瞬間炎上した“物欲”
気がつくと、アラカンのおぢさんが「欲しいモノ」など、ほとんどなくなっている。
ウィンドウショッピング好きなカミさんが行きたいようなので、家族旅行のついでにアウトレットモールに立ち寄ることがある。しかし、なにしろ物欲が衰えているためにちっともワクワクしない。ウロウロと覗くショップではカバン、腕時計、財布などを見ているが、ついぞ買うことはない。盛大に時間を持て余して、結局スタバで本を読みながら集合時間を待つことになる。
今年の春に気になる腕時計が発売された。スウォッチがオメガとコラボした「ムーンスウォッチ」シリーズだ。
オメガの“顔”を持ちながら3万円台という安さ。スウォッチなのにオメガ。オメガなのにスウォッチ。チープさと高級感のミックス具合がなんとも魅力的なのだ。期間限定商品ではないが通販がなく、日本で買えるのは渋谷・原宿・大阪の3店舗だけ、という。
魅力を感じたのは私だけではなかった。実に多くの人たちが反応、発売当日はあまりに人が押し寄せたために売り出しを中止する騒ぎになった。入荷数が少ないのか、半年以上経過したいまも品薄が続く。
それでも、こんな品薄商法にお付き合いして振り回される時間と体力はなく、いつしか忘れかけていた。20代の長男と「これ、ちょっと欲しいねー」と話すことがあった程度だ。
ところが。きのうの夕刻、長男からのLINEが舞い込んだ。
仕事の途中で立ち寄った渋谷のスウォッチに4色だけ在庫がある、という。私はたまたま上司との打ち合わせ中というタイミングだったため、LINEをその場で確認していなかった。30分後に慌てて電話をしたら「もうとっくに渋谷を離れたよ」「欲しい色がなかったから買わなかった」「あ、欲しかった?」と言われた。
その瞬間、キョーレツに「欲しかった!」と思った。忘れかけていた“物欲”が心の中でメラメラと炎上、焼けぼっくいに火がついたのである。
シリーズ11色のうち、気になるのはムーン、マーキュリー、マーズ、プルート。そのマーズが長男の目の前にあったのである。
長男は「いまから渋谷へ行けばいいじゃない?」と気軽に提案してくる。しかし、職場のテレビニュースは「ハロウィーンで渋谷は厳戒態勢」と繰り返し人混みの中継をしている。ああ、きのうは1年でもっとも渋谷に近づいてはいけない日なのであった。
一旦火がついた欲望は、一晩寝たぐらいで鎮火するはずがない。
今日は仕事がハネたら渋谷へ行くかもしれない。
(22/11/1)