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「あんたのしゃべり方が気に食わない」

テレビ局の報道部門にいれば、大小さまざまなトラブルに対応しなくてはならないこともある。

数年前のこと。

ある項目の取材で外国の街かどを歩いている日本人の映像を撮影してOAした。事件ネタではなく、誰かを容疑者扱いをするようなものではない。映像もその人物を特に強調していることはなく、さまざまな関連映像のなかに映っているひとり、という扱いだった。

それでも放送当日にご当人を名乗って“抗議”の電話が国際電話でかかってきた。若い女性である。日本で放送を見た友人から連絡をうけた、自分の業務に多大な迷惑を受けている、という。

こちらとしては「項目に関連する街かどの一部として取材・放送しているもの」「事件の容疑者としているものでもない」ということを丁寧に説明したが、なかなか納得していただけなかった。

通話が長時間になってくると、先方はだんだん感情的になってくる(「国際電話料金が高くなる」ということだったので、こちらから掛け直した)。しまいには「こちらがしゃべっているのに、途中で遮るな」「あんたの喋り方が、気に食わない」などとおっしゃる。

それに逆ギレして応対しても仕方がないので、こちらはひたすら冷静になろうと務めることになる。それでも、装着していたApple Watchがピーピーと警告音を鳴動させたのでびっくりした。ストレスで心拍数が上昇したのを感知して警告してくれたらしい。そんな機能があったことをこの時に初めて知った。

確かに私の声のトーンはちょっと冷たい印象を与えるタイプなのかもしれないという自覚はある。

「こちらの話を遮るな」についても、真剣に説明しようとすると、つい会話がかぶることを指摘されたものだろう。いつも会社で若い人間と話す際は、こちらがしゃべり始めればたいてい向こうが黙ってくれることが多く、なるほどそれに慣れちゃっていたのかな、というところである。

本件では「今後そちらが映っているカットは使用しない」ということをお約束したが、当然ながら、先方が要求している「謝罪放送」「金銭的補償」は受けることができず、納得してもらえないままモノ別れとなった。

いまもこちらに瑕疵があったとは思っていないが、「ああ、テレビという媒体を嫌いになるヒトがまた増えちゃったのかな」という苦い思いだけが残ったのである。

「一つだけお願いがあります。私のことは嫌いでも、テレビのことは嫌いにならないでください」(元ネタは前田敦子)っていうところだ。
(22/1/16)


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