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映画「ザ・ミスト」(2018)を観た

※この記事は映画の内容を含みます

 題名の通りです。

 序盤、突然日常が崩壊していく様や人々の精神が荒廃していく描写でハラハラした。霧に呑まれてしまった下の階の部屋に酸素ボンベを取りに行くシーン(この部屋の住人もまた持病のため呼吸器を着けて生活している)、室内では大きな犬は息絶えていて子犬と思しき小さな犬が走り回っていたのは何かの暗示、もしくは伏線か?

 中盤、自己免疫疾患のため特殊なスーツ無しには外に出られない娘のために両親が街中心部の病院へ向かうところでは展開にツッコミどころが多くて少し頭を抱えてしまった。例えば「1人が2人分の装備を持って出るのがよくない?」「執拗に追い掛けてきた犬、何?」「は? 屋根伝いに帰る? どうしてあんたはじっと待っていることが出来ないんだ?」など。
 でも、母親が決死の覚悟で持って帰ってきたスーツが病院の火災でダメになっていたと分かるシーンは本当に救いがなくてよかった。娘のポッドに霧が侵入しかけるところでは思わず息を止めた。

 終盤、いよいよ高層階にも霧が迫って来て脱出を提案する主人公と、それを穏やかに笑って断る老夫婦の夫。老夫婦はその後寝室で語らい、そのまま2人手を握って目を閉じるが、なんだかんだこの老夫婦が作中で一番好きかもしれない。チャーミングで動じなくて主人公たち一家にも世話を焼いてくれて……。おじいちゃんのシルエットが四角に近くておばあちゃんのシルエットが楕円に近いのもなんだかかわいい。決して縦にシュッとなんかしていないところが良い。

 話が脱線してしまった。また霧の中に繰り出した父親は道路で見掛けた作業服を娘のために取って来ようと奮闘し、乗り主の居なくなったバイクで戻ろうとするが――ここまでの流れでなんとなく分かってはいたがそれが上手く行く筈もなく。案の定バイクは事故を起こして転がる。僕は最早「そんな!」とも思っていなかった。「あぁ~また……」と思った。

 注目すべきは事故の原因が霧で視界の悪い中、人を避けようと急に方向転換したことである。そう、吸い込めば死ぬ筈の気体が広がる街中を、平然と歩いている人間が居たのだ。その人物は娘と同じ疾患を持つ子ども。間も無く、ずっとポッド内に居た娘も現れる。彼らは何故か、街を呑み込む霧に殺されることもなく、普通に呼吸をして歩くことが出来ていた。

 ここで僕はこの作品に対して再び興味が湧き上がるのを感じた。君ら、この状況下で出歩けるの? マジで? つまりじゃあ、これまでのあれやこれって……。

 このあとのラストシーンと先述の老夫婦、この2つを以て僕はこの作品に☆5のうちの☆3.5くらいを付けたいと思う。完全無欠の隙の無い構成かと訊かれればまあ全然そんなことはないのだが、理不尽で不条理で謎のまま進んで終わる話が好きな人にはある程度おすすめできる。

 観終わってから知ったのだが、ミストと名の付く映画は2つあるらしいね。本来観ようと思っていた方とは違うのを再生してしまったけど、まあいいか。もう1つも追々観たいと思う。

 これは余談だが、僕は作家の安部公房が好きである。公房の作品の多くは、ものすごく雑に括ってしまうと幸せではないがとりたてて不幸せでもない主人公が奇妙で不条理な出来事に巻き込まれてめちゃくちゃになる話だが、今回僕が観た「ザ・ミスト」はこの感じがある気がした。登場人物が散々な目に遭って心身をすり減らし、しかし全ては無意味で報われない。

 僕は映画には全然詳しくないのだが、もしかしてフランス映画はこういう謎を謎のまま終わらせる話が多かったりするのだろうか? だとしたらかなり好みだ。

 とはいえ、やはり明るい話ではないのでまた観るかは迷っている。でも老夫婦が本当によかったからなあ……。

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