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日曜日と水口食堂とわたし

浅草といえばいまさら何の説明もいらない東京を代表する観光地である。昔の東京の面影が残る…というような枕詞で紹介されることも多いが、正直そんなに残ってないな、と最近はおもう。

三社祭は明後日の金曜日から三日間開催

上京して最初に属したコミュニティが鶯谷にあったことから、浅草には数え切れないほど足を運んだ。30代を迎える前は青山や白金、麻布あたりよりも頻繁に出没していたはずである。

ここ数年の浅草の楽しみ方は馬と酒である。お決まりのコースはウインズ浅草で馬券を買い、見事的中した妄想を楽しみながらホッピー通りへ。お気に入りの居酒屋浩司でモーニングビールからの牛すじ煮込みを楽しみつつグリーンチャンネルで現実の厳しさ(つまり馬券は外れる)を知るというもの。

ところがここに来て、その流れが大きく変わりつつあります。

馬券購入までは同じなんですが、ホッピー通りには足を向けなくなりました。理由はあまりにも観光客が多すぎてまったく落ち着かなくなったから。とにかくものすごい混雑で、お店に入れないこともしばしばです。

そして、その代わりに凄まじいまでの存在感で日曜の浅草に迫ってきているのがこちら。

空にそびえる水口の城

食事処水口食堂です。お店の看板やファザードには『水口』としか書いてないのですが、Twitterのアカウントやお店のHPには『水口食堂』と表記があるのでぼくはそちらにならっています。

そして、ここはまさしくその「食堂」というワードがピッタリのお店でもあるのです。

飯と酒と肴があれば生きていける

HPによると水口食堂は1950年から浅草六区でお店を開いているそうです。

浅草の食堂といえば「うますぎて申し訳ないス!」のキャッチコピーでおなじみのヨシカミが有名ですが、そのヨシカミですら開業は1951年の12月末。それよりも1年以上前にオープンしていることになります。

サンバカーニバルもかくや、という賑やかさ

もちろん建物は移転や建て替えなど幾度とリニューアルされていることでしょう。古さはまったく感じません。だけど懐かしさはめちゃくちゃある。そういえば昔はこういう感じの食堂がどの町にもあったなあ、と。

最近は駅前開発が盛んで、ぼくの第二のふるさと十条でもロータリーを潰し周辺のお店を立ち退かせてタワーマンションを建てています。人口減確定なのにまだ建てる必要あんの?タワマン。

何時間眺め続けても飽きない

吸い寄せられるように水口食堂に向かうとまず店頭の料理サンプルがお出迎え。これを眺めながら今日のメニューを組み立てるわけです。

料理サンプルというと往々にして実態との乖離が発生するのですが、ここ水口食堂の料理はサンプルの再現性が高い。いや、サンプルがリアルに作られているということなのか。

そんなことはどうでもいいからササッと入店します。1階だけでなく2階にも席があり、入れなかったことは一度もありません。

まずは乾杯!

上の画像を見て「むむ、やるな」とおもったあなたは浅草通。そうです、浅草といえばアサヒビールのお膝元。ゆえに猫も杓子もスーパードライなんですが、水口食堂では堂々とサッポロ黒ラベル生を出してきます。やるぅ!

露出補正失敗

まずは食堂の定番、ポテサラ。これがなにげに美味しい。そしてほとんどの料理のつけあわせにも添えられています。よほどのポテサラ好きでない限り単品で別注する必要はないでしょう。

ブンタタブンタッター♪

こういうお店に置いてあるウインナーってどうしてこうも美味しいのでしょう。ビールがグイグイ進みます。もちろんドイツバイエルンの血統はまるっきり断絶されています。おそらくニッポンハムでしょう。

はじめての味がまだあった!

これが水口食堂オリジナル、迷ったらこれ!と自信を持ってレコメンドされている名物メニュー「いり豚」です。

豚肉と玉ねぎを特製のソースで炒めた逸品。名物にうまいものなし、という言葉がありますが、これは名物でありうまいものであります。

ハンバーグを覆い尽くすミート

食堂という言葉からあなたは何をイメージしますか。ぼくは幼少期、祖父に連れていってもらったデパートの食堂です。そして注文した料理はハンバーグ一択。まぶたを閉じると優しかったおじいちゃんの思い出が去来し、熱いものがこみ上げてきます。おじいちゃん、もう少ししたら俺もそっち行くから。こんどは祖父孝行させてね!

そんなちょっぴり鼻の頭をツンとさせながらいただくハンバーグは、これまた絶品。ソースがスパゲティにかけるミートソースのようにひき肉と野菜、トマトで煮た感じの珍しいスタイルです。

あまから、って言葉の意味を噛み締めて

このあたりからツレの食欲エンジンが温まってきて、ビールやハイボールを追加しつつワシワシと料理を攻略していきます。

町中華じゃあるまいし、さすがにこの手の店の麻婆豆腐はそれほどでもないでしょう、とか言いながらオーダーしてみました。そうしたらですね、あなた。下手な激辛チンマーボーよりも美味しい。どんだけ守備範囲広いの、ここんちのシェフったら。

お芋の主張がたまらなくテイスティ

中華に振った針を和にグイッと戻して肉じゃがをオーダー。「独身男は肉じゃがに弱い!」といういまなら速攻で炎上しそうなキャッチコピーでエバラが肉じゃがの素を販売していたのはいまから10年以上も前のこと。

水口食堂の肉じゃがはとにかく芋がおいしい。ポテサラも美味かったんだから芋は全般美味いんですね、きっと。芋つかってる料理は手当たり次第に注文していいとおもいます。カレーライスにも期待がもてますね。

ひき肉が入ってボリューム満点

ここらでちょいとシブめにオムレツを。オムレツって奥が深い料理、というイメージがありますよね。とくに『dancyu』とかに登場する意識高い系料理人なんかが「まず卵がすべてですね」「卵のみで勝負です」「いかにシンプルに本質に近づけるか」とかなんとか言ってそうですがうるさいうるさい。

水口食堂のオムレツはひき肉がたっぷり入った昭和の味。おばあちゃんが作ってくれたあの美味しさが降臨するんです。これも外せないス。

グラスの表記と中身は異なります

このあたりで本格的に胃袋のリソースを確保するためにビールからレモンサワーにシフト。ちょうどいい焼酎の加減でグイグイいけるよ。

おおぶりのマッシュルームもいい仕事してる

ヨシカミでも必ず注文するポークソテー。ぼくはもしかしたら地球上の食べ物でいちばん好きなのはポークソテーかもしれない。だいたいポークにソテーって言葉がくっつくのって、美味しいことを証明しているようなものじゃないですか。

でも10回に3回ぐらい、裏切られることあるんすよ。えっ?これのどこがポークソテー?みたいな。これ生姜焼きじゃん、ポークジンジャーって言えよと消費者センターあるいはJAROにタレコミたくなるインシデントが。

もちろん水口食堂のそれは期待を裏切りませんよ。さすがにぼくの中での世界一であるヨシカミのポークソティには及ばないものの、それでもスターティンググリッド3列目には確実に食い込むことでしょう。

まさかここまでいい仕事するとは!

この日、恐ろしくダークホースだったのがこちらのコロッケ。さきほどもちょっと書いたけどポテサラ、肉じゃがといずれも芋料理が美味かったので最後にダメ押しの一品として頼んでみたのね。

そうしたらこれがもう天にも昇る旨さでして…ああ、日曜日の午後、こうしてバカウマなコロッケをつまみにお酒を飲みつつ、ウマのがんばりに自分の運を託すなんて、もしかしたら俺は宇宙一幸せなのかもしれない、と。

そろそろ東京メインレースの時間ですね

壁に貼られたポスターに言われるまでもなく、今日も心は日本晴です。

ありがとう、水口食堂。
ほんとうにありがとう。

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