あなたは本屋さんでカバーをつけてもらいますか?
ぼくはつけてもらいます。
かつて椎名誠さんは「バカカバー」と題して電話機にキルティングのカバーをつけていたり、本にすでにカバーがついていてなおかつ帯カバーもあるのにさらにカバーを付けるとはいったいぜんたいどういう了見なのかといった内容のエッセイを書いていらっしゃいました。
それを読んだ時は「確かにな…あはは」と笑いながら納得したのですが、ふと自分を振り返ってみるとぜんぜん笑えない。
車を野ざらしで停めてた時は『COVERITE』なんていうかなりお高いボディカバーをつけたり外したりしていた。スマートフォンを買い替えるたびに足はスマホカバー売り場に向かう。仕事をはじめたばかりの頃、意味もなく腕カバーをしていたこともある。もしかするとそろそろ頭にもカバーが必要かもしれない。
そんなカバーバカ一代なぼくのカバー癖の中でも最もメジャーなのが『ブックカバー』です。ブックカバーといっても布や革でできた立派なヤツではなく、書店でつけてくれる紙のカバー。
ぼくは本屋さんでお会計する時、手提げ袋は断ってもカバーは必ずつけてもらいます。
なぜか?
わかりません。
わからないが、とにかく無条件にカバーをつけてもらうのです。逆につけてもらわないと気持ちがソワソワする。別に潔癖症というわけでもないのに、です。
いま書いてて、あ、もしかしたら、と思い当たる節がありました。それは匂いです。本を買ったばかりの時、本そのものに加えて書店のカバーからも漂ってくる紙の匂い。これから始まる読書の楽しさを膨らませてくれる匂いが好き。
新品の本、それに巻き付いている紙のカバー。無造作にバッグに入れる。帰りの電車でふと、大きく開いたバッグの口から漂う乾いた匂い。
それが好きでお願いしてるのかもしれません。
その証拠に、買ってきてしばらくするとカバーは外して捨ててしまいます。たいていの本は読了時までにはだかんぼうになっています。つまり本屋さんのカバーの命は儚いのです。
と、いうことで(なにが?)
今回はぼくがよく本を買うお店に限られてはしまいますが、本屋さんでつけてくれる紙のブックカバーをランキング形式でご紹介します。ランキングと言っても徹頭徹尾ぼくの個人的な好みですのでなんの参考にもなりません。あしからず。
また紙カバーは使ってこそ、というのをモットーにしておりまして、あえて使用感あるものを撮影いたしました。シミや汚れもご愛嬌ということで、重ねてあしからず。
第7位:啓文堂書店
『啓文堂書店』というのは東京の私鉄である京王電鉄が株主の「京王書籍販売株式会社」が展開する書店チェーン。つまり京王線沿線を中心にお店を出している、若干ローカルな本屋さんです。
ぼくは長らく京王線エリアに住んでいたことがあり、本棚の半分ぐらいはこの啓文堂で買った本で埋まっています。いまも生活圏にはお店はないのですが、仕事場がある渋谷に一店舗存在していて、駅近ということもあり引き続き熱烈愛用している。ふだん着の本屋さんです。
そんな啓文堂書店のカバーはこちら!
うーむ。可もない不可もない、そんな性格に〜♪とKANの「まゆみ」を口ずさんでしまいたくなるほど普通の紙カバーでござるよ。特に主張もなく、意匠もなく。そのぶん存在が気にならない。ある意味、機能美の極地と言えるかもしれません。
第6位:ブックファースト
気がつけばいつもそこにブックファーストが。と言いたくなるほど、ぼくの立ち回り先に必ずあるのが『ブックファースト』です。本社は大阪。出版取次のトーハンが運営しています。都内で12店舗ある中でぼくが最も足繁く通うのは、東京モード学園が入っている新宿コクーンタワー内の新宿店。もうここは本屋好きにはパラダイスでしょう。一日中いられます。
仕事場のある渋谷にも出店していてめちゃくちゃ愛用していたのですが、いつの間にかヴィレッジバンガードに変わっていて大ショック。しかしビレバンとぼくは同郷ということもあるので出店反対運動などには参加せず、生暖かい目で見守っている次第です。現場からは以上です。
そんなブックファーストのカバーはこちら!
どうでしょう、このケレンみのなさ。淡い水色の地にさまざまな大きさのBook1st.の文字がレイアウトされています。カジュアルで、読書というものに対するハードルを下げてくれる効果があるのではないでしょうか。嫌いじゃないぜ。紙が薄いんですけどね。
第5位:三省堂書店
創業1881年、設立1928年という老舗大手書店『三省堂』は古本の街、神保町でもひときわ存在感のある本屋さんです。とにかくデカい。ない本はないと言っても過言ではありません。それゆえ一歩足を踏み入れると目的の本以外にも2〜3冊買ってしまうという本好きにとっての魔境です。
ちなみに神保町本店は今年(2022年)の5月8日、建て替えのために一時閉店しました。閉店前は旧店舗を愛するファンで連日えらく混み合っており、ぼくも何度か訪れましたがあまりの混雑ぶりについ足が近くの立ち飲み屋に向かってしまい往生したのもいい思い出です。
そんな三省堂書店のカバーはこちら!
SANSEIDOの「S」を意匠化したデザイン。三省堂書店のロゴを拡大し、ビジュアライズ化したものですね。洗練されていて、まさに老舗の安定感が漂っています。大学のキャンパスでこのカバーの本を小脇に抱えている女のコがいたら間違いなく飲みに誘います。大学行ったことないけど。
第4位:ジュンク堂
居酒屋に勤めていた時、池袋に『ジュンク堂』ができました。そろそろ水商売から足を洗って堅気に戻りたい…なんて思っていた頃だったので、世の中のことをもう一度勉強しようと毎日毎晩通ったのがこのジュンク堂でした。このジュンク堂、本屋さんなのに店内に椅子が用意してあるんですよ。どうぞ座ってゆっくり読んでください、という目的です。これには相当カルチャーショックを受けましたね。
ちなみにジュンク堂という店名ですが、代表取締役社長のお父さんの名前に由来しているんですよ。工藤淳をひっくり返して淳工藤=ジュンク堂。こういうどうでもいい豆知識もスナックで披露するとさすが中卒は教養があるね、と尊敬されるので覚えておくとおとくまんさいです。
そんなジュンク堂のカバーはこちら!
なんとなくアートな香り。カバー表裏にサイズ違いであしらわれているこの絵図の意図するところはなんでしょうか。残念ながら芸術方面にうといので、もしかしたら有名な作品なのかもしれません。教えて!詳しい人。
第3位:教文館
ここにきてグッと小ぶりな書店が登場します。ご存じですか『教文館』。銀座通りと松屋通りに面した場所にお店を構える銀座唯一の路面店型書店です。さすが銀座の路面店だけあってお店の作りはこじんまりとしているのですが、フロアごとに個性的な品揃えが魅力で、一般的(?)な書店ではなかなか出会わない本が発掘されることも。
ぼくは隣の有楽町交通会館にある三省堂書店によく行くのですが、なんかこう消化不良というか、もうちょい面白そうな本に会いたい!という気分の時は、銀ブラ兼ねてここ教文館まで足を運びます。するといつも不思議なことに、ピッタリの一冊に出会えたりするんですよね。
そんな教文館のカバーがこちら!
シンプルなデザインながら「KYOBUNKWAN」というローマ字で個性を主張しています。ポイントは「KWAN」ですね。KANではなくKWANにこだわりを感じます。また、これまでのカバーにはみられなかった「SINCE」表記が。みうらじゅんさんに教えなくちゃ!
第2位:東京堂書店
三省堂が神保町のランドマークだとしたら、こちら『東京堂』は神保町のパティスリーと言っても差し支えない存在ではないでしょうか。三省堂や書泉グランデなどでお腹いっぱいになった後でも東京堂に行けばまるで「ケーキは別腹」とでもいわんばかりに違った本に手が出てしまう。小さくも個性的な本屋さんです。
ここも教文館と同じく独自性の高い本棚作りが魅力。よりマニアックで読書家の欲求もバッチリ満たしてくれるはず。ぼくは読書家ではないのですが、それでもここに来るとなんだかえもいわれぬ知的好奇心の昂りを覚えます。
そんな東京堂書店のカバーはこちら!
深い緑色が高級感とともに誠実さ、知性を感じさせます。あえていえばいすゞピアッツァハンドリングバイロータス、みたいな。しかもこれまた教文館同様に「since」入っています。教文館と違って小文字表記もこだわりポイントですね。
第1位:青山ブックセンター
堂々の1位はみんな大好きABCこと『青山ブックセンター』です!もともとは六本木に1号店があり、洋書をはじめアートや建築、広告デザイン関係の書籍が充実したトンガった書店でした。深夜遅くまで開いていることから毎晩徹夜していた駆け出しコピーライター時代は本当にお世話になったものです。コピーが書けないとABCでコピー年鑑を眺める、というルーティンでした。
いまは表参道と渋谷の間の青山本店のみとなってしまいましたが、知的好奇心をそそる品揃え、時代と並走する文化を体感できるイベント、そして入手困難なヤクルト1000を売っている自販機など、いつ行っても楽しく、またついつい長居してしまう本屋さんです。ぼくは大事な作家の新刊が出るときは必ずここで購入し、お気に入りのカバーをつけてもらうようにしています。
そんな青山ブックセンターのカバーはこちら!
どうです、この爽やかでかつアイコニックな意匠は。第一号店の時に標榜していたアート感覚をいまに継承しているデザインだと思いませんか?シンプルに書籍をアイコン化し、ランダムに並べるという手法はミニマリズムの極致(って使い方あってるか?)。AOYAMA BOOK CENTERのロゴも実にノーブルな印象です。好きだぜ!青山ブックセンター!
カバーの数だけ書店がある
いかがでしたでしょうか、書店別ブックカバーバトルロワイヤル。他にも次点として「紀伊國屋書店」や「蔦屋書店」のカバーもありましたが今回は選から漏れました。
言うまでもないことですが本屋さんにとって自分の店舗のオリジナル紙カバーは持ち歩かれる広告塔なわけです。ブランディングの一翼をしっかりと担っているのだと思うと、なかなか興味深いところでもあります。
さて、あなたにはお気に入りの書店紙カバーはありますか?
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