なるほどなあ、と思えることはひとつの才能かもしれない
あ、求人広告を作る上では、ですけどね。
もうちょい範囲を拡げるなら仕事の広告全般。あと採用広報をはじめとするHRコミュニケーションまで含めていいかな。
どういうことか
いつになく小見出しがはやい。今回はできるだけ短い文字数で終わらせようとしているからです。なぜか。東京都のマンボウが解除され、居酒屋がオレを待っているから。
「仕事も適当にみんなが待ってる店までHurry up,Hurry up!」と唄ったのは佐野元春なんだけど、元春を多感な思春期に溺聴すると大人になりきれないおじさんができあがるのかもしれない。ただのスクラップにはなりたくないんだ。
スクラップになりたくないので本題に戻ります。
生きること、もう少しやわらかくいうと生活とは誰かの仕事によって支えられています。
朝、起きてシャワーを浴びます。レバーをひねるとシャワーヘッドから勢いよくお湯が出てきますよね。
あれ、天然の産物でしょうか?
家を出て最寄りの駅に向かいます。売店でおばちゃんから日経新聞を買いますよね。あわてて8時35分の品川行きに飛び込みます。駆け込み乗車は危険ですのでおやめくださいダァシェリイェス!!とかアナウンスが流れますよね。
あれ、自然にそうなっているのでしょうか?
違いますよね。
意識してもしなくても、世の中は誰かの仕事によって回っています。
「いや、ガスは自動で点火するし…」
じゃあそのガスが自動で点火する装置は最初からそこに生えていたのか?ガスであたためられた水は自力でシャワーヘッドまでたどりつくのか?
直接、間接ふくめて、都会での暮らしというものはほぼ100%なんらかの形で人の手によって成立しているのです。
その、いちいちに気がつくか。当然のように享受している便利のずっと奥の方に誰かの仕事があることを想像できるか。それをフラットに観察し、なるほどなあ、と感心できるか。
それが、仕事の広告や採用コミュニケーションをつくるときに、絶対に、圧倒的に、愛のままに、わがままに、僕は君だけを必要なのです。
最後、愛の告白みたいになってしまいましたが。
おはようからおやすみまで
ふつうに暮らしていれば表現のネタは手に入る。それを膨らませれば仕事のストーリーのひとつやふたつできてしまう。サイドストーリーにこそ仕事のリアリティが息づいているともいえる。
それが求人広告の最大の特徴です。
ぼくが、いわゆる一般の広告で鳴かず飛ばずの果てに夜逃げしてその後5年間ものブランクがあったにも関わらず、求人広告では人並みの仕事ができたのは、まさにそのおかげ。
だけど、ぼーっとしていたり、キャッチするアンテナを持ち合わせていない場合、せっかくのネタをスルーしちゃうんです。もったいない。
お店でサービスを受けたり、公共交通機関を利用するときに、どれだけ前のめりで情報をキャッチアップできるか。
そして話を聞いていくうちに「なるほど!」と膝を叩く納得感、ハラオチが得られるかどうか。
あれ?さっきもおんなじようなこと言ってたな。まあいいか。
たとえばタクシーに
乗ることってありますよね。あれこそネタの宝庫です。運転手さんの数だけストーリーがある。これを手放すのはもったいない。ぼくは必ず、ふたつみっつ話題を振ります。
運転手さん道、詳しいすね。長いんですか?
最近、どうすか?景気は
この時間だと困ったお客さんとかいません?
短い距離ですみません
どんなきっかけでもいいからジャブを打ってみる。シャブを打ってみるのはよくないがジャブならもう、ジャブジャブいっちゃおう。
そこで運転手さんがノッてくるか、こないかを測る。乗ってきたらシメたものです。このやり方でぼくはタクシーの運転手募集の広告をいくつ作ったことか。
ポイントは聞いた話をそのままコピーにするんじゃないということ。聞いた話はあくまで元ネタ。このネタを起点にどう展開させるか、どこまで飛ばすかが求人広告コピーライターの腕の見せどころなんです。
個人的な経験から言うと、昼間よりも夜、夜より深夜のほうが運転手さん、乗ってくれます。いい加減飽きてきてるんでしょう、いい話相手ができたってもんでいろいろ聞かせてくれます。
あまりにも面白い、ネタとして発展させられそうな話をいくつも聞いた夜なんてお釣りはいいです、って言いたくなるほどです。
たとえばiMacの
ハードディスクがふっとんだ日。やむなくアキバの修理屋に持ち込みました。当然、アップルではないので保証はつきません。でも格安だし、どうやら腕がいいと評判。
平日の昼、雨ふる肌寒い日だったこともあり、客はぼくひとりでした。
カウンターにボンダイブルーのiMacを載せると、奥からゼペットじいさんみたいな、味のあるアルチザンが登場。ちょっと気難しそうだな…と思いつつ、ハードディスク交換をお願いします。
するとゼペットじいさんは一通りの説明を済ますと、ふだんなら1時間ぐらい待ちになるけど今日は雨だ。他に客もいない。30分で終わるから店内で座って待っていてもいいといいます。
ぼくはとくにAKBに推しがいたわけでもないのでそのまま店内にいることにします。目の前ではゼペットじいさんが工具を使って器用にiMacをバラしはじめました。
しばらくすると鼻歌まじりでの作業に。なんだか慣れっこになった作業を少しでも楽しもうとしているみたいです。そこでぼくは思い切って声をかけました。
「おやじさんはいつからこの仕事されているんですか?」
そこからはもうとめどなくあふれるモノローグ。なんでももともとは開発エンジニアで20年以上のキャリアがあったんだけど、毎年のように新しい言語や環境が出てきて、それをキャッチアップし続けるのに疲れたんだそうです。
なんか生き馬の目を抜くような世界にしんどくなっちゃって…と苦笑い。
どんな環境で働いてたの?って思ったんですが、まだデスマなんて言葉もない時代。エンジニアがいまより大人の職業だったころですから、そりゃあまあいろいろあったんでしょう。
もうこの時点で求人広告に使えるネタとして超一級品。
ほかにもいろんな開発裏話、大手Sierの悲劇などをおもしろおかしく聞かせてくれて、大満足の1時間。修理自体は30分で終わったんですがおまけの雑談が30分あって。
ハードディスク交換の工賃と部品代を払いましたが、もっと払ってもいいとすら思いましたね。
こういう体質になるために
必要なのは人と仕事に対する興味関心と好奇心だけです。
それさえあれば仕事の広告や採用広報のジャンルで活躍できるんじゃないかと思います。逆に、営業なんかどんな営業でもいっしょでしょ変わんないよ、みたいな雑な捉え方をするタイプには向いていません。
これ、見方を変えると自分よりも他者に強く意識を向けられているかどうかなんですよね。
そう考えると、もしかしたら話は単純ではないかも、と思ってしまったり。
なぜなら世の中の多くの人は他人より自分に興味があるから。特にインターネットが世の中のインフラになってからというものの、自己顕示欲や承認欲求といった昔はなかった(あったんだろうけど一般的ではなかった)単語がわっさと出てきていますよね。
SNSだってそうでしょう。
みんな自分について語ってばかり。
そんな時代というか世の中で、自分を語るより他人を語ることに興味関心が向かうというのは、あなた、もう立派な才能といえるんじゃないでしょうか。
最近、特に求人媒体でいい求人広告にめったにお目にかかれないのも、このこととあながち無関係ではないと思います。
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