シェア
三浦たまの
2021年9月7日 00:22
ソナチネの章1その知らせは桑畑の広がる里を凍らせた。―くるぞ。 人々は声を低くし口々に囁き合い、すさまじい泥流の勢いでその「知らせ」は瞬く間に里じゅうを駆け抜けた。 しかし禍々しい知らせとは対照的に、さんさんと陽の光を浴びて無邪気に光合成する桑の葉はこの季節、いちばん美しかった。「彼女」は桑の匂いが好きだった。 身の丈を軽く越す、しかしそれほど高くはない種の桑の木々の海の中で