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たかがラーメン、されどラーメン

ラーメンについて語ることは、政治や野球そして宗教について語るのと同じぐらい危険な行為です。ましてや語るのみならず書くことなど言語道断。世にあまたあるグルメライティングの中でもラーメンほど壁が高く、また分厚いジャンルはないといえましょう。

ちょっとでもおかしなことを書こうものなら世界中から総攻撃を食らうこと間違いなし。通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のラーメン店主は好きですか?と聞かれるはずです。なのでラーメンについて書くことだけはひたすら避けてきました。

なぜわたしがそこまでラーメンについてビビっているのか。

それは何を隠そう、コピーライターとして最初にひろってもらった会社の上司に自称日本一ラーメンを食べた男がいたからです。のちにラーメンデータバンクなるデータベースサイトを立ち上げることになるその方は、それはもう当時からすごかった。ものすごかった。

ある日、自称日本一ラーメンを食べた男のクライアントに取材同行することになりました。場所は大船。会社は目黒でしたからちょっとした旅です。電車の中で何を話したかは覚えていません。たぶん開発系の会社の取材だったので専門知識をレクチャーしてもらっていたのでしょう。

ほどなくして大船駅に到着。その方はこう言いました。

「まだ取材まで時間あるから、ラーメン喰っていこうか」

きた!これが社内でも噂の隙きあらばラーメン食いか!?時計を見ると14時過ぎです。会社を出る前に近くのSUN族で昼飯を食ったばかり。が、もちろん断る理由もなく、お付き合いします。

「ここのラーメンはね、ちょっと変わったスープなんだよね…」

いろいろと解説してくれるのですが、弱冠ハタチのチープな脳では何を言ってるのかちっとも理解できません。美味しいかどうかも。

その後、取材と撮影を無事に行ない、ありがとうございました!と深々と頭を下げてクライアントを後にします。駅まであるく道すがら、いやあハヤカワくん思ったより取材できるんだネ、もっとダメかと思ってたヨ、と期待値の低さを丁寧に共有してくださいました。

そしておもむろにひと言。

「電車まで時間あるから、ラーメン喰っていこうか」

な、なんだ、と…?

わたしは自称日本一ラーメンを食べた男をこの瞬間から無条件にリスペクトすることになるのでした。こんなのリスペクトせざるを得ません。

また当時一緒に組んで仕事をしていたデザイナー(最近ふたたび組んで仕事することが増えました。うれしいです)はのちに『新横浜ラーメン博物館』の立ち上げに関わる人物に。

こういう業界でも指折りの人物を知っている以上、わたくしのような足軽ごときがラーメンについて語ることなどとてもとても…


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…とてもとてもなのですが、毎週水曜日に書いているnoteもそろそろネタが尽きてまいりまして。ついに禁断のラーメンに手を出さざるを得なくなりました。これだけは避けたかった。

と、いうことではなはだ勝手ながら東京で食べたラーメン超個人的ベスト5をご紹介します。いやお前ラーメンなら山頭火の青唐辛子仕立てのとんこつ塩だろうよ、とか、まてまてAFURIはどうなった?とか、おい中野の青葉は!?などなど異論反論大歓迎です。

飯田橋らーめん末廣(閉店)

いきなり閉店したお店を紹介してどうする、という声もあるかとは思います。思いますが、だからこそ紹介しておきたい。このまま誰の記憶にも残らず消えていくには惜しいラーメンだからです。

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おそらく少数の好事家の記憶にはうっすら残っているのではないでしょうか。飯田橋駅から歩いて5分もかからない大通り沿いにある、やや薄汚れたお店。メニューは4つのスープにわかれていて「末廣」「玄海」などと味ごとに名称が付けられていました。

ぼくはいつも八丁味噌のラーメンを食べていたのですが、ここに来る時ってたいがい深夜だったんですね。で、たいがい酔っていた。なので味を正確に測定できていたかどうかはいささか自信がありません。しかし思い出は最高のスパイスというではありませんか。

美味しかった!ということにしたいです(なんだこのレポート)。

桜上水多賀我(閉店)

つぎつぎと閉店した店ばっかり紹介してやる気あるのか?と思われても仕方ありませんね。しかし本当に好きなお店だったのでこのnoteに記録させてほしい。その一念で書き切ります。書き切ってやります。押忍!

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京王線桜上水駅から歩いて5分。上北沢駅からも歩いて5分ほど。甲州街道沿いにあった町中華っぽいラーメン店。それが『多賀我(たかが)』です。ここは土建屋さんだか住宅設備の会社がきまぐれで出店してみた…といった風情の、少しダラッとした感じのお店でした。

チャーハンや餃子など一品料理もあるのですが、ここはお店イチオシの熟成味噌ラーメンを。熟成とうたうだけあって、味噌が濃い。しかし塩っからくはありません。この絶妙な味わい、ありそうでなかった美味しさでした。

後日、自称日本一ラーメンを食べた男に「たかが、どう思いますか?」と聞いたら「ああ、たかがねえ…」と言葉を濁されました。

吉祥寺春木屋

お前春木屋といったら荻窪だろうがよ!と本気と書いてマジと読む方から全力でツッコまれそうです。しかしここはぼくのnoteですから徹頭徹尾個人的な趣味で言わせていただきます。春木屋は荻窪よりも吉祥寺のほうが旨いです!と。

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もちろんグルメではないので上手く説明できないのですが、荻窪のほうがやや煮干し臭が強いというか、同じスープでもなんだか粉っぽく感じるんです。その点、吉祥寺のほうは角が取れているというか、よくいえば都会的。ぼくの中でザ・東京ラーメンといえば吉祥寺春木屋なんです。

最初はそのまま。途中から胡椒を少々。半分ぐらいまでいったらお酢を入れて味変。ぐっとマイルドになって、はいこれでしあわせですね。みんな笑顔になれますね。そういうオーソドックスな中華そばです。

池袋屯ちん

池袋東口。ジュンク堂書店の数本隣の筋にひっそりとお店を構える屯ちん。いわゆる東京とんこつラーメンなのだが、とにかくここの味は優しいのひと言。その昔、西池袋の居酒屋で働いていたとき常連さんに教えてもらったのでした。

「あのね…店長…店長はラーメン好き?」「はい好きですよ」「だったら東口のね…屯ちん…屯ちんにいったことは…ある?」「いえ、ないです」「それはいけない…いけないねえ…屯ちんにいきなさいよ…屯ちんはね…優しいんです」「はあ」

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その頃はラーメンの味をよくわかっていなかったんでしょうね。なにが優しいのだかさっぱりわかりませんでした。普通盛りも大盛りも500円だったから優しいのかな?とか思ってました。でもいまならわかります。優しいとんこつの味です。

ちなみに現在は朝7時から開いています。コロナ対策でランチタイムに密にならないように、です。こんなところも優しいですね。朝ラーのバリエーションにぜひ。

千駄木ホープ軒

ホープ軒の素晴らしさはすでにこちらで語っておりますので、どうぞご一読ください。

オリンピックで一財産築くか!ってな勢いでビルを改装し、2階席、3階席までつくったものの、生憎のコロナ。国立競技場の周囲はやれ交通規制だ、やれ密になるな、やれ関係者以外立ち入り禁止だ、とトゲトゲしい雰囲気。

観光客はおろか関係者、都内在住者すら簡単には寄り付けないお店になっていました。事実ぼくもこの3ヶ月は足を運べていません。

いまどうなっているんでしょうか。もうしばらくすると立ち食いラーメンに最適な季節になるので、ホープ軒AW詣でを再開しようかと思います。

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と、いうわけでいかがでしたでしょうか、私が愛したラーメン店。みなさんにもきっと、自分だけのお気に入りがあるはずです。やれ牛骨だ、やれ親鶏だ、トレンドを追いかければキリのない世界。人気店にもなると何時間も並んでやっと一杯…ということもあるでしょう。

しかしそういった流行の最先端からちょっとだけ視線をはずして、本当に自分にとって心地よい一杯を探してみるのは、実は本当の豊かさに通じるのではないか。そんなふうにおもいます。

なに偉そうなこと言ってんだ、たかがラーメンで。という声もあるでしょうが、いやいやされど一杯のラーメンが人の心を温めてくれることだってあるんですよ。きっと。

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