上がりの湿った身体に巻いてスイッチを押した瞬間感電したのでそれ以来怖くて使っていない。
私が100%悪いので、「電気は怖いから流さないでください」とは口が裂けても言えなかった。
お兄さんの話では、この整体と、電気治療を受けることで姿勢が改善するとの話だ。
整体を受ける前と受けた後の、私の姿勢の違いを写真で見せて「ほら、姿勢良くなったでしょ」と言ったお兄さんは、さっそく料金プランについて解説を始める。
どうやら、利用チケットを前払いで買うシステムらしい。

その額、およそ5万円。

私は今のお財布の中身を思い返し、ものの3秒で「そんな金は無い」という結論に至った。
そんなお金があったら、21万で買ったボロボロの車の修理に使っている。
なので、なるべく愛想よく「考えておきます!」とだけ言って、初回料金だけ支払い逃げるように立ち去った。
「カード払いもできる」と言うお兄さんに「カード……?よくわからないんでぇ……」と一生懸命つぶらな目をしてカードの存在を知らないフリをして逃げたのだ。

そして翌日「整体に行ったら、5万円の利用チケットを買わされそうになりました」と上司に報告したらめちゃくちゃ怒られた。
上司は「あほ!」と怒り、「なんでアンタは」と頭を抱えた。
そして私を社用車に乗せると、近くの衣料品店に駆け込み猫背矯正下着を3枚買わせた。
さらに上司は会社に戻ると、私が見せた会員証を何の迷いもなくシュレッダーでガリガリと粉微塵にしたのだ。
会員証が見るも無惨な紙くずになった所で、上司は「インナーマッスルなんて自分で鍛えなさい!」と筋トレをレクチャーし始める。
「金を使う前に相談!」と上司が叫ぶ中で私は必死にプランクをした。

さて、それからしばらく経ったある日のこと。
私は家で随分愛想のいいフレッシュな新人引っ越し業者と向き合っていた。
引っ越しをしなくてはならなくなったので、見積もりをお願いしたのである。
引っ越しとは言え、今の家から10分ほどの近場で、一人暮らしなので持っている家具も少なめだ。
大きな家具はベットと洗濯機ぐらいなので、そんなに高い値段じゃないだろうと高をくくっていた。
しかし、見積もりのお兄さんは「あー、この家具だとトラックは大きめにしないと入りませんねぇ」と困った顔をする。
そしてトラックの写真を見せて「こっちのトラックを使わなきゃいけないです」と、馬鹿みたいにでかいトラックの写真を指した。

ほんとか?
こんな4人暮らしの家族が大移動をするような巨大トラックじゃないと、このこぢんまりとした単身用冷蔵庫が入らないと言うのか。
というか、こんなサイズのトラックが引っ越し先の狭い道路にどうやって入るんだ。
しかし、相手は引っ越しのプロのはず……
彼が「大きいトラックじゃないと無理」と言うのならそうなのだろう。

繁忙期でも無いのに10万を軽々越えた金額を提示されたが、私は(引っ越しってお金かかるんだなぁ)と肩を落としつつ、「よろしくお願いします」と頭を下げた。

翌日、「引っ越しの見積もりをお願いしたら10万以上かかるって言われました」と会社で報告した。

私はまたもや上司に怒られた。

「アンタの家のどこにそんなでかい家具があるっていうの」「若い女だからって舐め腐ってんのよ」と上司はあらん限りの言葉でキレ散らかす。
上司は私の男性の先輩を呼ぶと「キャンセルの電話入れて。男の方がいい」と指示した。
先輩はなるべく低い声を出して、引っ越しをキャンセルしてくれた。
会社の人たちが頼もしくてよかった。
上司は「1万円以上使う時は相談してから使って」となかなか無茶な事を言う。
キレやすい上司だが、いつだって最後まで面倒を見てくれる上司でもあるのだ。

その後、別の引越し業者に見積もりをお願いしたら半額近くにまで値段が抑えられた。
「別の業者に十数万かかると言われたんですけれど」と言ったら見積もりの方は「ははは、かかるわけ無いですよ」と笑われた。
私だって他人の事だったら笑ってる。

さて、まだ話は終わらない。
よっぽどカモにしやすい顔をしているのだろう。
私はディーラーにもぼったくられそうになっていたらしい。
新車を買って初めての車検の時だ。
そのディーラーは、会社で付き合いがあった。
社用車の車検やオイル交換、タイヤ交換もしてもらっている。
私が乗っていた21万のオンボロ中古車の車軸が明らかに歪んできたので車を買いたいと言った時、「付き合いのあるディーラーだったら、悪いようにはしないはず」と上司の勧めで、そこのディーラーで車を買ったのだ。
お気に入りの大事な車である。
その車の初の車検の見積もりに行った。

その額、およそ20万。

当時、私の貯金は30万ほどだった。
そんなに?
マジで?
9割方近場のイオンと会社を行き来しているだけの車に20万??
私が以前乗ってたオンボロ中古車が21万なのに?????
車検の日取りを決められ、これからどうやって生活していけばいいんだ……としょんぼり肩を落として帰った。

翌日上司に「車検に20万かかると言われた」と報告した。

私の欠点で利点なのだが、非常に素直に何でも聞くし、非常に素直に何でも報告してしまう。
私はその素直さのせいであらゆる人にカモにされかけ、身近な人に素直に報告し「このアホが」と止められた。
20万の車検の話を聞いた上司は、それはもうキレた。
「アンタの車が20万するわけないやろ使い込んだうちの社用車の車検が2台で6万なのに!!!」

それはそれでディーラーがかわいそうと思ったが、兎にも角にも上司は即刻キャンセルの指示を出す。
上司が「出張で県を離れることになり、予約の日に車検に行けない。車検は全て私の彼氏に頼んだので、彼氏が別の業者にお願いしてしまった」というストーリーを作り上げ、すぐにディーラーに電話することとなった。
居もしない彼氏と有りもしない出張をでっち上げる羽目になった私は泣きそうになりながらキャンセルの電話を入れた。

後日、他の業者2つに車検見積もりを頼んだ。
どちらも「まぁ、バッテリーも変えるのなら8万ぐらいですかね」と見積書を出し、「20万は、いくら何でも……」と苦笑いした。

「アンタは阿呆じゃない……阿呆じゃないけど、あんま賢くないな……」

上司は事ある度に遠い目をしてそう言った。
疲れていたのだと思う。
私だって、私みたいな奴が部下だったらとっくに胃潰瘍になっている。


ここで私のぼったくられ教訓を、一応書き記しておこうと思う。

・行く前に評判、相場を調べる。
これはできない時もあるのだが、相場を知っておくことは大事。
「怪しいかも」とか「ちょっと高いんじゃない?」って言う微かな引っ掛かりは自分を助けるきっかけにつながる。
評判はネットで調べるのがてっとり早いが、検索結果の一番上に出てきたことが真実とは思っちゃいけない。
ある店舗で「毎朝〇〇(その店の名)を検索しましょう!」と張り紙がされてるのを目撃した事がある。
評価が☆5しか無いのは逆に怪しいと思った方がいい。

・第三者の影をちらつかせる
自分は他にも味方が居るんだぞとアピールしとく。
いなくても捏造する。
私も新聞勧誘が来る度「経済新聞しか読まないちょっと気難しい旦那」を作り上げている。

・周囲の人に話す
うちの上司みたいに会員証をシュレッダー行きにするぐらい苛烈な御仁がいらっしゃれば、そういう人に言うのがオススメ。
なるべく早く相談する方がいい。
2回、3回と利用して深みにハマる前に喋っておく。
その時、シンプルに言う方がいい。
「〇〇分の整体と、高性能電子治療が受けられて、◯回分で5万なんだけれど効能を考えれば全然高くなくて〜」みたいな話をするな。
「整体で5万円前払いってどう思う?」ぐらいシンプルな方がいい。
きっと、普通の人なら「え……」って言うと思う。

・選択肢がいくつもある事を覚えておく。
整体院は一つじゃない。
引越し業者は一つじゃない。
ディーラーじゃなくても車検をしてくれる所はある。
他の会社が、方法があるかもしれないと常に思っておくことが重要。


整体も、引っ越しも、ディーラーも違法なものでは無い。
きっと、何も言わなければ私は35万ほど払って、姿勢の良い体と、荷物が何でも入る大型トラックでの引っ越しと、安心すぎる車検を受けていたことだろう。
それでいい、って人は別にそれでも構わないと思う。
でも、私は周りの人が止めてくれてよかったと思っている。
私のぼったくられ教訓は穴だらけだとは思うけれど、それでも実際に叱られて身についたことなので言葉にして置いておく。
私の身に危険が降り注ぐことが無くなったかと言えば、別にそんな事は無く、先日も怪しげな治療器に座らされ電気を身体に流しながらハイテンションな店員とコール&レスポンスをさせられていた。
会社をやめた今となっては、あの叱ってくれる上司もいないが、私には話を聞いてくれる人たちが周りにちゃんと居る。
それが救いだ。

怪しい電気治療を受けてきた私は「先日こんな所に行って来たんですよ」と知り合いに話した。
その方は「催眠商法ですね」と実にあっさりそう言った。

本当に私の周りは頼もしい。  


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?