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国連も推進する、デジタル公共財とは何か

先日(2024年7月4日)、Urban Data Challenge 2024のキックオフで、デジタル公共財について発表をしてきました。

そこで、Code for Japan の活動の柱の一つでもあるデジタル公共財について説明をしましたので、この記事ではその内容を補足しながら、デジタル公共財について説明したいと思います。

発表スライドは以下に公開してあります。

「デジタル公共財」という言葉を聞いたことがありますか?最近、国連や各国政府が注目するこの概念は、私たちの暮らしや社会を大きく変える可能性を秘めています。私自身、Code for Japanの活動を通じて、デジタル公共財の力を実感してきました。今回は、デジタル公共財について分かりやすく解説し、その重要性や日本での現状、そして私たち一人ひとりにできることについてお話しします。

デジタル公共財とは?具体例で理解しよう

デジタル公共財とは、誰もが自由に利用でき、社会課題の解決に貢献するデジタル技術やデータのことです。国連の定義によると、「オープンソースソフトウェア、オープンデータ、オープンAIモデル、オープンスタンダード、オープンコンテンツなど、プライバシーやその他の適用される法律やベストプラクティスを遵守し、害を及ぼさず、SDGsの達成に貢献するもの」とされています。
(出典:https://www.un.org/en/content/digital-cooperation-roadmap/assets/pdf/Roadmap_for_Digital_Cooperation_EN.pdf

具体的には以下のようなものが含まれます:

  1. オープンソースソフトウェア:誰でも無料で使用・改変・再配布できるソフトウェア

  2. オープンデータ:自由に使える公開データ

  3. オープンAIモデル:誰でも利用できる人工知能モデル

  4. オープンスタンダード:広く採用されている技術標準

例えば、東京都が新型コロナウイルス対策のために公開したウェブサイトのソースコードは、デジタル公共財の好例です。このコードは誰でも利用可能で、実際に70以上の自治体で活用されました。私たちCode for Japanも、このプロジェクトの立ち上げから関わり、多くの市民エンジニアと協力して短期間でサイトを構築し、その後の改善や他自治体への展開をサポートしました。

他にも、インドのIndia StackやOpen Network for Digital Commerce(ONDC)、エストニアのX-Road、シカゴのArray of Thingsなど、世界中でデジタル公共財の事例が増えています。これらは、それぞれの国や地域の課題に対応しながら、オープンな技術やデータを活用して社会システムを改善しようとする取り組みです。

なぜデジタル公共財が重要なのか?

デジタル公共財は、以下の理由から重要だと考えられています:

  1. 効率的な社会課題解決:共通の基盤を使うことで、重複投資を避け、迅速に解決策を展開できます。例えば、災害時の情報共有システムをオープンソースで開発すれば、各自治体が個別にシステムを構築する必要がなくなります。日本には1741の自治体があり、バラバラにシステムを作っています。主要業務においては標準化が行われているものの、自治体の規模によるデジタルサービスの格差は広がっています。デジタル公共財をうまく使うことで、財政体力の無い自治体でも、サービスを導入しやすくなります。

  2. イノベーションの促進:誰もが自由に利用・改良できることで、新たなアイデアが生まれやすくなります。オープンデータを活用した新サービスの創出など、予想外の革新が起こる可能性が高まります。

  3. デジタル格差の解消:高品質なデジタルサービスを広く提供できます。特に、途上国や地方部でも最新のテクノロジーを活用できるようになり、情報格差の解消につながります。

  4. 透明性と信頼性の向上:オープンな仕組みにより、プロセスの透明性が高まります。行政サービスや企業活動の透明性が向上し、市民の信頼を得やすくなります。

  5. コスト削減:既存のオープンソースソフトウェアやデータを活用することで、開発や運用のコストを大幅に削減できます。

  6. 相互運用性の確保:オープンな標準を採用することで、異なるシステム間の連携が容易になります。これは特に、スマートシティや行政サービスの分野で重要です。相互運用性が確保されることにより、サービスを提供する企業にとっても、より多数の自治体への展開がしやすくなります。

国連や各国政府がデジタル公共財を推進する理由

国連は、持続可能な開発目標(SDGs)の達成にデジタル公共財が貢献すると考えています。特に、途上国におけるデジタルインフラの整備や、気候変動対策などのグローバルな課題解決に役立つと期待されています。

2022年には、Digital Impact Alliance (DIAL)とDigital Public Goods Alliance (DPGA)が共同で「DPG(Digital Public Goods)憲章」を発表しました。この憲章は、各国が安全で信頼できる包摂的な公共・民間サービスを大規模に提供するために必要な基礎的なデジタル公共インフラを構築し、飢餓やパンデミック、気候変動といった緊急の地球規模課題に協力して対処できるよう、デジタル公共財へのアクセスを前進させる意図を持っています。

各国政府も、デジタル公共財の重要性を認識しつつあります。そもそも「デジタル公共財」という言葉が広がる以前から、EUは「デジタル主権(Digital Sovereignty)」の確保を目指し、大手IT企業への依存を減らすためにオープンソース技術の活用を推進してきました。これは、データやテクノロジーの管理を自国で行い、外部への過度の依存を避けるという考え方です。

アメリカでも、オバマ政権時代から連邦政府のオープンソースポリシーが推進され、政府機関が開発するソフトウェアの一定割合をオープンソース化することが求められています。

日本におけるデジタル公共財の現状と課題

日本政府では、まだデジタル公共財という言葉は積極的に使われている状況ではありませんが、近い取り組みは行ってきました。例えば、オープンデータ公開をしている自治体は約81%まで進んでいます(※1)。また、デジタル庁がベースレジストリ(社会の基本データ)の整備やオープンソースのデータ連携基盤FIWAREの活用を推進しています。
(※1:https://www.digital.go.jp/resources/data_local_governments

岸田総理大臣も、デジタル行財政改革会議において、「人口減少社会においても公共サービスをデジタルの力で維持・強化していくには、約1,800の自治体が個々にシステムを開発・所有するのではなく、国と地方が協力して共通システムを開発し、それを幅広い自治体が利用する仕組みを広げていくこと、これが重要です。また、その際、マイナンバーカードやGビズIDをデジタル公共財として位置付け、社会全体で広く活用していくことも必要です。(令和6年2月22日、第4回デジタル行財政改革会議)」と発言しており、政府レベルでもデジタル公共財の概念が認識されつつあります。
出典:https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202402/22digitalgyouzaisei.html  

しかし、課題もあります。地方自治法では、ソフトウェアは公有財産とされ、その取り扱いに制限があります。これがオープンソース化を妨げる要因の一つとなっています。また、官民でのオープンソース活用の経験が少ないことも課題です。

デジタル公共財がもたらす可能性と利点

デジタル公共財の活用は、以下のような利点をもたらします:

  1. 政策理解の促進:オープンデータの公開により、政策の意図や仕組みが理解しやすくなります。これは、市民と行政の信頼関係構築にも寄与します。

  2. 効率的な行政運営:自治体間でシステムを共有し、開発・運用コストを削減できます。例えば、ある自治体で開発された子育て支援アプリを他の自治体でも活用できるようになります。

  3. 社会的な知識の蓄積:オープンな開発により、専門家の知見が集まりやすくなります。これは、社会全体の知的資本の増加につながります。

  4. 市民参加の促進:誰でも改善提案ができ、より良いサービスづくりに参加できます。これにより、市民のニーズに合ったサービスが生まれやすくなります。

  5. イノベーションの加速:オープンなデータや技術を基盤として、新たなサービスやビジネスが生まれやすくなります。

  6. 災害対応力の向上:オープンな情報共有プラットフォームにより、災害時の迅速な情報収集と対応が可能になります。

  7. 教育の質の向上:オープンな教育リソースにより、質の高い教育コンテンツへのアクセスが容易になります。

一般市民や企業の関わり方

デジタル公共財の発展には、市民や企業の参加が欠かせません。以下のような関わり方があります:

  1. オープンデータの活用:公開されているデータを使って新しいサービスを考える。例えば、地域課題や魅力に関するデータビジュアライゼーションや、地域の課題解決アプリの開発などが考えられます。

  2. オープンソースプロジェクトへの参加:コードの改善や機能追加に貢献する。GitHubなどのプラットフォームを通じて、世界中のプロジェクトに参加できます。

  3. フィードバックの提供:使用感や改善点を開発者に伝える。これにより、サービスの質が向上していきます。

  4. 普及啓発活動:デジタル公共財の重要性を周りに広める。勉強会やイベントの開催なども効果的です。

  5. 自治体との協働:地域の課題解決に向けて、自治体と協力してプロジェクトを進める。

  6. 企業でのオープンソース採用:企業内でオープンソースソフトウェアを積極的に採用し、可能であれば自社開発のソフトウェアもオープンソース化する。

ちなみに、今東京都都知事選に立候補している安野たかひろさんが、政策をGitHubで受け付けているのも大変面白い動きだと思っています。

デジタル公共財の未来展望

デジタル公共財は、今後ますます重要性を増していくでしょう。特に以下の分野での活用が期待されます:

  1. スマートシティ:都市のデータ活用基盤としての役割。交通、エネルギー、環境などの分野でオープンなプラットフォームが構築されつつあります。

  2. 防災・減災:災害時の情報共有や支援調整。オープンな地図データや通信プラットフォームが重要な役割を果たします。

  3. 健康・医療:医療データの標準化や研究促進。個人情報保護に配慮しつつ、オープンな医療データ基盤の構築が進められています。

  4. 教育:オープンな教育リソースの共有。MOOCs(Massive Open Online Courses)などのオンライン教育プラットフォームがさらに発展する可能性があります。インドではこの分野は大きく広がっています。

  5. 行政サービス:電子政府サービスのオープン化。エストニアのX-Roadのような、セキュアでオープンな行政サービス基盤の普及が期待されます。

  6. 農業:精密農業や農業データの共有。気象データや土壌データなどのオープンデータを活用した農業支援システムの発展が見込まれます。

さらに、AIなどの新技術と組み合わせることで、より革新的なソリューションが生まれる可能性があります。例えば、AIを活用したオープンな都市計画支援システムなどが考えられます。

結論:みんなで作る、みんなのためのデジタル社会

デジタル公共財は、私たちの社会をより良くするための重要なツールです。政府や企業だけでなく、私たち一人ひとりが参加し、共に創り上げていくことが大切です。

私自身、Code for Japanの活動を通じて、オープンソースやオープンデータの力を実感してきました。東日本大震災の際の情報支援や、各地での市民主導のアプリ開発など、デジタル公共財の考え方が社会に大きなインパクトを与えられることを目の当たりにしてきました。
オープンデータをより効果的に使うためにも、オープンソースソフトウェアの普及は大切だと思っています。

しかし、デジタル公共財の推進には課題もあります。データの品質管理、持続可能な運営モデルの構築、自治体の調達能力やシステム開発力の向上など、解決すべき問題は多くあります。これらの課題に対しては、技術的な解決策だけでなく、法制度の整備や社会的合意形成も必要になってくるでしょう。

ちょうど現在、都知事杯オープンデータハッカソンの募集が行われています。もし実際に活動してみたい、という方がいたら、ぜひ都知事杯に参加してみてください。東京都が主宰しているオープンデータハッカソンで、Code for Japan が企画運営を行っています。7月26日までエントリーを受け付けており、今年はサービス開発部門、アイデア提案部門、ビジュアライズ部門があるようです。様々なワークショップなどもありますので、ぜひお気軽にエントリーください。

また、本エントリを書くきっかけとなった、アーバンデータチャレンジも、データを活用して社会課題を解決する取り組みです。こちらもぜひご参加を検討ください。

また、7月24日〜25日に行われる Funding the Commons には、Digital Public Goods Alliance で主要な役割をになっている UNICEF Innovation の Digital Public Goods Lead,  Christopher Szymczak 氏が登壇する予定ですのでお楽しみに。(私も登壇します!)


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