私はミックスジュースが飲めない
人間、誰しも苦手な食べ物がある。
少ないに越したことはないが、好みは千差万別。それを証明するように、「育ってきた環境が違うから好き嫌いはイナメナイ」と山崎まさよし氏も歌っていた。
先日、友人と苦手なものの話をしていた時のこと。
私はすっぱ辛い食べ物とパクチーや大葉等の香草、いちょう切り以上の大きさの人参が苦手だ。味と匂いがどうも得意になれない。人参は小さければ我慢して飲み込むことができるのだが、煮物やカレーに入れられるような大きなサイズのものは耐えられない。大葉も食べられないことはないが、できることなら避けたいし、パクチーもすっぱ辛いものも不得手なのでなるべくエスニック料理店には近づかないようにしている。
人付き合いや好意を持って出された場合は残さず食べるよう徹するが、そうでなければ極力口にしたくない。
そしてもう一つ、苦手なものに『ミックスジュース』がある。その理由を友人に告げると、彼女はネットでよく見るスペースキャットと同じ顔をしていた。
私がミックスジュースが苦手な理由。それは、
『一口含むだけで味がたくさんあり、何が入っているか考えて頭がバグりそうになるから』
である。
読者様のそんな声が聞こえてきそうなので、もう少しわかりやすく伝えたい。
ここでのミックスジュースは野菜ジュースやフルーツジュースなど、複数の食材がミキサー等で混ぜられたドリンクを指す。
複数の食材が混ぜられている、ということは当たり前のように複数の食材の味がするわけで。たとえば野菜ジュースを一口飲めば、トマトや人参などの食材の味が感じられる。野菜ジュースが苦手なのは少なからず人参の味のせいもありそうだが、それ以上に『一気にたくさんの味がする』という状況がまず気持ちが悪いのだ。そこには、私の癖が関係してくる。
私はものを食べるときに『これは〇〇の味だ』と料理を解析する癖がある。オムライスを食べれば、この中に入っているのは卵とケチャップと鶏肉と玉ねぎと米と……という具合に、材料のことを考えてしまうのだ。大体の料理は食材が見えるので、何が入っているかで知恵熱を出すほど考え込むことはない。
しかし、ミックスジュースはわけが違う。液体になってしまえば、何が入っているかなどはぱっと見でわからない。そうなると、こくりと口に含み、味の分析をしなければ気が済まないのだ。「トマト、人参、この癖のある味わいはバナナか……?」などと云々考え込んでしまう。
この分析癖のせいでミックスジュースを飲むとうんと疲れてしまうため、なるべく飲まないようにしているのだ。別に『一口食べれば隠し味までわかってしまう神の舌』などグルメマンガの主人公が持ってそうなスペックはない。カレーに入ったチョコレートを今まで感じたことはないし。舌が優れている、というよりかはただちょっと人より舌が神経質なだけだ。
ただし、目の前で作られたミックスジュースは例外だ。
事前に何が入っているかをこの目で見て知れば、完成品からは当然その味しかしないのがわかるので、深く考え込むことなく安心して飲むことができる。
つまり、
↑このタイプのミックスジュースはブラックボックスも同然なので苦手だが、
↑この手のミックスジュースは飲めるということである。
市販のものも材料が書いてあるものがほとんどだが、製造工程から見たもののほうがはるかに信じられる。市販品は市販品で、文字の表記と「僕たちこの中に入ってます!」と言いたげな野菜やフルーツの絵があるが、本当にその味が全部するのかと余計意識して飲むので疲れてしまうのだ。味がしなかったらしなかったで『なんで認識できないんだ?表記は確かにあったはず……』とまたバグりそうになる。
「今まで聞いたことないよ、食べものの苦手な理由でそんなの」
彼女は心底不思議そうに言った。そういえば、私も今まで20数年生きてきて、野菜ジュースもミックスジュースも『味や匂いが苦手』という人は聞いたことがあるが、私の理由と同じ人間にはまだ会ったことがない。
こんなところで個性を見つけることになるとは思っても見なかった。
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