求人広告とアイデア#5
こんどこそ正真正銘の最終回です。
求人広告のアイデアとは表現アイデアだよ、そしてそれは媒体から求職者および求人企業に向けて届けるサービスなんですよ、それをおろそかにせず地道に継続することが媒体にとって何よりのブランディングなのになんでみんなやらない方向に舵を切るかなあ、という趣旨の話をしました。
それで終わりにしてもよかったんですが。
求人広告の表現アイデアがどんなものなのかに言及してからのエンドマークのほうが締まるな、と思ったわけです。
ではいってみましょう!
レアな仕事
あまりマーケットに出回っていない仕事の場合、その時点ですでに付加価値があります。その仕事に就けるチャンスはそれほどないからです。
そういうとついついアナウンサーとか音楽関係といった華やかな職業を想像してしまいがち。
でもそうじゃありません。
たとえば「たまり醤油の製造」とか。「農園運営責任者」とか。「椅子のリペアスタッフ」とかね。もうちょっと解像度を下げると「行政入札案件の営業」なんてのも。
このあたりの職種、ともすれば募集主から「なっかなっかこないべ。しんどい仕事だからさ」なんてネガティブに思われがち。
でも、めちゃくちゃ個性的な仕事じゃないですか。世の中でその仕事に携わる人って、そんなにいない。
ひとはみな「何かになりたい」という欲求を持っているものです。だからこういうレアな案件が出てきたらすかさずそのレア感を壊さないように表現してあげるべきなのであります。
やりかたは簡単。その仕事の特異点にスポットライトを当てればいいのです。「たまり醤油」とか「農園管理」みたいなのだとわかりやすいですよね。では「行政入札」みたいなちょっとぼんやりするものはどうするか。
行政案件を入札する仕事なわけですよね。行政案件ってどんなものがあるのか調べてみましょう。特に募集企業が扱う案件の特性を聞くといい。そうするとなにかしら傾向が見つかるはず。
わたしが経験した案件の事例でいうとコロナワクチン接種会場の運営とか、マイナンバーカードの登録事務局とか。あるいは国や地方自治体が関わるサービスのコールセンター運営みたいな。
これを「時事ネタ」という括りで横串を通すとどうなるか。
話題のニュースの裏側が見えてくるとか、社会貢献に直結するといった切り口でのアピールができますよね。
この「発見」が求人広告のアイデアなのです。
物事には裏と表がある
たとえばここに、工場作業員の募集があります。朝8時から夕方5時まで、休憩1時間の8時間勤務。固定給で月20万円から。ベルトコンベアの上手から流れてくる部品をひっくりかえす、という仕事。モクモクとこなすまさに作業オブ作業です。
この案件を正面から見るだけだと、たいした面白みもなさそうだし、退屈そうだし、誰だってできそうだし、すぐに飽きそうだし。なにより給料安いじゃんということになります。
ここで必要なのが、物事を裏側から見る、という行為。
さっきの「面白くなさそう」「退屈そう」「給与安い」といった感想って誰の感想でしょうか。先方さん?営業担当?あなた?それとも3人全員の共通認識?
だったとしてもn=3ですよね。母数が小さすぎませんか?
この事実を突きつけられた瞬間、世界はどーんと広がります。この仕事を「面白いとまでは思わなくともぜんぜん苦じゃない」人って確実にいます。そして「この仕事ならこの給料でも構わない」人もまた然り。
だとしたら、そういう人に向けて、そういう価値づけで見せてあげるべきではないか。
右から流れてきた部品をひっくり返すだけの仕事。一日中誰とも話さなくてもいい職場。おそらくいちばん簡単に月20万円もらえる方法。
こういった切り口で広告表現を、いくぶんユニークな語り口でつくっていけばハマるはず。
物事を裏側から見るというのも立派な求人広告のアイデアなのです。
BtoBの先にあるCをイメージする
BtoBのビジネスモデルとBtoCのビジネスモデルだと、どうしてもtoCのほうが人気があります。たとえば資生堂。たとえば味の素。たとえばサントリー。たとえば任天堂。たとえばトヨタ。たとえばフジテレビ。
ところが世の中の求人広告はBtoBの案件ばかりです。toCは人気だからすぐにポストが埋まるのね。媒体に掲載して一生懸命告知しないといけないのは圧倒的にtoBなんです。
toBがなぜ人気がないかというと、仕事のゴールがイメージしにくいからなんですね。わかりやすいところでいうとネジのルートセールス。何十種類ものネジの見本を持って大田区あたりの工場地帯を朝から駆けずり回る(ちょっと古いですかね)仕事です。
これ、取引先は工場のおやっさんね。営業である自分とおやっさんとの間で完結する仕事といえるでしょう。で、ここでおしまいにしちゃうからいつまで経っても採用難だったりする。
こういうときはtoBの先の先の先のCまで目を向けるべきです。
営業から買ったネジを使っておやっさんが作った部品はその後、三次請け、二次請け、元請けといった旅を経てメーカーの製造工場に納品されます。問題はそのメーカーが何を作っているか。
その最終製品について言及することは、つまりその先のtoCをイメージさせることになる。
この時点でその求人広告は単なるネジのルートセールスの世界を大きく飛び出すことになります。
これ逆もまた然りで。
人気のないtoCってありますよね。居酒屋チェーンの店舗スタッフとか。ガソリンスタンドのクルーとか。図書館の司書(これは人気あるか)とか。
こういうときは、その仕事の本質的な価値に目を向ける。居酒屋は酒を出すのではなく、仕事帰りのひとときをつくっている。ガソリンスタンドはガソリンを入れるのではなく(いや入れるんだけど)クルマとの関係性をよりよいものにする。そんなふうに拡大解釈することで、ふだんなかなか見えてこない仕事の魅力が浮かび上がるのです。
こうした視点をずらすこともまた、求人広告のアイデアです。
忘れてはいけないことは
広告とは“あるがままの自分”を語ることではありません。“ありうる自分”を表現することです。
これ、一般の広告においては常識の中の常識なのですが求人広告の世界ではどうも過度に「正確さ」「具体的」を礼賛するきらいがあって。もちろん募集データは正確でなければなりませんが、案件の魅力をアピールする広告の部分までその物差しを当てすぎだとわたしは思っているんです。
もちろん実態とイメージに大きな乖離がありすぎるのはNGですが、ズレがあったとしてもそれを埋めていけるのならば広告が描くイメージはその企業にとっての努力目標になる、と思います。
実際に、一本の求人広告がその会社で働く人たちのモラルアップにつながったことも、わたしは体験しています。それも一度や二度ではなく。
そういうアイデアこそ、求人広告は待っている。
そう信じて、このシリーズを終わりたいと思います。ご精読ありがとうございました。
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