求人広告制作の進め方
経験から言うと、一人の求人広告制作マン&ウーマンがひと月に担当する案件って、新規と既存あわせて35件〜45件ぐらいなんじゃないかと思います。完流抜きで。
完流と言うのはアレですね、完全流用の略ですね。掲載中、あるいは過去に掲載したことのある原稿をそのまま入稿することです。
で、少なくとも数カ所の修正や改善をかける原稿と、フルスクラッチで立ち上げる新規原稿。これが混ざりあいつつ月35件というのはだいたい1日に最低2案件に関わることになります。
一見すると、大したことなさそうですよね。
でもこれが結構、楽ではないのね。
どの案件も「はいよっ」とこしらえた原稿を営業に渡すと「ほいさっ」と受け取ってくれて、クライアントもそれを見て「いいねっ」と微笑み、営業が「へへっ」と得意気に制作へ戻す。そしてそのまま入稿ボタンを押す、という状態で進んでくれるならばこの世はどんだけ平和なことか。
大抵の案件は他の案件と並行で進む。結果ヒイヒイ言いながら、あるいは「まだですか?」の督促をかわしつつ、なんとかかんとか形にして営業にパス。飛んできた球をひろった営業は「やれやれ」とため息をつきながら「んんーっ?ちょっとこことここ直してよ」とダメ出し。直したら直したで今度はクライアントから「これで本当に採用できるの?」と全訂。そこまでの工程はすべて白紙となり、入稿日をズラすハメに。
全訂というのはアレですね、全面訂正の略ですね。ひどい時はコンセプトから見直し、みたいな。コピー丸ごと作り直しの憂き目。
このようにスタックしちゃう案件を一つでも抱えると、もう計画通りに行きません。
そして来る日も来る日もゴンズイダマのような仕事のカタマリを抱えながら走り続けていると、いつの間にか「一つの案件に集中して終わらせてから次の案件を」という制作プロセスが身についてきます。
それはそれで、いいんですけどね。
ぼくもそういう仕事の進め方だったし。
仕事を作業にしてはいないか
そう、いいんです。
一本つくったら次の一本、という仕事の進め方で。
それは効率の面や生産性といった切り口から考えると、至極真っ当であり、日本能率協会あたりからのお墨付きがもらえることうけあいでしょう。おじさん方が大好きなトヨタのカンバン方式みたいな雰囲気もある。
(それにしてもなんで昭和の経営のおじさんたちってトヨタの製造哲学を神のごとく崇め奉るんでしょうね。カンバン方式しかり、カイゼンしかり、なぜを5回しかり。前職ではよくモメました。ぼくらが造ってるのは工業製品じゃないんですよ、って)
だけど、そうやってちぎっては投げのスタイルだと、どうしても雑になるんですよね、仕事が。
言い方を変えると「仕事」が「作業」になっちゃうの。
これがいい、ではなく、これでいい、というジャッジになるといいますか。できたんだからほら、これを持っていきなさい。ああ、見直したり寝かしたりする必要なんかないない。ほら早く早く…みたいなスタイルですね。
クリエイティブって、そういう作業ではないんじゃないか。
(クリエイティブって言葉は好きじゃないけど求人広告の世界ではあまりにクリエイティビティの要素がないのであえて使うことにしてる)
クリエイティブって、一度筆をおいて、それからもう一回細部をこねくり回すところに真髄があり、醍醐味があり、それが本当のブラッシュアップではないのか。
そんなふうに思うんですよね。
同時進行を恐れないこと
だから、求人広告も、一本つくったら投げて次の一本、という制作スタイルをやめたらいいと思うんです。
一本つくったら投げないで寝かす。寝かしている間に次の仕事に着手する。次の仕事が煮詰まったら、前の仕事を読み返して手をいれる。ある程度まで手を入れたらやめて、また今度は新しい仕事に手をのばす。
同時進行でいくつもの原稿を進めたらいいんじゃないかと思うんです。
(もし、すでにそういう仕事の進め方をしている人がいたら、すばらしいとおもいます!)
これ、最近のぼくが仕事を通じて実感していることでもあるんです。
求人広告の世界を抜けてWeb制作畑に足を踏み入れたとき、いちばんびっくりしたのが「時間に対する態度」でした。
たとえば制作中のWebサイトで、ここにこういう内容の情報があるからこれぐらいの分量でコピーを書いてほしい、と頼まれます。
ぼくは「あいよっ!」って着手する。で、昔の癖でチャチャっとやってしまう。
「ほらよっ!」っとデザイナーに投げると、みんなすごくびっくりするんです。
早いって。
早すぎるって。
いやもちろん自分でも昔とりまくった杵柄のおかげで手が早いほうだとの自覚はあります。
だけどWebデザイナーの方々が言うには、さっきお願いした仕事の締め切りは来週の水曜ぐらいのつもりだったと。
おい、いま月曜だぜ。どんだけロングスパンで仕事が進んでるのよ。
異常も日々続くと正常になる
だけどホントにどの仕事も1週間から2週間ぐらいの猶予があるものばかり。逆に3日後に、なんていう仕事のときは低頭平身で「なんとかお願いできないものでしょうか…」とくる。
そんなの簡単だから大丈夫ですよ、といっても「いやいやいや。いいものを書いていただきたいので」「いいものをつくるのに時間はかかりますよね」と。
どんだけまともな世界なんですか。
っていうかそういう環境にも慣れてくると、逆にあの求人広告の現場の日々はなんだったんだと思うようになってきました。
異常も日々続けば正常になる、とはかつて仲畑貴志さんが書いた戦場のメリークリスマスのポスターのコピーですが、まさにその通りだったなと。
あの環境下で「ハイリハイリフレハイリホ~♪ ハイリハイリフレホッホ~♪ いいものつくれよぉ!」と丸大ハンバーグの替え歌を唄っていた自分の馬鹿さ加減にいまさらながら赤面するわ。
ちょうどいま、企業の行動指針案件、サイトリニューアル案件、周年企画案件、採用広報案件、事業プロモーション案件と大小含めて5つほどの仕事が同時に走っています。
そこに先週、求人広告制作の依頼が来た。
フラリーマン(フリーランスサラリーマン)を看板に掲げるぼくは来たものは拒まずの精神でなんでも請けちゃいます。
だけどもさすがにミドルスパンの案件がグワングワン進行している中、あまりにもショートスパンな求人の仕事は果たしてちょっぴりリスキーだったりして。
「いま詰まってるんだけど、どれぐらい時間ある?」
聞き分けのいいHR事業部の責任者は「逆にハヤカワさんの言い値でいいです」と。泣かせるじゃないか。ぼくは「じゃ1週間くれ」とお願いして引き受けることにしました。
手離れの速さに溺れていただけ
そうしてミドルスパンの仕事の中にショートスパンの求人広告制作を混ぜることに。
つまり集中して一本の求人広告をこしらえるのではなく、プロジェクトの合間にスキを見つけてちょっとずつ作っていく。
キャッチとボディを作ったら、一晩といわず2日も3日も寝かせたり眺めたりしながらちょくちょく手を入れたりして。
やってみたらそれがすごく新鮮なんですね。新鮮だし、プロットも表現も豊かになるのがわかる。
ああ、こうやってテキストってよくなっていくのか。確かにスピードを求められてはいたけれど、これまでずいぶんと雑な仕事をやっていたなあ、と反省です。
また、求人広告にはそれは求められていないんだよハヤカワちゃん、という意見もあると思います。
だけど求められていないからやらなくていいことと、そうでないことがあるんじゃないか。
いま思えば、手離れよくすることで、精神的にも物理的にも楽しようとしていたな、と。
手離れがよいのをいいことに、丁寧な作り込みをしていなかった。それでも通用する世界だったけど、それを通用させていてはいけなかったんですね。
求人広告制作に携わるみなさん、
そうはいっても急に、自分だけ、仕事の進め方を変えることは難しいかもしれません。ただ、これはという案件のときは少し時間をもらって、他の案件と同時進行でいいから村上春樹さん言うところの“とんかち仕事”にこだわってみてはいかがでしょうか。
さしあたって年明けぐらいから。
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