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求人広告制作者がステップアップするときに気をつけるべきこと

求人広告にわが身を捧ぐ。

と、いう人はあんまりいないとおもいます。結果、捧げることになったとしても最初から青雲の志として前述のような言葉を掲げる人をわたしは見たことがありません。

残念なことです。

以前、求人広告のコピーライターを中途採用しようとしていたとき、来る応募来る応募ほとんどが女性だったことがありました。

そのとき、ぼくの上司は「応募してくるの女の子ばっかりですねー。求人広告のコピーライターっていうのは男子一生の業ではなくなってしまったんですかねー」と、いまなら確実にジェンダーエクイティの観点からバツを喰らいそうなマッチョな発言をなさっていました。

それはそれとして。

でもぼくだって何も求人広告で一生喰っていこう、とは思っていませんでしたよ。当然ながらステップアップを狙っていたんです。

何に?

そんなの決まってるじゃないですか、メジャーな商品広告ですよ。特に当時3Sと呼ばれていたビッグクライアントの仕事を夢見るわけです。ソニー、サントリー、西武ですね。

でも、そんな派手なジャンプは現実的ではなかったりします。その前にもう少し小さなステップアップを経験しておくべき。

たとえば、会社案内だったり。いまなら企業HPですかね。あるいは企業のステートメント。はたまたミッション・ビジョン・バリュー(以下MVV)。最近だとパーパスなんてのも。

このあたりが、実に、求人広告制作畑から飛び立とうとするクリエイター(いつもくどくて申し訳ないのですが、ぼく自身はクリエイターという言葉は嫌いです。だけど求人広告界隈ではあまりにもその意識が薄いのであえてクリエイターと呼びます)にとって適している領域だとおもいます。

ただ、ふだん求人広告をつくっているのと同じ感覚で、これらの仕事と向き合うとたいていコケます。ぼくもなんどもコケてきました。

なので、せめてこれからのみなさんがコケるにしても致命傷にならない程度で済むように、自分の経験から気づいた点をいくつかご紹介します。

まずそのまえになぜ

求人広告畑のクリエイターがMVVやらパーパスやらステートメントといった領域に向いているのか、整理します。

ひとつには、言葉を届ける相手が不特定多数ではないこと。まったく不特定多数ではないこともないのですが、比較的、絞られることが多いです。っていうかよほどの大手案件じゃなければステークホルダーに限られる。

ステークホルダーっていうのは、ひらたくいえば関係者ですね。その会社と取引しようと思う人はすでにその範囲に収まります。

なぜ不特定多数ではないか。

ほとんどの案件依頼がBtoCではなくBtoB企業からのものだからです。つまり外に向けて広く発信する必要がない。ないわけではないけど、したところであまり経済合理性は高くない。

なんだよBtoC企業にはそういうニーズがないのか?というとそんなことはないんですが、もうすでにだいたいのところは電通か博報堂、あるいはその卒業生が立ち上げたクリエイティブブティックが手をつけています。

もちろんそういうところに「俺も!」と手をあげてもいいんですけど、まあ、あんまり勝ち目ないよね。実績もないうちは。

その昔はそれでもぶつかっていくのが男だろ、よーしヤマちゃんやろう!若さだよヤマちゃん!といったおやまああらさてサントリーな感覚が一般的でしたが、最近はあんまり流行らないし、派手にカロリー消費して挫折するのもいまひとつ。

求人広告のコピーというのは限りなくたったひとりに向けて作られるコミュニケーションです。

もちろん、メジャーな広告も同じようなことは言われていますが、年齢(ほんとはだめだけど)性別(ほんとはだめだけど)はもちろん学歴(ほんとはあんまりよくないけど)や性格(ほんとはだめだけど)、保有資格やこれまでの経験(これらはOK)までしっかりと絞り込んで、となるとそれは求人広告に軍配があがります。

そういう意味で、訴求対象がはっきりと絞られているほうがとっかかりやすい、というアドバンテージがあるんです。

そしてもうひとつ、ある程度持久力のある表現が求められること。機能する言葉であること。

メジャーな広告の中には世の中がひっくりかえるようなインパクトのある表現、記号のようなフレーズがもてはやされることがあります。

ちょっと古いけど、佐藤雅彦さんがつくったJR東日本の広告。キョンキョンを起用して、キャッチコピーは「ジャンジャカジャーン」です。

いや、ジャンジャカジャーンが持久力がないとはいいません。ただ、企業理念としてジャンジャカジャーンで人心を掌握できるかというと疑問を抱かざるを得ません。

おそらく正しく求人広告制作の力を磨いてきたみなさんは、このふたつの話に納得あるいは安堵することではないかと思います。そうだ、それなら俺にもできるぜ、私にもできるわ。だっていつもやってることだもん。

そうなんです。企業周りのワーディングは求人広告制作の延長線上でキラリと輝く北極星でもあるのです。

前置きが長くなりましたが

そんなに向いているならそのまま、ふだんの力を発揮すればいいんじゃないの?と思われるかもしれません。

しかしチッチッチッ。話はそうカンタンではないのです。

そういえば最近このチッチッチ、をやる人を見なくなりました。昔はあっちこっちでチッチチッチチッチチッチやってましたけどね、みなさん。

いかん、また脱線しかけた。

確かに求人広告制作で培った能力は企業周りのワーディングに適しています。ただし、やり方やスタンスはそれなりに変えないといけません。

まずいちばんだいじなのは

時間をかけろ

です。ふだん求人広告を作り慣れていると、どうしても手離れの良さに至上の価値を感じがちです。思考にしても、アウトプットにしても、ある程度のところで「こんなところかな」とストップをかけてしまいます。

経済合理性の観点からは求人広告はそれでいいとおもいます。構想6年、制作15年、遂に世に問う大スペクタクルロマン、みたいな求人広告はいらんわけです。

だけど企業のステートメントやMVVの場合はスケールというか器を大柄にもって取り組むべきです。もちろんかかるコストもそうなんですが、それ以上に求人広告よりは思考の総量も、言葉の出力も上げないといけません。

求人広告クラスの思考、表現へのトライでは、弱いのです。求人広告が持久力だとしたら、もう一個上、堅牢性のようなものが求められる。それがステートメントやMVVなのです。

これでいい、で終わらない。
これがいい。と読点で終わるまで、やる。
だからあなたの表現は強くなるんです。
それを企業は求めてきます。

そしてもうひとつ

手間をかけろ

です。なんだか書いてて「時間をかけろ」の中に含まれるんじゃないかとおもいはじめている自分がいるんですけど、まあ無視しましょう。

時間とセットでかけるべきは、手間です。ひらたくいうとリサーチですね。その企業の組織図を手に入れること。人間関係を把握すること。声の大きい小さい、勢いのあるなし。社風、指揮命令のトンマナ、ボスは誰?本当のボスは?

社員にヒアリングすることはもちろん、できればその企業の顧客の声も聞けるとありがたいですね。そういう意味では社員インタビューやサービスの導入事例記事をつくる、という仕事から入っていけるとベストかもしれません。

それだけステートメントやMVVは企業の根幹をあらわすものであり、深く掘り下げる必要があります。その企業の理念、文化、価値観をまるで創業者のように語れないといけません。その上で現状何が欠けていて、どうしていきたいのか。

そう、手間をかけて自分自身が経営者のイタコと化すべきなのです。

うっわ、もう3,000字超えた。こっから急ぎます。

わかりやすくジャンプせよ

最後のはこれ。さっきジャンジャカジャーンではMVVはつとまらない、と言いました。しかし一旦否定します。

顧客満足度向上を追求し、お客様とともに成長します。

と、いう経営理念よりは、ジャンジャカジャーンのほうが機能するとおもいます。ただしそれ単体では無理なので、リード文なり補足説明が必要ですけどね。そこで上手くブリッジできれば圧倒的にジャンジャカの勝ち。

なぜなら「顧客満足度を~」は一般的すぎて独自性も特徴もなく、魅力に欠けるからです。きっと社員はこれを聞いたり読んだりしても「ふーん」とスルーし、一ヶ月後には誰も覚えていないでしょう。

それに対して「ジャンジャカ」はよく意味がわかんないけど面白みは十分あります。「うちの理念知ってる?ジャンジャカジャーンなんだぜ、バカだろう」と大学時代の同期と三田の慶應仲通りにある駒八別館で盛り上がること間違いなしです。

でもそのとき彼の頭の中に、彼の会社の経営理念はしっかり刻み込まれてます。あとは意味や意図を経験を通して紐付けられれば機能としては完璧といえるでしょう。単なる悪ふざけと思われたジャンジャカジャーンが「そういうことだったのか…」と完全に自分ごとと化すわけ。

少なくとも「顧客満足度…」が到達できない世界に届く。その可能性があるのです。だからこそ、わかりやすさイコール一般的な言葉ではなく、きちんと表現面でジャンプさせる必要があるのです。


最後のジャンプがいちばん大事なポイントです。ある意味、時間をかけろというのはこのために言っているようなもの。

とかく求人広告の世界では平易な表現が好まれます。捻ったというかインパクトを狙った表現は言葉遊びとして斬り捨てられがち。

かくいうぼくも部下のコピーチェックで「なんだこりゃ、こんなもんコピーになっとらん!」とペケを入れたものです。

ただ、コピーになるか、ならないかは、その言葉の置き場所によって規定されるもの。その場のお作法にあわせることもプロのコピーライターに必要なスキルです。

だから違う畑を耕しに行くことがステップアップと言えるんですよね。

また来週!

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