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めんどくさい俺ら〜「おいしいごはんが食べられますように」

(ネタバレあり)
 高瀬隼子の芥川賞受賞作「おいしいごはんが食べられますように」を掲載誌「群像」1月号で読了した。

 職場のちょっとしたあれこれ(しかし当事者にとってはなかなか深刻だ)を、主に食べ物を媒介にした描写で掬い取っていて、スルスル読める。

 節ごとに視点が変わる。しかし、メインキャラ3名のうち語るのは二谷と押尾だけ。芦川は常に外から描かれるために、心情はわからない。そこに作者の意図(悪意?)があるのがとてもいい。私も芦川のような“あざとしたたか”なタイプは苦手だ。

 3人が3人とも、なんとも「めんどくさい」。そしてそれぞれのその行動原理やこだわりがいちいち理解できるので、納得できる。

 つまり「めんどくさいのが俺らだ!」が本作のテーマなのだろう。そこはしっかりわかりやすく、「とても面白かった」。

 しかし、読了後はモヤモヤしている。

 何しろ芥川賞だ。「エンタメとしてこんなに楽しく、面白く読んじゃっていいのかなー」という、自分の読書レベルについての不安がある。これは宮本輝作品でもいつも感じてしまうところ。“原点”は「優駿」のあまりの面白さにギャアとひっくり返ったことだ。

 さて。作者の高瀬隼子さんは現役の会社員だ。どこかのインタビューで「会社に勤めているから見えるものがある」と、兼業をやめない意向を明らかにしていた。

 このように生々しく職場を描写した作品で芥川賞とという華々しい賞を獲っちゃうと、モデルになったであろう人物の有無にかかわらず、職場の同僚は気まずいのではないか。余計な心配ですね、はい。
(22/8/14)


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