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求人広告の職種名について考える、秋。

求人広告において、キャッチコピーよりもボディコピーよりも、かわいい営業アシスタントの画像よりも、イケメンデータサイエンティストのインタビューよりも、クラブ貸切で行なう社員総会よりも、グアム社員旅行よりも、オフィス2キロ圏内の家賃全額補助制度よりも、効果を左右するファクターがあることをご存知でしょうか。

それは、職種名です。

まさか、クラブ貸切の社員総会よりも効果を左右するものなんて、現実の世界にあるんですか?

と、思ったあなたはだいぶお疲れのようです。ヤクルト1000を飲んでぐっすりおやすみなさい。銀座三越の地下食品売場なら確実に手に入ります。あと新橋のヤクルト本社ビルでも。

職種名の持つ力は絶大

職種名はなんといってもコミュニケーションスピードがべらぼうに速いです。ほとんどの場合、パッと見てどんな仕事なのかイメージできてしまう。もちろんそれが正確かどうかは別にして、読み手の頭の中にある情報で組み立てられてしまうんですね。

みなさんは「営業」というふた文字から何を想像しますか?

飛び込み訪問、新規電話100件、ガチャ切り、ノルマ、行動件数縛り、契約、名刺交換、暑くてもスーツ、冬でも大ジョッキ、べしゃり上手、空気をパンパンにつめた紙袋を破るようなけたたましい笑い声、朝礼での社訓唱和、押し出しの強さ、目力、目標必達、パンシロンでパンパンパン、昼から180gのサービスステーキをペロリ…

若干の憧れもあり、いささか豪快すぎるイメージに仕上がっていますが、ぼくの中での愛すべき営業像はこんな感じ。そしてどのような業界や会社でも多かれ少なかれセールス職というのはこういった要素を含んでいるもの。

もちろんネット社会になってからはプッシュ型よりもプル型の営業スタイルが主流となっていますし、さまざまな営業ツールも充実して以前ほど泥臭い仕事ではないとは聞きます。以前というのは20年ぐらい前ね。

クリティカルシンキングを駆使して立てたタクティクスをもとにベストプラクティスをプレゼンテーションする俺…みたいな営業が市民権を得る日も近いのかもしれません。

しかし、営業という職業柄を思い浮かべると、どうしても前述のイメージとのフィット感を頭から拭い去ることが難しい。逆にいうとあの世界観にアレルギーを示すタイプの人には向いていない職種ということが言えるのではないでしょうか。

同じように「経理」「エンジニア」「人事」「製造」「デザイナー」「広報」「販売」など、職種名というのはその仕事内容やイメージを当たらずとも遠からずの範囲で雄弁に語るのであります。

だからこそ、職種名を扱うときは慎重になったほうがいいのです。

粒度をできるだけ小さくする

ポイントは募集主から仕事内容をヒアリングするときに、きめ細かく、丁寧に行なうこと。同時に「それって一般的に聞いたらどう思われるだろうか」という視点を忘れないことです。

やや抽象的になってしまったので、具体的に例をあげて説明します。

あるECサイト運営企業から求人の依頼を請けたときの話です。当初、募集主さんは物流営業の採用とおっしゃいました。

みなさん、物流営業と聞いてどんな仕事を思い浮かべますか?

ぼくは最初、運送会社や倉庫会社に対して営業をかけて一社でも多くの取引先を開拓していく仕事なのかな?と思いました。あるいは既存の取引先を回って扱う品目を増やしてもらうとか?

業務自体はシンプルですが、ザ・営業みたいな。足を使って稼がないといけない仕事という印象を持ちました。

募集主さんは「この仕事はちょっと特殊な営業なので経験者が欲しい」といいます。でも物流営業経験者はまず採用できないとも。これまでも経験者からの応募はゼロで、やむなく未経験者を採用して教育しているんだそうです。

そこでぼくは詳しい仕事内容を深掘りして聞くことにしました。

すると物流営業とは何軒かの倉庫に交渉して相見積を取り、荷物一個あたりの保管費用をできるだけ下げるよう交渉する仕事だといいます。倉庫が難しい場合は運送会社に調整を入れるなどして、物流工程全体のコストコントロールを適切に行なうことがミッション、とのこと。

また依頼主の要望に応じてどこまで作業を担うかのアレンジを施し、人のアサインを行なうといった、物流そのものが円滑に進むための統括をお任せしたいそうです。つまり予算・納期・品質の管理ですね。

どうやらぼくの先入観は間違っていたようです。そして、営業という職種名が持つイメージが逆に働いているようにも思えます。それが応募がこない、あるいはミスマッチの原因ではないかと。

「営業っていうよりも、物流全体のディレクション?あるいはプロマネっぽくないですか?」

そうなんです、足を使って訪問件数をこなしてゴリゴリ押していく、というセールスっぽさはなく、代わりに全体を見ながら予算配分のバランスをベストな状態に持っていくという、企画や管理、調整系の仕事だったのです。

最終的にEC物流工程のプロジェクトマネージャーという職種名に変更し、応募資格も物流業務全般に広げるとともに営業経験は不問に。結果、倉庫を持つ運輸会社で非常に近いキャリアを有する方の採用に成功しました。めでたしめでたし。

ポイントは情報をできるだけ具体的に、かつ小さな粒に噛み砕くこと。募集主さんの中には非常にざっくりとしたイメージで職種名を捉える方もいらっしゃいます。

ざっくりイメージはそれはそれでわかりやすかったりするのですが、わかりやすさの罠とでもいいましょうか。わかりやすいことによって本質がマスキングされてしまうジレンマがあるようです。

決してやってはいけないこと

職種名の重要性についてこんこんと説いてまいりました。これを読んで「よし、明日からウチの営業は全員コミュニケーションディレクターと呼ぶことにしよう!」などとおっちょこちょい施策に打って出る経営者の方はいらっしゃらないと思いますし、そもそも経営者の方がこんなnote読んでるわけないのですが、ここで禁忌事項というか注意点を。

名称の工夫をすること自体は素晴らしいと思います。ただし、この作業って往々にしてエスカレートしがち。目的はその仕事の本当の姿を正しく表すことにあります。

ですから前述のコミュニケーションディレクターも、本当にその名称が正しいのであれば、全く問題ありません。

問題なのはその職種名が持つ負のイメージを払拭して応募数を稼ぐためにネーミングでなんとかしよう、とすること。

それは、ですから。

嘘、大げさ、紛らわしいの3大ネガティブはJAROに訴えられます。っていうかそれ以前に面接で実態を知った人から辞退するでしょう。たとえ入社したとしても定着しません。

また、逆に募集企業内のみでしか通じない職種名の際、一般的に通じる名称にアレンジして提案することも求人広告制作においては大切な任務といえるでしょう。

ぼくも過去、あの有名な○○・○○ー○さんの求人をお手伝いしたとき「ウチでは販売担当者をカテゴリーマネジャーと呼んでいるので、よろしく!」と押し切られたことがありました。

ちょっとわかりにくいので、たとえばカテゴリーマネージャー(販売担当)のようにしませんか?と提案したのですが、一切まかりならんと。

また「ウチは『売り場』とは呼ばずに『買い場』だから、よろしく!」と、これまた押し切られましたね。

もちろん募集主としては思想や信念、こだわりを持ってそう呼んでいらっしゃるので、最終的には「わかりました」となるしかありません。一介の業者風情があーだこーだ言う場面ではないのでしょう。

しかし社内ならまだしも社外、さらにPR記事とかではなく求人広告にまでその流儀で押し通すというのは広告効果から見て、あまり経済合理性が高い判断とは言い難いというのが昔も今も変わらぬぼくのスタンスです。

と、いうことで職種名でやってはいけないのは事実をマスキングしたりわかりにくくしたりすることです。

<追記>有識者の方より企業名の伏字が伏字として機能していない、というご指摘をいただいたので○を増量いたしました。ボボボーボボ・ボーボボの趣が深まり、これはこれで乙だと思います。


ちなみに今どうなってるのか気になって○○・○○ー○の募集をリクナビネクストに見にいったところフツウに「接客・店長候補」になってました。買い場に対するこだわりも消えフツウに「売場担当」とか売り場の演出となっていました。

どういういきさつで一般的な呼称に戻ったのか内情に詳しい人にぜひ聞いてみたいですね。

今回のタイトルは求人広告の職種名について考える、秋。でしたが、どこにも秋の要素を入れられませんでした。ごめんなさい。

ではまた来週!

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