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求人広告制作の傾向と特徴

求人広告だけをずっとやっていると知らないうちに「それが常識」になってしまうことが多々あります。ぼくは幸いなことに【求人広告代理店】→【商品広告プロダクション】→【求人広告版元】→【よくわからない】というキャリアの積み方だったので、分野ごとの違いというか、ギャップを客観的に楽しめました。

ということで今回は求人広告制作以外の立場から見た、求人広告制作の傾向と特徴についてご紹介します。別にディスるつもりはないのですが、少しキツイ物言いになっていたらごめんなさい。それすべて、愛ですから。

①異様に制作時間が短い

アルバイト媒体だと2時間ぐらい?中途採用でも5000文字程度の原稿なら打ち合わせ込みで5~6時間といったところが一般的ではないでしょうか。そうじゃないと現場(商売)が回りません。転職サイトの責任者だったとき、22日営業日で30本制作を標準的な生産性と位置づけていたので、だいたいそれぐらいになりますね。つまり新規一日一本、プラスアルファってかんじ。

これが新卒採用になるとが然、話が違ってくる。新卒の場合、グランドオープンにその全てを注ぎ込む…といったら大袈裟かもしれませんが、とにかく「入稿日は年に一回」ぐらいに考えていい(厳密には違いますけどね)。

そうなると何が起こるか。受注自体は半年も前なのに原稿着手がギリギリになる。それもすべての企業でだいたい同じタイミングではじまる。なんだか制作時間が長すぎるんだか短すぎるんだかよくわからない世界観の中、制作者たちは疲弊し、心も病んでいく…そしてグランドオープン後の現場は死屍累々…毎年『二百三高地』とか『八甲田山』みたいな世界観でした。

②異様に制作料金に対する意識が低い

そもそも制作フィーがカウントされていない媒体もあったりします。掲載料にインクルードされていることも多いのですが、その場合だいたい一原稿5000字ぐらいで1万円前後。

もちろんリクルート媒体などはサイズの違いで掲載料が違うし、その際には制作費も込の価格でそれなりに取ったりしますが、それにしても一般のクリエイティブに比べると桁違いに安い。とてもそれだけで独立して生活するのなんて無理!ってレベルです。

たとえばぼくが責任者やってた媒体では一本1.5万円で外注クリエイターに発注していました。すると月30本つくって、45万円。1本3時間で作れれば、悪くないような気もします。少なくとも手離れの良さはピカ一ですから。

しかしそれでずっといけるか、というと、そんなに安定して新規が受注できるわけもないですし、逆にいえばそこが天井ってことになってしまいます。このあたりも求人広告に長く携わるクリエイターが少なくなってしまう理由かもしれません。

③キャリアのゴールが「納品マシン」になりがち

求人広告制作はある意味クリエイティブにこだわらなくても成立してしまう、稀有なジャンルのものづくりです。

要は「上場企業の安定性抜群!未経験から大募集」とか書いてもそれなりに応募効果があったりする。もちろんマッチング精度は低いのですが、なぜか顧客も営業も、そして当の制作マンまでも「応募数至上主義」に毒されていて、母集団さえ形成できればご満悦だったりする。

そうして、営業現場から喜ばれるのは『構想3日、満を持してお届けする至高のクリエイティブ』なんかではなくて、早く原稿アップしてくれることなんです。早く、月末に一気に大量受注してもさばいてくれる制作マンを重用します。

効果?そんなもん掲載してから考えりゃあいい。出なかったら出なかったで再提案のチャンス!ぐらいに考えている営業の多いこと多いこと。またそういう輩が短期的な営業数字だけは良くて、組織の上のほうにいっちゃったりするもんだからいつまで経っても体質改善しないんです。

そういう仕事だから仕方がない、ということはもう過去にいやというほど経験してきているので、頭ではわかっているんですけどね。

で、そんな環境に制作として長く身を置いているとどうなるか。しっかりスポイルされて、異様なまでの納品マシン、オペレーターが誕生します。

この手合いって残念なことにベテラン制作マンに多く見られるんですよね。もうはなっからクリエイティブを捨てている、っていうか下手すると否定してかかる。しかもへんなところでプライドが高く、ひねくれてクリエイターを見ている。一応キャリアはあるので新人は言うことを聞かざるを得ない。結果、間違ったことを教えられるか、あるいは求人広告なんてこんなもん、と誤解したまま辞めていく。結果、いつまで経っても納品マシンが組織に居続ける。これ求人制作のあるあるなんですよね…。

一社目の代理店にもいて、二社目の版元でも組織拡大に伴い発生してしまい、そしてぼくがいま籍を置いている会社の求人事業部にもいました。こんなところにもいたのかと驚き、改善を図ろうとがんばったのですが…結局はご退場願いました。

④成果に異様にシビアである

ま、これに関しては一般の広告のほうがゆるいといえばゆるいことになりますね。求人広告は採用がゴールです。それ以外は何の目的もありません。なので掲載そのものには何ら価値が認められないんですね。

一般広告だとインナーブランディングとか、社員のモラルアップとか、顧客へのイメージ作りといったさまざまな副産物があるのですが(そしてそちらに逃げることもできるのですが)求人広告にはそれがありません。

なので成果を出すことについてはきっちり鍛えられます(それが先述の納品マシンを生んでしまう土壌にもつながるのだけれど)。特にインターネットが主役になってからは応募数と採用数だけでなく、impやPVもわかる。有効応募数も応募率もわかる。ぜんぶ数字で明らかになってしまうんですよね。

そこに目をつけてWebマーケティングをかじった輩がときどきクリエイティブにマーケの方程式を当てはめていい気になっていたりするんですが、商品広告との根本的な違い、コンテキストの違いを理解できていないケースがほとんどで、すぐにおかしなことになります。

⑤転職者の人生と企業の成長を左右する

これがまさに上に書いた「商品との根本的な違い」です。購入ではなくて、雇用です。たとえば1000円の健康食品をショッピングサイトで購入させるプロセスを、そのまま求人広告の世界に組み込んでみても上手くいかないんです。なぜなら「たくさんある選択肢からひとつを選ぶ」のあとに「やりなおしは基本的にきかない」からです。

1000円の健康食品の購入への導線として、あるキーワードでLPに飛ばして、申込みフォームまで持っていって購入させる。それで手に入れた健康食品がまずかったら、もう二度と買わない。気に入れば何度もリピートする。

そんなことが採用の現場でありえますか?入社したあとにその会社がヤバかったら。もう二度と応募しない?そんな問題じゃないですよね。時間と労力と履歴についた疵痕をどうしてくれるんだ、ということです。

企業側にも同じことがいえます。高いお金を払って広告を出して採用しても、その人材がいまいち活躍できなくてすぐに辞めてしまったら…その時間とお金、人的リソースをどう取り戻すのか。

そしてその人を採用するために「採用しなかった」その他大勢の中にもしかしたら最適な人材がいるかもしれない。その機会損失たるや。母集団Nに対して何%がCVするからNを100にしないといけない。そんな考え方は間違っています。Nの中身をひとつひとつ丁寧に確かめないと。

自己責任?そうかもしれませんね。でも少なくともその選択に関わる情報を扱ってメシを食うのなら、そこにこそ矜持を持とうぜ、といいたいんです。

■ ■ ■

最後のほう、ずっと疑問におもっていたということもありつい言葉が雑になってしまいました。申し訳ありません。でも、本当に求人広告の制作って本質的なところをしっかりと煎じ詰めると、奥が深いし意義もある。社会的認知も、価値も、もっと高くていいとおもうんですよね。

求人広告は、商品広告クリエイティブへのステップなんかじゃない。一生を賭するに値する仕事なんです。って辞めたお前が言うなって話かもしれませんが。

と、いうことで、がんばろう求人広告制作者!

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