わたしのクリエイティブ必勝法(仮)
原野守弘さんの『ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門』はいまさら説明不要の名著であります。クリエイターは必携、ビジネスサイドの方もぜひ一度は目を通してほしい一冊です。
まさにタイトル通り、クリエイティブの世界に「入門」するために避けて通れない本質的な事実が描かれています。ここまでシンプルに、かつ内容を1ミリのブレもなく的確にあらわしているタイトルもないなと思います。
わたしはこの本を手に入れてからもう数え切れないほど繰り返して読んでいます。実際の仕事にも応用し、かなりの確率でクライアントに驚きと感動をお届けできている…はず…です。たぶん、きっと、おそらくは。パーハップス。南無三大菩薩。
さて、この本には本編のほかに「ものづくりを成功に導く7つの原理」という章が掲載されています。これは原野さんが英国で出版された『Creative Superpowers』という本に寄稿した文章に加筆したものです。
面白いだけでなく示唆に富んでいるので見出しだけ抜粋しますと…
知りすぎるな
いきなり考えるな
侵犯せよ
捨てろ
寝ろ
無駄のための無駄をつくるな
愛と尊敬
これだけ見ただけでも興味がそそられるはず。もしそそられなければそれはクリエイションの資格にもとるということかもしれません。
ついせんだって、ある大きめの仕事に向き合うときこの本のページをめくった(わたしはいつも大きめの仕事に取り組む前はこの本をひらきます)その刹那、そういえば自分にもお作法のようなものがあるな、と閃きます。
そして、せっかくならそれを羅列してみようか、と思いました。
なぜか。
求人広告ネタが枯れたからです。
と、いうことで
原野さんの猿真似ですが、わたしがものづくりをするときに意識していること、取り組んでいることを書き出します。果たしてそんなものに価値があるかどうかわかりませんが、ないと断言もできないのでやってみます。
これがどこかの誰かのなにかの(それがたとえ暇つぶしだとしても)役に立つことを祈らずにはいられません。
なお記事タイトルはいいねほしさで『クリエイティブ必勝法』としてありますが必勝法でもなんでもないのであしからず。(仮)は照れです。煽り慣れてないんです。
① ネガティブな話を集める
仕事はいつも、オリエンからはじまります。競合プレはやらない主義なのでオリエンというよりはヒアリングですかね。担当者の場合もあれば経営幹部、あるいはトップに直接というケースもあります。
その時に必ずやるのがネガティブな話をできるだけたくさん集めるということ。
だいたいにおいて企業側はいい話をしようとしてくれます。いい話を聞いてもらって、いい成果物を得ようというのは当然のこと。だからついポジティブな内容ばかりに偏りがちです。
でもわたしは過去の経験則からネガティブな話の中に本質が隠されている、ということを知っています。以前の行動指針がマイナスに働いて社内のモラルが下がった、といった話が出たらさらに深掘る。
これは意識的にやらないとなかなか出してくれません。
だけど作る物にもよりますがそもそも今回何かを言葉にするためにわたしが呼ばれている以上は、どこかに言いにくいレベルのネガティブが隠されている。それがわかれば、そうならないような逆のベクトルが決まります。
だから聞きます、絶対に。
② すぐ書く、めっちゃ書く
コピーの教科書を見るとだいたい「すぐ書いてはいけない」と書かれています。まず最初に誰に、何を伝えるのか。どのように伝えるべきかをしっかりと考えてからペンを持て、と。
一般的にはその通りだと思います。
だけどこれはわたしは初回ヒアリングを終えたらまずすぐに完成形を目指して手を動かします。未完成であることは承知でとにかく書いちゃうの。
なぜか。
手に脳がついてるんです。指先に大脳新皮質が。
嘘です。
安心したいんです。
ここから始まる長い旅に向けて、いち早く安心材料が欲しいのね。こういうこと言うとお前はクリエイティブ体質ではないと言われるんですが、これはもうしょーがない。っていうかそもそも俺は自分のことをクリエイターだと名乗ったこともなければ思ったこともないぞ。
ひどい時は契約前の軽いリモートミーティングだけでフレーズをいくつか思いついて書いておくこともあります。
なんでかっていうと、この仕事、精神的な安定が結構大事だからです。あれこれ心がざわざわしているときに、どこかの誰かの幸せにつながるような企画やフレーズなんて考えられません。これはわたしだけではないはず。
だからまず手始めに粗くとも形にしてみる。
で、安心してから面倒臭いプロセスを一からやっていくわけです。
③ 早朝の散歩で思考をひろげる
その昔、矢野顕子さんだったかな。メロディはどこで浮かぶの?みたいな質問に「お風呂で」とか「おトイレで」なんて答えていて。ああ、なんかいいなと思っていたんですが。
後日それはリップサービスみたいな記事を目にして、しょんぼりしちゃいました。
なぜかというとわたしもアイデアやフレーズの原型はデスクの上ではなく、早朝、犬の散歩をしているときに浮かぶからです。
脳が活性化している、集中しやすい、外部からの適切な刺激がある、などなどいろんな理由はあるでしょうが、正確なところは分かりません。
夜もあけきらない時刻、まるでひと気のない堤防(わたしは湾岸地区に住んでいます)を歩いていると懸案事項が頭の中央にあらわれ、どんどん課題が形を変えていくんです。
だけどメモはとりません。あえてメモを取らずに帰宅して、犬の足を拭いたり朝刊を取りに行ったり、と雑務が一段落したときにあらためてiPhoneのメモ機能を立ち上げます。
もちろんすっかり忘れていることもあります。
でもそれでいいと思っていて。そんなんで忘れるぐらいならその程度の強度ということです。
④ 使われる場面を想像する
主に企業内で流通する言葉を考える仕事が多いので、特に意識しているのがこれです。パーパスやミッションビジョン、そして行動指針の言葉たちは額に入れて飾って眺めるものではありません。
普段の仕事の現場で、マネジメントで、評価会議で、社員総会で使われることを考えるわけです。
そうなるとあんまり長いのは良くない。難しい感じも避けたい。カタカナで造語だったりすると恥ずかしい。でもそれが恥ずかしくない社風の会社もあったりする。ここが難しいんだけどね。
それより何より、その言葉を日常づかいする人たちが、思わず口にしたくなる言葉であること。
それは時に判断軸に使われたり、本質に立ち返ることになったり、己やメンバーを鼓舞したり。その言葉が与えられた役割を果たす場面で使われてこそ効果を発揮するわけです。
そのときに遺憾なく力を発揮するだけでなく、場面にフィットするかどうか。ここはかなり意識してチューニングするようにしています。
⑤ 企画書はiPhoneのメモ機能で
わたしの企画書はPowerPointかGoogleスライドでつくるんですが、文字だけで構成されます。アニメーションはもちろん、グラフなどもありませんし、罫線などもほとんどつかいません。
以前は游ゴシックでしたが最近は明朝体が気に入っています。そのほうが想いが伝わるような気がするからです。
構成は【はじめに】で企画の趣旨、【課題】で今回解決すべき課題、【洞察】で課題に対する自分の見立て、そして【表現案】でおしまい。
これらをパワポやスライドに落とし込むのは提出日の朝。それまではiPhoneのメモにポチポチ打ち込みます。
これのなにがいいかというと、まず第一にポータビリティ。何時から何時まで、というスタイルの仕事じゃない以上、いつでもどこでも形にできるようでありたい。そしてもうひとつはダラダラ長文にならないことです。
以前は結構、凝った企画書でハッタリかましていたんですが、シンプルなスタイルにしてからのほうがヒットするというか、じっくり読んでいただけるような気がしています。
⑥ ワーディングはココイチの原稿用紙で
ココイチというのは『カレーならココ一番や!』でおなじみ、CoCo壱番屋が販売している原稿用紙…なわけなくて。ここ一番の気合を入れるための大事な原稿用紙を使おう、ということです。
もちろんフレーズのタネはiPhoneのメモ帳なんですが、さすがにフィニッシュに持っていくときは手を動かします。伝えるべきこと、フレーズのタネなどをもう一度分解したり、あれこれ別の言い方で切ってみたり。
そういうトンカチ作業のようなことは自分にとって気分があがる原稿用紙の上で、同じく気分があがる筆記具でやったほうがいいです。
ちなみにわたしのココイチ原稿用紙は雑誌ブレーンの『C-1グランプリ』で入賞したときにいただいた「TCCオリジナル原稿用紙」です。
2回受賞しているのであと1冊新品がありますがこれが終わったら…と考えるとゾッとしますので、これからもC-1グランプリに応募し続けます。
⑦ ダメなら荷物をまとめて田舎に帰る
ま、これはそういう覚悟でやるということです。
⑧ 褒めてもらう
「ぼく、ホメられて伸びるタイプなんです」と最初に宣言しておくと比較的やりやすい空気感の中、仕事がすすみます。
以上が
わたしのクリエイティブにおけるお作法です。クリエイティブといってもみなさんが想像する広く世の中に流通するコミュニケーションとは異なり、あくまで限定的な領域で成立するものです。
ただし、影響範囲が狭いぶん、確実に機能するかどうかが見える世界でもあります。クリエイティブの効きのよしあしが手にとるようにわかる。そして点ではなく線、そして面で広がる特性をもっています。
主な成果物としてはインナーブランディング(パーパス、ミッション、ビジョン、バリュー、クレド)、スローガン、タグライン、PRフレーズ、ネーミング、各種ステートメントがそれにあたります。
ある程度の時間の経過に耐えうる強度が求められるクリエイティブ、ともいえるでしょう。
そして主にビジネスユースであることも特徴のひとつかもしれません。スタートアップやベンチャーとの相性がいいことも付け加えておきます。
以上、サルでもできるクリエイティブ必勝法(通称サルクリ)でした。
繰り返しますがこれがどこかの誰かの何かの(それがたとえ通勤時の暇つぶしだとしても)役に立つことを切に願います。
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