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仕事の神は細部に宿る

神は細部に宿る、という言葉があります。

果たして本当に神は細部に宿るのでしょうか。
これはもう結論から書いてしまいましょう。

宿ります。
宿っちまいます。
宿りやがります。
宿りまくります。

少なくとも求人広告をつくる仕事に就いている人にとっては、もう無条件に信じなければいけないほど。神は細部に宿る教、という新興宗教があったとしたら入信しなければならないぐらい。

それぐらい、人の仕事と、神は細部に宿るという言葉はくっついています。もういっそ仕事の神は細部に宿ると言い換えてもいいぐらいです。

ついせんだって

ジョブチューンというTBS系の仕事バラエティを見ました。

この番組は大手チェーン店の商品開発担当者や店長さんが登場し、自社の商品をプロの料理人に試食してもらって合格か不合格かを決めるという、ある種荒唐無稽な番組です。

ですが世の中のバラエティ番組のほとんどは荒唐無稽なので、いまさら誰も「荒唐無稽だなあ」なんて感想は口にせず、粛々と目の前で行われている茶番を視聴するものであります。

正式タイトルは「ジョブチューン アノ職業のヒミツぶっちゃけます!」でふだんは工場の裏側に潜入したり、いろんなプロが登場して仕事術みたいなものを披露してくれるのですが、ときどき上記のようなジャッジ企画がはさまり、数字がいいんでしょうね、結構定番企画となって今に至る…という感じです。詳しくは知らないのですが。

ただ、このジャッジ企画、結構無理があるなあ、と素人でも思える部分が多々あります。

こんなことやってたらいつか炎上するんじゃないかと思っていたら今年の正月の特番でやらかしてほらいわんこっちゃない状態になっていた。その後、少しは番組内容が改変するかと思いきや、ほぼ変わっていないのでその強気な姿勢には共感を覚える次第です。

それはさておき。

ぼくがこないだ見た回では吉野家が登場していました。かつやも出ていたのですが個人的に吉野家フリークなので吉野家の時にしかブラウン管に目がいきません。

『とん汁』とか『牛すき御膳』など5品を品評されて、1品不合格ののち3品連続で合格。野球でいうとツーダンフルベースみたいな状況。最後のバッターは4番レフト『牛丼』です。

なんと収録スタジオで2019年度肉盛り実技大会女性部門グランドチャンピオンの店長さんが自ら盛り付けた牛丼を提供。審査員も固唾を呑んで盛り付けに見入っていました。

彼女は盛り付けに入る前のV(VTRですね)で「私が盛り付けた牛丼は他の誰が盛り付けた牛丼より美味しい自信がある」と宣言。そこに勢いあるも粘度の高いNA(ナレーションですね)が「絶妙な牛肉とネギ、そしてご飯の旨さを引き立てるツユのバランスが云々」とかぶせてきます。

ぼくはそのときある出来事を思い出したのです。

あれは20年前の秋

だいたいそれぐらい前の出来事です。当時勤めていたネット求人広告専業ベンチャーにひとりの大型新人が中途入社で入ってきました。仮にその男の名前をGとしましょう。どことなくゴリラのようだったのでGです。

Gくんは某大手牛丼チェーンで店長をやっていたとのことで、その人当たりの良さ、ガタイの良さ、元気いっぱいの言動プラス笑顔が当時の会社にベストマッチ。あれよあれよという間にトップ営業へと登りつめます。

そして自身の出自でもある飲食業カテゴリの掲載件数を大幅に伸ばし、プロダクトにも会社にも大貢献。企業成長の立役者の一人となりました。

直属の上司が名古屋支社へ異動となることが決まり、ほぼ同期の男(彼は攻めダルマというあだ名であった)との跡目争いが勃発。その戦いの日々は血で血をあらう壮絶なものでした。たぶん。

勝負が決まる最終入稿日。前日まで三日ほど徹夜で数字を追い上げてきた攻めダルマの猛攻をなんとか食い止め、クビ差、いやハナ差でゴールを決めたGくん。ぼくはGくんに拍手を贈ると同時に、ひとり男子トイレの個室で号泣する攻めダルマにも心の中で「よく頑張った」『岳』の島崎三歩のように声をかけたのでした。

で、ここからが本題なんですが、絶好調の頃のGくんがよく口にしていたセリフがありました。

「ハヤカワさん、ぼくの前職ご存知ですよね?肉、ネギ、ツユ、コメ。たったこれだけ。これをひたすら丼に盛るだけの仕事です。誰がやってもおなじです」

サービス精神旺盛な彼のことですから、ぼくたちを笑わせようと思ってそう言っていたんだと思います。でも、ジョブチューンに出てきた女性店長、牛丼盛り付けグランドチャンピオンの人は、決してそんな事を言っていませんでした。

ぼくはそのとき、Gくんのセリフをふいに思い出し(ああ…この違い、この差なんだな、仕事の価値を決めるのは…)とあらためて認識したのです。

求人広告制作者は

どんな仕事も同じだと思うなかれ、というのがぼくの信条です。たとえばコピー機のルートセールスといういささか人気のない職業があります。その募集の時ですら、頭の中で理想の職業人を描くべきだと思います。

「こんな人にこんな姿勢でこの仕事をやってもらえたら最高だな」

このイメージをどこまでリアルに描けるか。ディティールまで描き込むことができるか。それがこれからつくる求人広告を瑞々しいものにも、そうでないものにもしてしまいます。

牛丼ひとつとっても、ただ肉、ネギ、ツユ、コメの盛りつけだけと捉える人と、自分が盛り付けたら他の牛丼より美味しくなると思っている人とでは、当然できあがりに差が生まれるはず。

それはほんの少しの差でしかないかもしれません。事実ベースでいえばGくんの言う通り、肉とネギとツユとコメなんですから。でも、そこに込める魂というか、祈りのようなものがあるかないか。その小さな差は美味しさにつながり、やがてお客さんの満足という大きな差にひろがる。

もちろん経営観点からすれば、属人性は排除すべき。でも吉野家だって全従業員が最高品質の牛丼を出せるようなマニュアルを作り、研鑽させ、競い合った結果、チャンピオン誕生というかえって属人性にブーストをかけているわけです。誰がやっても同じ仕事なんて実は世の中にひとつもないんです。

これから自分がつくる求人広告を介して新しくその職業に就く人には、願わくば自分が思い描く理想の仕事をしてほしい。

採用成功を通じて応募者にも、求人企業にも幸せになってもらうことが求人広告制作者の使命なのだとしたら、忘れてはいけない原理原則です。

神は細部に宿る。仕事の神は細部に宿るのです。

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