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このインタビューがすごい! Vol.1 「石橋、薪を焚べる」 〜石橋貴明のインタビュー芸から取材ノウハウを学ぶ

インタビュアー・石橋貴明

石橋貴明を見ていると、あらためて、インタビューには「人」が出る、ということを痛感する。

お笑いタレント、芸能事務所社長、高校球児、ホテルマン、そして「とんねるず」の貴さん。すべての石橋貴明がそこにいる。

2020年4月に始まった「石橋、薪を焚べる。」は、薪を焚べながら”スロー・トーク”をするインタビュー番組だ。「火を囲んで語る」というシンプルな構成で、トークの相手はスポーツ選手やお笑い芸人、テレビや音楽関係者から、職人、経営者まで多岐に渡る。

どの立場の相手においても聞くべきポイントを押さえ対応できる、社会人としてのバランス感覚。どんなボールも拾ってしまう興味の守備範囲の広さ。これらは、冒頭に挙げた彼の経歴や経験に基づくものだろう。そして、道を極めた者同士の会話の深み、重み。

人生をかけて準備をしてきた人の、コミュニケーションスキルとも言える取材術など盗めるものか、とも思うが、実践できそうなノウハウを取り出してみようと思う。

番組コンセプト

前提知識として、番組ホームページに書かれた番組コンセプトは次の通り。

番組コンセプトは"スロー・トーク"。
石橋貴明が、ちょっと話してみたいゲストを毎回迎え、じっくり語り合う。
そのテーマはゲストによってさまざま。「人生でいちばん思い出に残るあの時のこと」など。
"スローフード"という言葉があるように、味わうようにスローなトークを目指す。(共同テレビ番組HP より)

この前提を踏まえ、2020年9月22日以降の放送から、インタビューを見ていきたい。

インタビューの基本構成

基本的に、インタビューは以下の4つから構成される。

1、その道を目指したきかっけ
2、ここまでの道のり
3、「凄さ」の秘密
4、これからやりたいこと

例外もあるが、基本、これらの要素を組み合わせ、話が進む。

キーとなるテーマ設定

構成同様、選ぶテーマも奇をてらわず、王道だ。

海苔の販売枚数・販売額で日本一を誇る佐賀の海漁業協同組合長には「日本一の海苔は何が違うのか」を。松井秀喜やイチロー、阿部慎之助のバットをつくる名和民夫氏には「”いいバット”の作り方」を。感染症科医の笠原敬氏には「コロナの効果的な感染予防法」、酪農家の藤井雄一郎氏には「酪農の生産性の向上」について聞いている。

石橋貴明という武器があるから、直球で勝負しても差別化できる、という自負が番組スタッフにあるのだろう。

ちなみに、番組公式HPには、インタビュイーの略歴とインタビュー構成が載っている。その人のどこに焦点をあて、何をテーマ・切り口にして、どのような構成、そして質問をするのか。各回のタイトルと合わせ、答え合わせ的に振り返ることができる。

ファースト・クエッション

「石橋、薪を焚べる」は、いきなり質問から始まる。「今日のゲストは○○さんです」「初めまして」といった挨拶はない。

取材の第一声をどうするか。掴みとなる質問には気を使う。芸歴からすれば当然かもしれないが、貴さんは掴みがうまい。通常の取材とはインタビュアーとインタビュイーの関係性が異なるが、参考まで書き出してみる。

Q.どうでした2020年は?
(ラスベガスでの1試合のみ、との井上の回答を踏まえ)
Q.一番したい時じゃないですか?でも試合は完璧。カウンターでどん、足からクタって。野球で言ったらバットの芯にあたったのと一緒で、手が伸びきった状態だったから。すっげえなあ。…そもそもなぜボクシングをやろうと?
(「プロボクサー・井上尚弥」の回より)
Q.コロナの影響ってあるんですか?ちょっと光って見えてきてるんですか?(「テイクアンドギヴ・ニーズ会長・野尻佳孝」の回より)
Q.先生のところで初めて日本のコロナ患者を?(日本で発症した日本人の患者対応をしたとの回答を受け)先生は今日、東京のフジテレビに飛行機で来られた。飛行機の中やここまで、どう対策をとって来られたんですか?
(「奈良県立医科大学感染症センター センター長・笠原敬」の回より)
Q.僕、一回ミズノの工場行ったことがあるんですよ。すごかったですよ。一瞬のうちにバットになるんですね。(ジェスチャー交えバットの作られ方を紹介し)最後の一瞬は全神経を集中させて、息なんてしてないですよね?
(「木製バットクラフトマン・名和民夫」の回より)
Q.佐賀の海苔、今、圧倒時に日本でナンバーワンなんでしょ?(集団管理を徹底してるから、との答えに)770人でやってる、そこの組合長なわけですか。「おい、上げろ、病気が出たぞ!」って。そりゃあ組合長、迫力あるからみんな上げるよね。……佐賀の海苔の特徴は何なんですか?
(「佐賀県有明海漁業協同組合 代表理事組合長・西久保敏」の回より)
Q.ビックサイズですね。ひさびさに、そんなにオーバーオールが似合う人。体重、何キロですか?まさに酪農やるために生まれてきた。(藤井氏の「牛からみたら小さい」との反応に)牛は何キロなんですか?
(「藤井牧場 代表取締役・藤井雄一郎」の回より)
Q.植松電気の植松さん? 植松電気の植松さんは、もう何回ぐらい(ロケットを)飛ばしてるんですか?
(「株式会社植松電機 社長・植松努」の回より)
Q.久しぶりの伊達くん。なんと、この番組、自ら売り込みで。
A.いやあ、そうなんですよ。この焚き火を囲みながらお話するって最高の番組じゃないですか。
Q.初めてですよ。売り込みでゲストに入った方。
A.いやあ、なかなかこうやって貴明さんとお話する機会なんてないので嬉しいです。
Q.富沢は?
A.富沢は多分オンエアーで観てると思います。
(「サンドウィッチマン・伊達みきお」の回より)

話を具体化させる質問

面白いインタビューには、普遍性と、時代性と、具体性がある。その人の本質がどこにあるのか見定める企画力とともに、具体的な話を聞き出す取材力は、編集者やライターに求められる必須スキルだろう。

貴さんのインタビューを見ていると、相手が話し慣れていない相手に対しては、様々な角度から、より具体的に伝わるよう、いくつも球を準備していることがうかがえる。

とくに顕著なのが、職人へのインタビューだ。言語化に慣れていない相手から、本人の中でまだ言語化されていないことを、具体的に、見ている人が「そういうことか」と腑に落ちるような言葉として、どうやって引き出すか。

バット職人・名和民夫氏の回では、「いいバット」とはどういうものか、そして「その人に合うバット」を作る具体的な工夫について、角度を変えて質問を重ねていく。原木を見るとわかるのか? 乾燥具合は? 「芯」の作り方は? 他のバットを研究するのか? ……。

ただ闇雲に質問するわけでない。バットについて、そしてバットで打つことについて理解しているからこそできる質問だ。聞くべきポイントのあたりのつけ方に、野球好きということも含め万全の準備をしていることがわかる。

相手をのせる「反復」と「相槌」

「相槌」や「相手の言葉を繰り返す」のは、メジャーなインタビュー技法だが、ナチュラルに、効果的に使いこなすのは意外と難しい。

この「相槌」や「反復」も貴さんは上手だ。

「相槌」については、「はあー」「ああ、そうですか」「ああ、そういうものなんですか」「あ、なるほどね」「ええー!」「ええ?」など、抑えめの(あるいは時に興奮した)感嘆符付きで、フランクさも出しつつ、バリエーション豊かに相槌を打つ。

これは、話題の転換時の質問の冒頭でしばしば使う「いやあ、〜」にも共通する傾向だ。

そして、体言止め形式や、溜め気味な言い方で、反復を多様する。実際に例を上げて見ていこう。

◇ 深掘り目的の「反復」

A.プロでやる自信はなかったんで。
Q.え、プロでやる自信なかった?
Q.モンスターって言われている、この感じは、どうですか、自分で?
A.嫌ですね
Q.嫌?
Q.そうすると?
A.ちょっと作戦を考えて
Q.作戦を変えるの?
Q.やっぱり常にこういう打ち方してしみたい、っていうのは、アイデアは常に出てくるの?やっぱりいっぱい試合は見るんですか?
A.相手の雰囲気をみて、癖とか
Q.やっぱり、みんな癖ってあるんですか?井上選手にもあるんですか?当然みんなも見てて、そこをついてくる?
(以上すべて、「プロボクサー・井上尚弥」の回より)
Q.どうしてもこれはやりとげたいってのは、何かあるの?野望。
A.野望ですか?サンドイッチマンとして、富沢には何も話してないですけど、ちょっと劇場みたいなのを仙台に作りたいな、とか。
Q.それは仙台なの?
A.やっぱり恩返ししたいなってのはありますね。
Q.東京じゃなくて?
A.ええ。お笑いを目指そうとする人たちを増やさないといけないので。
(「サンドウィッチマン・伊達みきお」の回より)
A.そうですね。その時もまたオフシーズンに競争になって、導かれるようにタイガースに戻ることになりましたね。でも怖かったなー。正直。
Q.怖かった。
(「藤川球児」の回より)

◇ 自身の感想や自身の理解を伝え、続きを促す「反復」

A.あとやっぱり、まだまだ痛いんですよね。
Q.痛いんだ。
A.一年半くらいは痛いですね。
(「藤川球児」の回より)
Q.じゃあ、日本でやりつつ世界も
A.うーん、そうなんですけどね。いろんな国からも言われてて、中国の方からも言われてるし、ブラジル言われてるし、ペルー言われてるし。
Q.ペルー!?
A.うん。ロシアも言われてるし。
Q.ロシア?
A.で、イタリアも言われてる。
Q.大変ですね、世界中からオファーが。
(「丸新本家株式会社 代表取締役/湯浅醤油有限会社 代表・新古敏朗」の回より)
A.(なぜイギリスに行ったのか?の問いに)セナのルーツを自分でやりたい。それだけじゃなくて、日本のモータースポーツ界は競技レベルがものすごい高いんですけど、F1に行こうと思ったら、英語できないと。
Q.英語できないと駄目ですよね。コミュニケーションがエンジニアとできないと。
A.はい。海外生活の経験もなかったですし、とにかくイギリスに行きたい、と。
(「レーシング・ドライバー・佐藤琢磨」の回より)

「ここは聞かない」の配慮

取材で忘れてならないのが、「ここは触れない」という配慮の準備だ。

「引退試合のその日まで、野球が上手くなりたかった」と題された藤川球児氏の回(2020年12月22日放送)は、特にその配慮が見られた。

ゲストの藤川氏は2020年にプロ野球選手を引退した元野球選手だ。当然、取り上げる”人生のあの時”は「野球人生」。そして「辞めるという決断」。

インタビューは、「まだやれたんじゃないですか?」の質問で始まる。

貴さんの口から「引退」という言葉が出たのは、インタビューを通して1回。冒頭近くで発した「(引退試合を見ていて)これで野球選手って引退しなきゃいけないんだって、思うと何か……」だけだった。

大リーグに挑戦したピッチャーたちの怪我の話。「肩」や「肘」という消耗品について。投手生命を伸ばすトミー・ジョン手術のこと。同世代の引退…。直球を投げず、質問を重ね、野球選手にとっての「辞めるということ」の意味を丁寧にすくい上げる。

もちろん、インタビューである以上、踏み込まなければならない時がある。インタビューの中盤、核心に迫る質問をする場面では「その時期を迎えて」、と言葉を選んでいた。「ユニフォームを脱ぐ」「失意のどん底」と間接的な表現をする場面もあった。藤川氏の言葉をどこで繰り返すかも慎重に見極めていたように思う。苦しかった胸の内を語る言葉は繰り返さない、と決めていたのではないだろうか。

印象的だったのが、引退の話を聞いた後に、甲子園、そして野球を始めた頃について聞くという、時系列に逆らうインタビュー構成だ。そこまで、基本的に時系列で話が進んでいた中での話題転換。

高校球児だった二人が、本当に楽しそうに、嬉しそうに喋り合う。子供の頃の話を挟んで、次の質問は日本とアメリカの野球の違いを問うものだった。その後の展開を想定した上での質問だったのだろうか。今の日本のプロ野球の抱える問題へと話を自然に転がしていく。話すうち、見ていてはっきりとわかるほど、藤川氏の口調に熱が入り、プロ野球への思い、野球魂が溢れ出す。

「今、貴さんと話してたら、だんだん、やっぱり野球やらなきゃって思って、火がついてきましたよ」「貴さんに野球界の未来のこと言われると、その責任はすごい感じる。スイッチがいきなり入るんですよね」。

まさにインタビューではなく、「スロー・トーク」だ。

「引退」という難しいテーマだからこそ、そこには、相手への敬意と、未来を感じさせる時間が流れていた。

もちろん、藤川氏自身の人柄や思考も大きく影響しているのだろう。自らユニホームを脱ぎ、野球について語れるからこその選び抜かれた人選なんだと思う。しかし、石橋貴明が見せる配慮に、貴さん自身の人生が重なり、その深みがインタビューをさらに面白く、そして優しいものにしているのだと思う。

面白い記事にしたいという意気込みや、聞き出さなければという焦り、失敗できないという重圧。そんなものに気をとられて、話してくれている相手の気持ちを無視してしまうことがないように。話す側の立場も含め、その場をちゃんと俯瞰し、配慮のための準備を忘れないでいたい。

<藤川球児氏インタビュー構成>
◆ROLL ①(21分56秒)
・引退試合のその日まで。
・トミー・ジョン手術をして。
・孤独な戦い。
・契約寸前で・・・
・地元の子どもたちに感動を。
・戦友たちへのメッセージ。
・兄と共に甲子園へ。
・「セ・リーグ」のこれから。
・うまくなることには限界がない。
◆ROLL ②(1分49秒)
・野球バカ。

番組公式HPより)

オチをつける、クローイング

終わらせ方は読後感を左右する、掴みと同じくらい重要なパートだ。できれば綺麗に落ちをつけたいし、読んでよかったと思えるように、尻窄みにならないように工夫もしたい。貴さんの場合はそこに笑いを付け足したりもする。

番組の最終パートは、毎回、今後についての話で締められる。質問もここは定型化されており「この先、これだけはやりとげたいものは?」だ。しかし、その後の展開は当意即妙だ。

Q.人生において、絶対に、これだけは成し遂げるぞっていうのは?
A.東京オリンピックでの2連覇と、(男女混合団体が東京オリンピックから始まり複数メダルを獲得できるチャンスができたので)2つ金メダルを獲得したいってのが今の目標で。あと今趣味でサウナ屋さんやりたいなって。(サウナ話を挟み)こだわりのサウナ屋さん作りたいですね。
Q.ぜひ2連覇してもらって、いったいいつサウナ屋さんになれるのか、わからないくらい勝ち続けて、最強を目指すと。
A.貴さんの期待を超えれるように、頑張ります。
(「柔道家・大野将平」の回より)
A.いつも徳川とか言うのに、今日は言わないんですか?
Q.今日忘れちゃってさ。頭で楠って言おうと思ってたけど、「伊達」って言っちゃって、あ、いけねえ、俺しくじっちゃったって。一個飛ばしちゃったって。…約1時間半、伊達くんの話を伺いましたけど、ほとんど何言ってんのかわかんなかった。
A.(笑)。最後それですか、富沢の(笑)。いや、なんか、すごく褒められに来た感じで申し訳ないです。
Q.本日のゲストは、サンドウィッチマンの楠さんでした!
A.伊達でした!最後にありがとうございます。
(「サンドウィッチマン・伊達みきお」の回より)

なんかもう、楽しそうで、嬉しそうで

どの回にも共通するのが、インタビューを受ける側が、とても楽しそうに、嬉しそうに話す姿だ。

”あの”貴さんと話してる、という興奮や喜び。本当に楽しんで聞いてくれているんだと伝わる反応。話したいところにボールを投げ、受け止めてくれる安心感。心地よい会話のテンポや的を得た返しとツッコミ。

インタビューとは、やっぱり会話なんだ、ということを再確認させられる。取材である以上、記事の構成をイメージし、不足回答を引き出す必要はある。しかし、その場の会話を楽しんでもらう、自身が楽しむということも同様に重要で、ライターに求められるスキルなのだと。

藤川氏がインタビューを終える頃にその表情を大きく変えたように、この時間が受け手の人生の中のなにかしらになること。読んだ人の人生の何かしらになること。あるいは、「ああ、面白かった」と、その瞬間、思ってもらえるだけでもいいのだが、そんなインタビューができるようになれたらいいのに。そんな気持ちにさせられる。

やっぱり、石橋貴明はすごい。

<参考>
「石橋、薪をくべる」番組公式HP(フジテレビ)
「石橋、薪を焚べる」(共同テレビ)
・『プロ論。』収録・石橋貴明インタビュー「頑張ってるとね、きっとご褒美があるんですよ。ちゃーんとね。」(編・B-ing編集部/刊・徳間書店)
「「とんねるずは死にました」―戦力外通告された石橋貴明58歳、「新しい遊び場」で生き返るまで」(Yahoo!ニュース)
「笑いの神様が、君を応援する理由。石橋貴明×糸井重里」(ほぼ日刊いとい新聞)

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