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僕の好きな詩について 第五回 宮沢賢治

こんばんは。僕の好きな詩について思うまま語るシリーズ第五段は、宮沢賢治です。(このシリーズでは出来るだけ有名な筆者か作品を選んでいるつもりです)

素晴らしい作品が星の数程ありますが、今回はこちら。

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「永訣の朝」 宮沢賢治

けふのうちに
とほくへいってしまふわたくしのいもうとよ
みぞれがふっておもてはへんにあかるいのだ
(あめゆじゅとてちてけんじゃ)

うすあかくいっさう陰惨な雲から
みぞれはびちょびちょふってくる
(あめゆじゅとてちてけんじゃ)

青い蓴菜のもやうのついた
これらふたつのかけた陶椀に
おまへがたべるあめゆきをとらうとして
わたくしはまがったてっぽうだまのやうに
このくらいみぞれのなかに飛びだした
   (あめゆじゅとてちてけんじゃ)

蒼鉛いろの暗い雲から
みぞれはびちょびちょ沈んでくる
ああとし子
死ぬといふいまごろになって
わたくしをいっしゃうあかるくするために
こんなさっぱりした雪のひとわんを
おまへはわたくしにたのんだのだ
ありがたうわたくしのけなげないもうとよ
わたくしもまっすぐにすすんでいくから
   (あめゆじゅとてちてけんじゃ)

はげしいはげしい熱やあえぎのあひだから
おまへはわたくしにたのんだのだ
 銀河や太陽、気圏などとよばれたせかいの
そらからおちた雪のさいごのひとわんを……
…ふたきれのみかげせきざいに
みぞれはさびしくたまってゐる
わたくしはそのうへにあぶなくたち
雪と水とのまっしろな二相系をたもち
すきとほるつめたい雫にみちた
このつややかな松のえだから
わたくしのやさしいいもうとの
さいごのたべものをもらっていかう
わたしたちがいっしょにそだってきたあひだ
みなれたちゃわんのこの藍のもやうにも
もうけふおまへはわかれてしまふ
(Ora Orade Shitori egumo)
ほんたうにけふおまへはわかれてしまふ

あああのとざされた病室の
くらいびゃうぶやかやのなかに
やさしくあをじろく燃えてゐる
わたくしのけなげないもうとよ
この雪はどこをえらばうにも
あんまりどこもまっしろなのだ
あんなおそろしいみだれたそらから
このうつくしい雪がきたのだ
 (うまれでくるたて
   こんどはこたにわりやのごとばかりで
   くるしまなあよにうまれてくる)

おまへがたべるこのふたわんのゆきに
わたくしはいまこころからいのる
どうかこれが天上のアイスクリームになって
おまへとみんなとに聖い資糧をもたらすやうに
わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ

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感動的な詩に必要なのは強い愛だと思います。その強さは悲しいものも嬉しさに彩られたものもありますが、とにかく強い愛が(それが自己愛や詩への愛情であったとしても)必要だと断言したいです。

妹の死後の安楽へのすべての幸いをかけた祈り。それはつまり「全ての幸い」が賢治の死後の幸せも含んでいるということになります。

それほどまでの愛を紙に焼き付けることは、苦しいだけのことでしょうか。

それにしても、僕が強く心を動かされる詩はいつも「手紙」です。受け取り手の存在することばです。それは筆者が対象を想定することで思いが濃くなるからかも知れません。

#詩 #現代詩 #感想文 #宮沢賢治 #永訣の朝

いつか詩集を出したいと思っています。その資金に充てさせていただきますので、よろしければサポートをお願いいたします。