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求人広告の制作をやめるとき

これまでこのnote連載ではいかに求人広告の制作は面白いか、地味だけど意義のある仕事か、一般的ではないがちょっとクセのあるクリエイティビティが求められるか、というようなことについて書いてきました。

今回はそういう前向きな話ではなく、求人広告の制作をやめるときってどんなときだろう、とぼんやり考えながら書いていきます。

もちろん自分の例をあげるのがいちばん簡単なんだけど、でも過去に何十人、何百人と求人広告制作の現場を去っていった人を見てきておいて、いまさらn=1でもないだろう、というね。

過去にやめていった人のケースをつらつらあげると同時に、それだけではミもフタもナイので、そういうメンバーに直面してアタフタしているリーダーやマネジャーのためにリテンションのかけ方もレクチャーします。

case1:飽きた、マンネリ

これはいちばん多いパターンでしょうね。来る日も来る日も短い制作時間の中でちぎっては投げ、ちぎっては投げといった感じで求人広告を作り続ける量産型ザクに陥る人は枚挙にいとまがありません。

ま、気持ちはわかる。

クリエイティブといっても限界があるしね。

ある程度の手練になると「クライアントも営業も要求レベルがそんなに高くない」と感じてしまうこともあるでしょう。

あと、効果のコントロールがコピーやデザインだけでやりきれないことに、何とも言えないもやもやを感じる人も少なくないはず。

そういうとき、人は求人広告制作を捨てて新しい道を模索しはじめるのであります。

【処方箋】
飽きた、やめます、というメンバーには新しい刺激を与えるのがいちばん。もし彼や彼女が書斎派の制作者であれば、3ヵ月ぐらい野に放つといいでしょう。とにかく顧客接点を持たせるのです。すると何かをつかんだような顔をして、またがんばってくれるはず。まれに営業への異動を希望してくる人もいますが、それはそれで会社にとっても本人にとっても微笑ましい結論ではないかと。

case2:営業が(顧客が)怖い

その理由がぶん殴られるとかぶっ飛ばされるといった物理的バイオレンスの場合、即刻然るべき対応をしてください。わかりやすく言うと警察沙汰にしてしまいましょう。

しかし、それ以外の理由、たとえば制作物への評価が低いとか、いつもマウントを取られる、という場合はちょっと考えものですね。

世の中にはどうしても営業やクライアント担当者といった肉食系ビジネスパーソンに捕食されてしまうタイプのクリエイターが存在します。

あと、自己評価と他者評価の乖離にもほどがあるタイプもこの落とし穴にはまりがち。自分ではいいと思っていても周囲が認めてくれない!と承認欲求をへんな形でこじらせてしまうと…なかなか難しいです。

また、営業サイドや顧客側もまったく問題ないかというとそうでもなく。営業の場合、ディレクションの舵は営業が取る!制作はオレたちの言う通りに上手に文章を書くのが仕事だろ?という原理主義者がいます。

そしてクライアントの担当者の中には「ぼくも昔、コピーライターだったんだよ。クリエイティブについて建設的な意見交換ができるとありがたいね」という歴の持ち主が50人に1人はいるというミラクルが。この手の担当とはだいたい、っていうか100%モメます。

【処方箋】
営業やクライアントが怖い、というメンバーに足りないのはひとえに「自信」です。誤解を恐れずにいえば「権威」といってもいいでしょう。ゆえにこのマインドをこじらせると昇格欲求が高まり、目的と手段を過つ第一歩になりかねません。なんとか「権威」方面から遠ざけ「自信」を正しく身に着けさせたいもの。そこで徹底的にディレクションして、作らせた広告で社内なり社外なりで広告賞を獲らせてあげましょう。

case3:向いてない、才能がない

これは別に求人広告制作に限った話ではないかもしれません。今日もどこかで「主任、わたし、この仕事向いてません!」「松本、お前そんな…ひよこの選別はマニュアルどおりにやればいいだけの…」「主任は私のこと、ぜんぜんわかってない!(その場を去ろうとする)」「まて松本(ギュッと抱きしめる)」みたいな寸劇が展開されていることでしょう。

ま、ひよこの選別だってそれなりに適性があるでしょうし、ぼくのモットーは職業に貴賎なしですので、その奥深さから松本嬢の意見も否定するものではありません。

しかし、ちょちょっとやって、ダメ出しが続いたぐらいで、すぐ伝家の宝刀「向いてない」を発動するのはいかがなものか。

何年やったのか。3年か?5年か?10年か?

たとえば30年この道ひと筋、というベテランが「いやあ、オレこの仕事向いてないっちゃ」というとそれはさすがにうつけものか、あるいは本質的に謙虚なのか、はたまたその仕事が奥深すぎるのかの三択になりますね。

しかし1年や2年足らずで向いてないとは笑止千万、と言いたいところですが本人は真剣。悩んで悩んで、それなりに論理的に考え、あるときは上司からの手厳しいひと言を思い出し、凹んだ末の結論が向いてない、なのであります。

【処方箋】
向いてない、というセリフあるいは思考が発現するシチュエーションはただひとつ。彼や彼女の同期に最近メキメキと頭角を表してきた若手のホープはいませんか?きっといるはずです。だってひとりぼっちだったら比較対象がないから向いてるもなにもないわけですからね。なので、この手のヤングには「誰と比べて向いてないっていってんだ?」とズバリ核心を突いてあげましょう。真っ赤になったら図星です。その後はカーネルサンダースがいかに大器晩成だったかについて語ってあげればジーパンのお尻のポッケにしまってある辞表も汗でぐちょぐちょになるでしょう。


いかがでしたか?ケース別、求人広告をやめるときの理由と、そのリテンションのノウハウ。

ぼく自身、いっとき全国に170名ぐらいメンバーを抱えていたときがあり、その頃は朝イチで届くメールの件名『【ご相談】お話があります』を見た瞬間「よおし、こいつはどのパターンで抱きしめてやるか…」と思わないことには鬱になっちまうような生活を送っていました。

あれ、ほんといやなもんですよね。

ある程度離職率の高い環境で人の上に立つ仕事を経験しないと、わかんないいやさですよね。ぼくなんて、あれがいやすぎて、自分がいやなことは人にやっちゃいけない!という謎の正義感から会社を辞めるとき誰にもいわずにやめましたからね(実際には人事と社長と会長と所属部署の人にだけは言わざるを得なかった)。

ま、そんな経験を踏まえて全国の『【ご相談】』メールに怯えるリーダー、マネジャーのみなさんにひとつできるアドバイスがあるとすれば…

本気でメンバーのことを考えてあげる。その上で退職がベストということもあれば、もうちょっと頑張ったほうがいいこともある。その思いが伝わるかどうかは相手次第です。だけど、少なくとも上司であるリーダーやマネジャーは私利私欲を抜いてメンバーのことを考えきること。

自分の立場、自分の評価、自分の仕事量などは考えず、メンバーを想ってください。そうすることがいちばんの解決策になります。

すごく俯瞰して見ると、そうなるはずです。

たぶんですが、リーダーやマネジャーが自分の立場、自分の評価、自分の仕事量のことばかり考えていると、いつまで経っても『【ご相談】』メールはなくならないと思いますよ。おおこわ。

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