見出し画像

音楽の制限

 小さい箱のライブハウスに行くと、ロックを語って、音楽で食っていこうという強い意志の人たちの空気に触れることができる。同世代のバンドをみるその目の奥は、強い覚悟とジェラシーと、優越感で輝く。こいつらよりは、絶対に売れてやろうという固い意志を結ぶ瞬間の表情は、きっとカメラには映らないなにかがある。

 前提として、演奏して熱くなって、外は雪が降ってるというのにこれでもかという量の汗を吹き出して歌っている姿は本当にかっこよく、何にも変え難い何かパッション的なものを具体的な形として感じられる。だけど私はどうしても、その上で音楽をしているという事実につい笑ってしまう。

 別に馬鹿にしているわけとかでは本当になくて、わざわざ自分から観に行くんだからそりゃすきで観てるんだけど、やっぱりどれだけ熱くなって、客席飛び込んで、白目剥いて歌っても、敷かれたレールから離れることがないところが、ちょっと面白すぎて。どんだけ皮肉なんだよって。おれはぜったいにせかいにくっせずおまえだけをあいすぜ!!!ってそれで言われても、すでに音楽に屈せてないやんって。どれだけ壊しても、壊れない音楽があるのはわかるんだけど、なんかそういう芸術ってやっぱ基礎が大事っていうじゃん。その基礎ってものが、芸術は爆発だという言葉の火薬を水につけて、消火活動をしている。あくまでもアートの範疇ですよっていう、線引きみたいなかんじ。

 それを盾にロックンロールしてると、飛んで跳ねて、マイクスタンド倒しても、怪我はしないようにしようっていう、人間の本能で危険を避けようとしているところが見えちゃって、普通に冷める。冷めるって言い方はちょっときついけど、笑っちゃうんだよね、楽しくなって。人間じゃやらないことしてる人の、人間の部分が見えるというか。恥ずかしさのメーターが壊れているだけで、本能的には人間なんだなぁって感じる。

 好きなことして音楽で食っていきたいって気持ち、すごくわかる。まあ楽したいって気持ち、少なからずあるかもだけど、若いバンドマンの熱い気持ちの外側にはそんなものない。本気で音楽が好きで、みたいな人ばっかりいる。まあそんなライブ出てて俺あんま音楽好きじゃないんすけどーとか言ったら逆張りマンすぎて即退出だとは思うけど。けど、何度でも言いますが、これから芸術は回り続けるのみで、わたしには新しいものは作ることができません。生まれるのが少し遅かったですね。早く産まれたとてだとは思いますがね。そんな回り回る界隈にずっといたいって、思うだけで狂ってると思う。狂ってるって言われるの好きでしょ。変人だって思われたくないのに音楽してるやつ、いないからね。

 歌上手いやつっていくらでもいる。ドラム上手いやつもかなりいるし、ギターはもっといる。その中で、自分のサウンドが、とか、グルーヴ感が、とか、わたしにはマジでわからないけど、言える人って本当にすごい。し、しかも、あれって多分言ったもん勝ち。もちろん音楽理論に基づいて、とかはあると思うんだけど、自分の音には自分の念しか込められないから、そこには間違いとかないからね。念能力者として、出来る限りのかっこつけを後輩とかにしていてほしいね。

 結局、わたしが1番尊敬するのは、素敵な文章書く人とか、綺麗なメロディが作れる人とかじゃなくて。どれだけ支離滅裂な言葉を連ねられるか、が基準になる。まじで意味わかんないことを、胸張って言えることが本当にすごいし、私はそこに行き着くまでのグラデーションが見たい…!ほとんどのヤバい人って、私が出会う頃には既に完成されていることばかりだから、そういう人の普通だった時代とか、なければ産まれて初めて意思を持って会話する瞬間とかに立ち会いたい。変な芸名の人とか、まじでどこから出てくるのその言葉っていうやつ、あれ多分私に一生かけても、二生かけてもできっこない。できっこないをやらなくちゃなー。

そうじゃないバンドの傾向として、「俺、お前、君、僕」という言葉が多用されていることが確認されています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?