誓いの言葉

12月6日
今日はいつものバイトを早めに上がり、ライブスタッフ稼働の日。

新宿の劇場は結構仕事で携わっているほうだと思っていたが、今日行く場所は初めての現場だった。
別に所属事務所もないので、どの事務所のライブに携わろうが悪いことはないのだが、養成所の関係もあり、なんとなく贔屓になっている事務所があるのが現状である。そして、今回はなかなか一緒に仕事をする機会のない別事務所のライブであり、その持ち小屋での開催になったのだ。裏口も分からぬままおずおずと入っていく。

いつものライブハウスとは異なり、ちゃんとした持ち小屋のため、機材がガチである。フェーダーの数が多すぎてめまいがしたが、使うのは2つだけだったのでほっと胸を撫で下ろした。その上、担当も複雑さの少ない照明スタッフだったし、座付きのスタッフさんが横で色々教えてくれたので、なんとかミスなく終演まで運べた。

劇場を出たあと、野暮用を済ますため本社に向かうと、同期の芸人たちに会った。軽い世間話をして別れ、数分後Twitterを開くと、先ほど挨拶したばかりの芸人が解散・引退報告をしていた。
時期も時期であるし、正直コンビでの活動がここ最近落ち着いていたので、どこか納得する気もしたが、すぐにまた脈が早くなった。さっき会ったばっかりなのに、どうして。

彼は、彼らコンビは数少ない芸人友だちだった。人見知りの私にとって唯一の存在といっても過言ではない。
また、私を物書きの道へ後押ししてくれた恩人でもあった。ADだったあの頃、あの劇場でネタを見ていなかったら。終演後、話を聞いてもらっていなかったら。「小説家になれば?」と言ってもらえなかったら。今私はこうして文章を書いていないと思う。ずっと眠らせていた夢を思い出させてくれた彼ら。また、恩返しができないまま離れていく人が増えてしまった。

ネタもトークも面白く、人柄も良い彼らをこれからも応援したかった。きっとライブに通っていたファンの方はなおのことそう思っているはずだろう。でも、ファンだろうとスタッフだろうと芸人仲間だろうと、『コンビ』という世界において当人2人以外は全員外野だ。何かを言って止められるほどの権利は微塵もない。許されているのは、ただ応援することだけだ。
コンビの片割れは引退するものの、これからは構成作家に転身するという。この業界にいる限り、また会えるはずだ。
『お互い売れようね』
何度も送った誓いの言葉を文字に託して、いつもより強めに送信ボタンを押した。

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