僕の好きな詩について 第十四回 吉岡実
僕の好きな詩について云々するnote、第十四回は吉岡実氏です。
シュールレアリズムです。モダニズムです。
では。
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「僧侶」吉岡 実
1
四人の僧侶
庭園をそぞろ歩き
ときに黒い布を巻きあげる
棒の形
憎しみもなしに
若い女を叩く
こうもりが叫ぶまで
一人は食事をつくる
一人は罪人を探しにゆく
一人は自潰
一人は女に殺される
2
四人の僧侶
めいめいの務めにはげむ
聖人形をおろし
磔に牝牛を掲げ
一人が一人の頭髪を剃り
死んだ一人が祈祷し
他の一人が棺をつくるとき
深夜の人里から押しよせる分娩の洪水
四人がいっせいに立ちあがる
不具の四つのアンブレラ
美しい壁と天井張り
そこに穴があらわれ
雨がふりだす
3
四人の僧侶
夕べの食卓につく
手のながい一人がフォークを配る
いぼのある一人の手が酒を注ぐ
他の二人は手を見せず
今日の猫と
未来の女にさわりながら
同時に両方のボデーを具えた
毛深い像を二人の手が造り上げる
肉は骨を緊めるもの
肉は血に晒されるもの
二人は飽食のため肥り
二人は創造のためやせほそり
4
四人の僧侶
朝の苦行に出かける
一人は森へ鳥の姿でかりうどを迎えにゆく
一人は川へ魚の姿で女中の股をのぞきにゆく
一人は街から馬の姿で殺戮の器具を積んでくる
一人は死んでいるので鐘をうつ
四人一緒にかつて哄笑しない
5
四人の僧侶
畑で種子を撒く
中の一人が誤って
子供の臍に蕪を供える
驚愕した陶器の顔の母親の口が
赭い泥の太陽を沈めた
非常に高いブランコに乗り
三人が合唱している
死んだ一人は
巣のからすの深い咽喉の中で声を出す
6
四人の僧侶
井戸のまわりにかがむ
洗濯物は山羊の陰嚢
洗いきれぬ月経帯
三人がかりでしぼりだす
気球の大きさのシーツ
死んだ一人がかついで干しにゆく
雨のなかの塔の上に
7
四人の僧侶
一人は寺院の由来と四人の来歴を書く
一人は世界の花の女王達の生活を書く
一人は猿と斧と戦車の歴史を書く
一人は死んでいるので
他の者にかくれて
三人の記録をつぎつぎに焚く
8
四人の僧侶
一人は枯木の地に千人のかくし児を産んだ
一人は塩と月のない海に千人のかくし児を死なせた
一人は蛇とぶどうの絡まる秤の上で
死せる者千人の足生ける者千人の眼の衡量の等しいのに驚く
一人は死んでいてなお病気
石塀の向うで咳をする
9
四人の僧侶
固い胸当のとりでを出る
生涯収穫がないので
世界より一段高い所で
首をつり共に嗤う
されば
四人の骨は冬の木の太さのまま
縄のきれる時代まで死んでいる
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突然ですが、詩というジャンルは「孤独」と親和性が高いと思うんです。誰かを失って悲しい、寂しい、そこから脱却して希望が見えた、でも孤独を感じる、というような情動が秘められた主題の詩で、人々に愛されているものがたくさんあります。
この詩はもう、そう言った感情を全部燃やしてしまって、四人の僧侶というメタファーによる他者の描写に徹底しています。この「他者」は完全なる「俗」で、悪と言っても過言では無い存在です。
そのはちゃめちゃな僧侶たちによる陰惨なスラップスティックが無闇に迫力のある言葉で記されていて、読んでいて眩暈がするほどです。
こんなにもモダニズムが過ぎると、もういっそ詩心が刺激されてエネルギーが湧いてきます。
全然意味が分からないけれど、凄みが滲む、素晴らしい詩だと僕は思います。
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