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このインタビューがすごい! Vol.2〜「徹子の部屋」〜黒柳徹子さんから学ぶ、インタビューで大切なことを、大切にできる方法。

今回取り上げるのは、今年47年目を迎えた「徹子の部屋」。「××だったんですってね」の振りや、テーブルの上の長いメモ、編集なしの番組スタイル……など、すでにそのノウハウは有名です。でも、それってなぜ?どうやって実現する仕組みを作ったの?そもそも、それだけであのおしゃべりができるわけないはず。真似なんてできないことを承知で、もっと徹子さんのノウハウが知りたい!そこで今回は「インタビューのお手本」と称される黒柳徹子さんご自身が語るインタビューノウハウをご紹介。その極意とは?

「その方を尊敬して、お取り扱い申し上げる」

徹子の部屋
「1976年に放送開始。黒柳徹子が様々なゲストとトークを楽しみます。」(TELASA、ABEMA番組ページより)

2021年の年末、「徹子の部屋」には、多くの「聞き手」や番組の「作り手」がゲストに登場しました。報道ステーションのキャスター・大越健介さん、アナウンサーの徳光和夫さんとみのもんたさん、羽鳥アナ、玉川徹氏。毎回、面白いトークが繰り広げられる中、大越さんが徹子さんに、インタビューの極意を質問されました。

「長い間いろんな方とインタビューで向き合ってこられたと思うんです。大事にしていることというか、どういう気持ちで毎回違う相手と向き合ってらっしゃるんですか」

2021.11.15放送「徹子の部屋」大越健介

インタビュー時に大事にしていることを「どういう気持ちで向き合っているか」と言い換える大越さんのこの質問。とても参考になります。その質問に、「そうですね……」と少し考えてから徹子さんが出した答えがこちら。

「まず、その方を尊敬して、お取り扱い申し上げる(笑)。これだけ多くの人の中から、大変な中からこれ(徹子の部屋)に出てくださるわけですから、すごくその方を尊敬してお取り扱い申し上げなくちゃ、ということで。どんな仲のいい人でも友達扱いはしないで、ちゃんとゲストとしてお取り扱いしているっていうことが大事だって思ってますね。」

「2021.11.15放送「徹子の部屋」大越健介

大越さんのストレートな質問をちゃんと受け取め答えようとする姿勢。真面目な話題をユーモアに包み読者に届ける、楽しいおしゃべりの場を維持する姿勢。「相手を尊敬して、お取り扱い申し上げる」とはどういうことか。徹子さんの人間性が滲み出るその会話に、インタビューに必要なのは人間力、ということを思い知らされます。

一方で、私自身はと言うと、いい記事を、他にない情報をと自分の都合を優先させてしまい、自分は相手を尊敬できていただろうか、と取材後に振り返ることが少なくありません。相手を尊敬するにはどうしたらいいのだろう。そのヒントが、徹子さんの答えを受けての大越さんの発言にありました。

大越「相手を尊敬するっていうのはわかるような気がします。どのような人であっても、言葉づかいはもちろんですけど、根っこからこっちがこう切り込んでやるとか、インコースせめてやるってことではなくて、まずその人に敬意を払って、その人が話したい、伝えたいことを聞き出すってことなのかなって思ってたので、黒柳さんの話は、すごく今染みましたね。」

2021.11.15放送「徹子の部屋」大越健介

徹子さんへのインタビューが収録された『聞き上手は1日にしてならず』(永江朗・著/新潮文庫)によると、「徹子の部屋」は「その方がどういう方なのか」を伝える番組で、徹子さん曰く「絶対に聞かなきゃならないこと」はなし。

番組を始めるにあたって、テレビ局と「スキャンダルやゴシップについて聞けとはいわない」という約束をし、ゲストには前もって「聞かれて困ることがないか」を確認されるそうです。

その方がどういう方なのか、ということが知りたいわけですから、気持ちよく話していただくといことが第一です。もう一つは、よけいなお世話なのかもしれないけど、「この人はいい人なんだ」とか、「優しい人なんだ」「温かい人なんだ」ということが、テレビを見ている方にもわかるのが、私も嬉しいんですよね。自分がそれで苦労したものですから。私は、いわゆる先入観念とか、前に書かれたものを信じないで話を聞いています。

『聞き上手は1日にしてならず』(永江朗・著/新潮文庫)

番組の方針をこのように定めたこと。それが、実は徹子さんのインタビュー術の中で、もっとも重要なポイントなのかもしれません。

もちろん、すでに人気者でラジオでインタビュー番組を持っていた徹子さんの立場だから言えた、という面はあります。でも、それを実現させた彼女自身の強い思いは、どんな立場であっても真似のできるインタビュー術なのではないでしょうか。

そしてもう一つ、相手のどこを尊敬し「どのようにお取り扱い申し上げるか」、も難しい技術の一つです。

尊敬、と聞いて思いだすのが、2019年9月20日放送の神田伯山さん(放送当時は神田松之丞さん)がゲストの回です。

講談道具の張扇にけっして手を触れなかった徹子さん。当時、伯山襲名のタイミングで様々なインタビュー番組に出られていた伯山さんですが、その対応は他のインタビュアーとは一線を画しているように映りました。

画的に美味しいはずなのに、張扇を手に持とうとはしない徹子さん。その徹子さんの態度に、視聴者もそれだけ価値のある、重みのあるものなのだとハッとさせられる。徹子さんが講談師という仕事を、そして神田伯山さんを尊敬していることが画面越しにも伝わってきました。

尊敬をするために必要なものは、「すごい」と思う心だけでは足りないのだ。それを理解できる教養やふさわしい態度を知っていること、自身の知識と経験の積み重ねが必要なのだ。簡単なようで、到底辿り着けないすごい技術なのだと思い知らされました。

ちなみに、細かいノウハウを付け加えると、ゲストに聞くテーマは担当スタッフの意見を尊重。ただし、何から聞くか、どの質問をするかは事前に決めず、本番中に思いついた質問により話の流れが変わることもよしとする。そして相手の話を「映像にして聞く」こと。それによって、あの質問が生まれるといいます(『聞き上手は1日にしてならず』より)。これも簡単にはいかないかもしれませんが真似できる技術の一つ。試してみようと思います。

「安心」「信頼」を生み出すシステム

前述の『聞き上手は1日にしてならず』によると、相手が緊張している時は、コマーシャル中に「いざとなったら、私がしゃべります」「いよいよとなったら、編集もできますから」と言葉をかけるそうで、これも徹子さんから学べるノウハウの一つ。インタビューの中で、徹子さんは「安心していただく」「信頼していただくことが大事です」とおっしゃいます。

「安心」「信頼」の重要性はわかっていても、築くのは難しいものです。聞き手のスキル、上がってきた記事の質の担保が前提となることは当然ですが、「徹子の部屋」では「安心」「信頼」を生むシステムが秀逸。先ほど紹介したテレビ局と約束した「スキャンダルやゴシップについて聞けとはいわない」も、有名な「編集をしない」(切り取らない)という方針も、すべては安心と信頼を産むための仕組みと言えるでしょう。

「なんでも知ってらっしゃるのね(笑)」

瀬戸内寂聴さんがゲストの回でのこと。瀬戸内さんに死亡説が出た話題になり、徹子さんが「(葬儀の)日取りはお決まりになりましたか?」と問う記者からの電話の横でしゃぶしゃぶを食べていたんですってね、と話題を振り、二人で笑い合うシーンがありました。

瀬戸内「なんでも知ってらっしゃるのね(笑)」
黒柳「行き届いてますから(笑)」

2021.11.12放送「徹子の部屋」追悼・瀬戸内寂聴さん

「徹子の部屋」の長いカンペは有名です。『聞き上手は1日にしてならず』(永江朗・著/新潮文庫)によると、番組ディレクターはゲストのバックグランドを知るために資料を集め、本人から話を聞き、自身が面白いと思うことを徹子さんに伝えます。2004年の取材当時、番組ディレクターは14人程。徹子さんとディレクターの打ち合わせは一人のゲストにつき1時間以上。徹子さんご自身もディレクターが集めた資料やゲストの著書に目を通すそう。

取材が成功するかは準備にかかっている。とはいうものの、忙殺される中でその時間を捻出するのは結構大変。「徹子の部屋」が週5日放送にもかかわらずここまで下調べに時間をかけられるのは、先ほどご紹介した「編集をしない」ことでその時間を確保していること、テレビ朝日の看板番組となりこれだけの人員を確保できていることにあるのではないでしょうか。ここでも、理想のインタビューを実現するための仕組み作りが秀逸です。

「どうでもいいと思って出た番組はない」

黒柳「あとは、好奇心を持って相手の方をいろいろ調べるとか、そいうことはしますけど。まあだいたいはそういうことで。」

2021.11.15放送「徹子の部屋」大越健介

いくら持続可能な仕組みがあったとしても、これだけのことを毎週、何十年も続けるのは大変なこと。番組放送40周年のタイミングで行われた「AERA」のインタビューで、番組を続けてこられた理由を徹子さんは「強い好奇心のおかげ」と語ります。そしてもう一つ、続けられた理由が「この番組が好きだから」。これは「徹子の部屋」にゲスト出演した上沼恵美子さんから、長きに渡り番組や芸能生活を続けていられる原動力について聞かれた時の答えです。「徹子の部屋」に限らず、「どうでもいいと思って出た番組はない」ときっぱり話す徹子さん。

好きだから、あるいは、好きな番組を選ぶこと。インタビューに限らず、仕事において大切な術をあらためて思い知らされます。

なお、細かいノウハウとして参考になったのが、下調べにおいて押さえておくべきポイント。徹子さん、仮にゲストが作家の場合、全作品を読むのが無理な場合でも、処女作と賞を取った代表的な作品、最近のものの3冊は目を通すとのことでした。

「私はテレビによって永久の平和がもたらされると信じている」

「その国が良くなるのも悪くなるものテレビにかかっていると思う。私はテレビによって永久の平和がもたらされると信じている」。

NHKがテレビ放送を始めるにあたって指導のため来日していたNBC放送のプロデューサー、テッド・アレグレッティさんのこの言葉に、当時NHKに所属していた徹子さんはとても感銘を受けたといいます。(出典:『本物には愛が。 みんな一緒 (100年インタビュー)』黒柳徹子・PHP研究所 /「AERA」2016年10月3日号・黒柳徹子さんインタビュー記事)。

8月になると必ず終戦記念特集を放送する「徹子の部屋」。前述の「AERA」の取材で、徹子さんは、アレグレッティさんの話を聞いて「テレビに携わる仕事をすることで平和を保つことができるのなら、私はこの仕事を選ぼうと思いました。今でもその気持ちは変わっていません。」と話されていました。

ここまでインタビュー「術」について書いてきました。が、それを支えるものは、大きくて強い思い。

やりたいことのその先に、何を実現したいのか。後ろ向きになったり、逃げ出したくなったり……、それでも、あらがえない編集者という仕事の魅力に、きちんと向き合うための原動力が自分にはあるのか。自分にとって何がその原動力かを知り、抱き続けること。私とっては、これが徹子さんから学んだ一番大切な「仕事術」かもしれません。

………

冒頭でご紹介した、大越健介さんから徹子さんへの質問は、徹子さんの次の言葉で締められます。

黒柳「将来、100歳くらいになって続けてたら、もしかしたらばりばり聞く方の仕事に切り替えても、とも思うですけど。できるかどうかわかりませんけどね。政治家なんかに、おばあさんが聞いてるんだから、ちゃんと答えてくださるだろうと思って。笑」

2021.11.15放送「徹子の部屋」大越健介

徹子さん、そのインタビュー、拝見するの楽しみにしております!
                         ___いち視聴者より

___

追記:いつか、徹子さんにお会いする日のために、パンダのアクセサリーを買いました。自分なりの相手を尊敬し準備するの一つとして。ただの夢だけど、誰かに夢を与える、行動させてしまう徹子さんは、ほんとにすごい。

<参考>
・「徹子の部屋」(テレビ朝日)
・TELASA番組ページ https://www.telasa.jp/series/10531
・ABEMA番組ページ https://abema.tv/video/title/87-320
・『聞き上手は1日にしてならず』(永江朗・著/新潮文庫)
・『インタビュー術!』(永江朗・著/講談社現代新書)
・『本物には愛が。 みんな一緒 (100年インタビュー)』(黒柳徹子・著/PHP研究所)
・「AERA」(2016年10月3日号/朝日新聞出版)
・『あの日の「徹子の部屋」』(黒柳徹子・著/朝日文庫)
・『トットひとり』(黒柳徹子・著/新潮文庫)


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