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日本には日本仕事百貨がある

みなさんは『日本仕事百貨』というサイトをご存知ですか。

求人広告の仕事にトータル30年関わってきたわたしが、日本でいちばん素晴らしい求人広告だと思うのがこの『日本仕事百貨』です。

まあ、見てみてください。

素晴らしくないですか?

このサイトに掲載されている、ひとつひとつの求人広告をじっくりと味わっていると、世の大手求人メディアに載っている求人広告がいかに騒がしいかわかると思います。自戒も込めて。

ここに集まっている求人情報は、その仕事や会社の周辺から丁寧に取材されていることがわかります。そして静かに、ゆっくりと募集そのものに迫っていく。読み手は無理なく、その求人の世界に入り込んでいくことができる。

もちろん給与が低水準だったり、勤務地が厳しい山間部だったりと、一般のメディアが扱わない案件も少なくありません。だからといってそのことを隠したりしない。むしろ、厳しいことは厳しいとハッキリ書く。

はなから母集団形成なんて考えていないんです。潔い。

そして一つの情報が長い。たっぷり読ませる。これを読めない人は最初から対象外だよ、とでもいわんばかりです。いや、実際にそういう効果を狙っているのかもしれません。

実に味のある何点かの写真と、静かな筆致の文章。わたしはここに、日本人が失ってしまった何かがあるように思えてならない。

それが『日本仕事百貨』なのです。 


わたしがこのサイトの存在を知ったのは前職で制作責任者をやっていた頃。前職の会社も入社時は15人だったのがその時には800人ぐらいになっていて、会員数も数十倍、掲載件数も瞬間的に業界1位の赤いサイトを抜くことがあったほどです。

当時はまだ『東京仕事百貨』という名前で運営されていたのですが、当時から現在まで顔つきはまったく変わっていません。最初からブレない軸で運営されてきたんですね。

わたしがこのサイトを見つけて「これいいなあ」と感嘆のため息をついていると、当時の上司は言いました。

「これ、どうやってマネタイズしているんでしょうね」

確かに。どんなに崇高な理念のもとで運営されていてもお金にならなければ暮らせません。電気がないのと一緒です。

「これだけの文章量の取材と執筆、あと写真もですが、どう考えても利益がでなさそうですね」

まったくその通り。利益度外視?ぐらいに思っていました。

「こんな長い文章、誰が読むんすかね?」

「カテゴリもない(当時)し、ユーザーインターフェースが悪すぎですわ」

次々とサイトのウィークポイントをあげていく上司。わたしは、うんうん、そうですよねおっしゃる通り、さすがの慧眼です!とうなづきながらも胸のどこかにひっかかるものを感じていました。

そのうち、果たして自分だったら同じようなサイトをつくり、運営することはできるだろうか。と夢想するようになります。頭の中は自由ですから、まずは取材や原稿について、です。

あの原稿には編集者がいる。

はっきりとそう思いました。ひとりのライターではあそこまでのクオリティは担保できないはず。あれはあきらかに編集とライターの切磋琢磨あってこそ。どんだけ工数かかってるんだろうか。

さらに求人広告ですから効果がでなければ意味がありません。その点はどうするか。露出はリスティング?SEO?それとも…集客方法をいろんな角度から考えました。

結論、自分には無理。少なくとも量産はできないと思いました。特に当時在籍していた会社は再現性、生産性、汎用性の三拍子を声高に叫び始めた頃。わたしの頭もそちらに傾いていたのかもしれません。

それで、わたしもしばらく『東京仕事百貨』の存在を忘れていました。上司はそもそも競合にもなりませんよ、ネットの世界では一位か二位以外は生き残れないのです、と実に正しいことをおっしゃっていました。

でも結果的に「東京」を「日本」に置き換えて、運営を続けていらっしゃる。いまから3年ぐらい前にひょんなきっかけでサイトを訪れて、ものすごくうれしかった気がしました。

正直、誠実、丁寧、愚直。

不器用、非効率、属人的、不便。

ときにワクワクし、ときにハラハラし、へえそんな仕事があるんだと発見があり、つい涙してしまうこともある。そんな求人広告が、日本にある。ただひとつの存在が『日本仕事百貨』なんです。

相も変わらぬその存在感にふれるにつけ、当時在籍していた会社やその競合たちが凌ぎを削って「ユーザーへの利便性」を追求していたことは、マスプロダクトとしては間違っていなかったと思うのですが、果たして本質的なことだったのかな、と。

パッとみてわかる。秒で転職先が決まる。給与や休日など労働条件最優先で仕事を探せる。できるだけ文章は減らして、画像や動画によるコミュニケーションを。ユーザーを飽きさせないようにゲーム性を。検索すればパッと欲しい情報にアクセスできる。労力をかけずに次の職場にうつれる。

それらは果たして、本当に日本における「人と仕事の出会い」の質を高めたことになったのでしょうか。


わたしは『日本仕事百貨』で人を募る会社が好きだし『日本仕事百貨』で仕事を探そうという人が好きです。

わたし自身は『日本仕事百貨』で仕事を探すことはなかったが、そういう気持ちにさせられるのを、ブランディング、なんていう言葉で表してほしくない気持ちがあります。

が、まあ、ありていに言えばこれがブランディングの正しい姿なんだと思います。

汗をかかず、時間をかけず、手間もかからないブランディングなどない、ということですね。

なんか最近「バズ」と「ブランディング」を混同している風潮がありそうな気がして、蛇足ですが書き記しておきました。

求人広告制作者に向けて書いている月曜日のこの連載、2023年は今回が最終回になります。この一年もありがとうございました。来年はもしかすると更新頻度が落ちるかもしれませんが、引き続きのご愛顧をどうぞよろしくお願いいたします。

それでは、メリークリスマス!

(『日本仕事百貨』ならそのうちサンタクロースの募集を載せそうですね)

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