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「無人島へ持っていく1冊」

 新聞や雑誌の書評欄に有名人の愛読書を紹介するコーナーがある。新刊以外の“名著”に出会うきっかけになるので、必ずチェックする。

 かつては「無人島へ持っていく1冊を選ぶとすれば」というインタビューが定番だったこともあるようだ。中学時代の恩師(国語担当)が「自分なら『広辞苑』と答える。項目数が多いだけでなく、とても深い」と言っていた。

 私が仕事で各国を飛び回っていたのは20~25年前。例えば「カンボジアに1カ月の長期出張」ともなれば、日本語環境は実質的に「無人島」。「読む本がなくなったらどうしよう」という脅迫観念に苛まれるが、持っていける荷物の大きさには限りもある。荷造りでちょっと悩んだものだ。年に300冊ペースのいまとは比べ物にならないほど読むスピードは遅かったし、実際は仕事や生活環境の変化に慣れることに無我夢中で、本など読むことはほとんどなかったのだが。

 21世紀のアラカンになったいま。

 読書生活は、図書館で大量に借り出している本をどんどん読み倒していかねばならない“自転車操業”の日々だ。コロナ禍もあって、最近は休暇でも長い旅行に行くことはないが、もし同じ環境になったらどうするか。紙の本は嵩張るから、Kindle本を中心に組み立てることになるのだろう。「20年前にKindleがあったら、安心だっただろうな」とぼんやり考える。

 「無人島だってKindleさえあればいいじゃないか!」とひらめいたが、くだんのアンケートの主旨は「いちばんの愛読書」を尋ねているわけで、この回答は“ルール違反”か。あ、そもそもその無人島に電源と通信環境はあるのかい、フライデー君?

  真面目に考えると、私の“無人島の1冊”は「カラマーゾフの兄弟」だろうか。いろいろな読み方ができるらしいし、物理的にも長いし、このままでは読破できないまま生涯を終えそうなことをちょっと焦ってもいる。
(22/7/2)


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