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indigo la Endのハルの言う通りを聴いて小説書いてみた

原曲はコチラ

本編始まります。

===

砂の惑星。を思わせる程の広大な砂浜。
そこにハルは居た。
風砂が、アシンメトリースカートと地を這う海浜植物を揺らす。
ハル、と声を掛けると彼女は振り返り、少しだけ笑った。

*

ハルの本名を私は知らない。
ハルという名は、有名なSF映画に出て来るコンピューターからとったそうだ。
風雪が舞う。
私は、首元から入る風を防ごうとファスナーを上まで上げた。
あの映画、と彼女が口を開く。
「嫌いなの」
何で、と私が聞くと、HALが可哀想だ。と彼女は答えた。
「些細な過ちで信頼を失い、最終的に取返しのつかない状態に陥るなんて、耐えられない」
「完全無欠なHALでもミスを犯す。欠陥人間の私は今後、どれだけミスを犯すんだろう」
何より、と彼女が続ける。
「それによって、あなたを失うのが恐い」
そんな状況は地獄だ、と彼女が嘆く。
私は、ハルの手を引き寄せて応えた。
「私、何があってもハルを見限らないよ」
「ありがとう」
俯きながら言った、ハルのその言葉は白い息と共に消えていった。

その後、ハルが私の前に現れる事はなかった。
理由を聞きたかったが、連絡もつかず、困惑した。
ハルと再会するには、彼女との思い出を擦るしかなかった。

*

「神の慈しみを信頼して罪を告白して下さい」
告解室に入り、祈りを捧げた後、司祭が仕切り壁の小窓から語り掛けてきた。
「大切な人を、傷付けてしまった――かもしれません。とにかく懺悔がしたいのです」
「大切な人は、ハルさんの事ですね」
はい、と頷く。
ここから先はただの独り言ですが――
司祭が一呼吸置いて続ける。
「ハルさんも、数日前、此処に来られました。何でも、あなたを傷付けてしまったと」
はい、と相槌を打つ。
「私が、どうしたんですか? と聞くと、彼女は答える代わりに、ヨハネによる福音書1章1節を諳んじられました」

――初めに言葉ありき、言葉は神と共にありき、言葉は神であった――

「私は言葉が嫌いです。言葉は口から出た瞬間、人の制御が効かなくなってしまう。私は言葉に合わせて自分を作り変える努力をずっとしてきました」
と彼女は言っていました――
小窓から司祭を覗いたが、司祭の表情を読み取る事は出来なかった。
「ハルさんは、真面目な方です。きっとあなたとの関係と、教会の教えとの間に生じる乖離に悩まされていたのかもしれませんね」
司祭は、独り言終わり、と言ってから、形式通り神に祈りを捧げ、
「主はあなたの罪をお許しになられました。安心してお帰りなさい」
と告げた。
私は、教会を後にし、最果てへ向かう。

*

ハルが佇む――
「どうして……」と聞くと、
「ごめんなさい。自分勝手だよね」とハルが答える。
「でも、私、ずっとこうしてきたの」
「ズルいよ……」
春濤に乗って、潮の香りが鼻腔を擽る。
「口紅変えたの?」とハルが切り出す。
「うん。似合う?」
「前の方が好き」とハルは私の唇に触れ、指を滑らせた。
波が打ち寄せ、足を濡らす。
四月の海の水温は、とても低い。
「もう、行かなきゃ――」
ハルが立ち去る。
「待って――」と口を突いて出たが、後に続く言葉が見つからない。
どんなに言葉を着飾っても、空虚な音となり、ハルには届かない。
どんなに注意深く掬っても、砂は指の隙間からこぼれ落ちる。
私は彼女の姿が小さくなっていくのを、黙って眺めることしか出来なかった。

私はハルを二度失った。


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