夏至の前に
雨上がりにベランダに出ると、湿気を含んだ風が頬を撫でて、まるで海の近くにでも来たようだった。
夏が近づいているんだなと思う。
夏のベランダというと、思い出す景色がある。
うちのマンションは見晴らしがよく、コロナ禍の前までは花火がよく見られた。都会ではないので、はるか遠くの方に、ほんの小さく見えるだけだったが。
音を頼りに目を凝らすと、かすかな光の点滅が見つかる。
ある夏の夜、ベランダで花火を見ながら、
自分は一人だ、と強く思った。
あの花火の下には、大勢の人がいて、ここから見える家やビルの明かりの一つ一つにもそれぞれの暮らしがあって、
それを見ている私は、夜空の真ん中に、ただぽつんと立っている。
寂しいわけではなかった。
「一人」と実感できたことが、なんだかとても心地よかった。
そして私も、他の場所から見れば、その光の一つなのだ。
あの花火と同じように。
真っ暗なベランダと、花火の赤と、そのときの気持ちをふと思う。
今年は花火が見られるだろうか。