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どこを見て仕事をするのか

わたしは世の中でもっとも理想的な仕事の形態はシンガーソングライターではないか、と思っています。

自分で曲を書き、詩をつくり、歌にのせる。ときには自分の爪弾くギター一本で。

ステージの上の主役は間違いなく自分。奏でるメロディをオーディエンスは時に恍惚と、時に激しく、時に涙してくれる。

ありがとう、のコールアンドレスポンス。ヘーイヘイヘイヘーイヘイ、ヘーイヘイヘイヘーイヘイ。学園天国。

自分が作ったものを自分の手で、目の前のお客様に売れるわけです。そしてその反応が手に取るようにわかる。

もちろん甘い世界ではないので、たくさんの人の共感を得るためにはそれなり以上の研鑽を積まなければならないでしょう。

しかし、売れる売れないの前に、自分のやりたいことを自分の責任下においてやれる。これは仕事という観点から見るとまったくもって理にかなっているように思えるのです。


このnoteは求人広告クリエイターに向けて書いているものなので、読者であるあなたは、求人の依頼をしてくれた企業の代わりに求人広告をこしらえることを生業としておられることと思います。

このとき、忘れてはいけないのが、どこを向いて仕事をするか、ということです。

いちばん最悪なのが、自分の会社のことしか見ないで仕事をする、というケース。自分が所属している会社のことだけを考えた仕事というのは、もうとにかく自社の利益だけをいちばんに追求することになります。それ以外は無視です。

するとどうなるか。

営業部門でいえばとにかく数字至上主義ですね。できるだけたくさんのお金を出してくれる企業からできるだけたくさんお金を引っ張ってくることだけを考えるようになります。

これが制作部門だとできるだけ手間暇工数をかけずに求人広告を作る人が偉い。と言うことになります。つまり本数至上主義です。

そうなるとどうなるか。

粗製濫造は日を見るより明らかです。


つぎによくないのが求人企業だけを見て仕事するというケース。

求人広告というビジネスモデルは求人企業がお金を払って広告を掲載するんだからそっちに阿って何が悪いのさ、という声も聞こえてきそう。

果たして求人企業だけを見て求人広告の仕事をするとどうなるか。

営業部門が数字至上主義であることには変わりありませんが、とにかく母集団形成に走りはじめます。目の前の企業の採用担当者は応募数が命だからです。

とにかく応募数がデカければでかいほうがいい。そこだけ担保できていれば、採用できない理由は他にいくらでもつくれるから。上に報告しやすくなるんです。

制作部門はどうなるか。営業同様やはり母集団形成を一番に考えるようになります。採用ターゲットが経験者だろうが未経験者だろうがおかまいなしに間口を拡げようとします。

いきおい総花的な訴求の、いかにも求人広告な原稿に走ります。

そしてそういう求人広告は往々にして「よいこと」しか書かれません。そのよいことも甘ったるく安っぽい、キラキラした自画自賛のフレーズで固められがちです。

企業の採用担当者が喜ぶからです。

こういう求人広告を見るたびに寒すぎるぜ…と思います。


求人広告制作者がどこを見て仕事をするか。

最後は求職者です。

求人広告のビジネスモデルは求人企業からお金をもらう、とは前述した通りです。求職者からは一銭もいただきません。

その一銭もいただかない求職者の方を向いて仕事をするとどうなるか。

営業は、目の前の数字はもちろん大事だとして、次に重視するのはその募集が求職者にとってどういう影響を与えるか、を考えます。俗に言う案件精査というやつです。この組織には審査部門はいりません。

そして制作部門はどうなるか。求職者のことを一番に考えるということは、まず情報の正確さを追求します。そしてその募集の魅力を正直に訴求します。

求人広告における募集の魅力を正直に訴求するとは、つまり採用ターゲットにとってのベネフィットを伝えることにほかなりません。

そのために営業にせよ制作にせよ、求人企業に対して細かく、丁寧にヒアリングをします。

時には求人企業がこれを書いてほしい、というリクエストに、それよりもこちらのほうが、と提言することもあります。時には採用担当者からこっぴどく赤を入れられることもあります。

それでもなぜこの表現なのか、について理解を求めようと説明を重ねます。そのうえでNGということは、もちろんあります。

それは仕方がありません。

とにかく、お金を払わない求職者に徹底的に尽くそうとします。

なぜか。

それが、求職者にとっても、求人企業にとっても、自社にとっても良い結果を生むと信じているからです。


お金からいちばん遠いところにいる存在に、いちばん尽くす。

でもそれが結果としてお金を出した側にも、お金をいただいた側にも、もちろんお金とは一切関係ない側にも、プラスに働く。

なんだかおかしな話だとは思いませんか?

だけど、そういうもんだったりするんです。

求職者に正確に正直に魅力を伝えれば、入社後のミスマッチがなくなる。入社後のミスマッチがなくなれば求職者は自分の履歴に傷をつけなくてすむ。求人企業にとっても無駄な採用工数を割くことなく、活躍人材を雇用することができる。定着すら期待できる。

そして求職者は自分がぴったりの企業に入社するきっかけをつくってくれた求人媒体のことは忘れない。求人企業は自社にぴったりの人材を採用するきっかけをくれた求人広告会社(この場合は代理店も含まれる)をまた使うはず。

そして求人企業と求職者の間をとりもった求人広告会社には、いくばくかの金子と、採用成功のノウハウと技術、そしてなにより人と企業を結びつけたという誇りと手応えが残るのであります。

こんな大事な、そして当たり前のことが、なぜ忘れられがちなのか。

わたしにはわかりません。

とても大事で当たり前のことがすっかり忘れさられた現場でひとり佇むとき、わたしはシンガーソングライターになりたい、シンガーソングライターのように仕事をしたいと思うのです。

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