【詩】ふたたびの初恋
ふたたびの初恋
たとえば それは
摘み取るまえの夜明けの菫
たとえば それは
告げずにおわった初恋
たとえば それは
忘れることを知った花橘の香
たとえば それは
僕らの夏空に
気高く聳えていた共産党宣言
たとえば それは
その崇拝者であった君の
バラ色の歯ぐき
朝日が君を射止め
君がぼくを射抜いた自治会館で
確かにぼくは清らかな肉欲を
君に感じていた
そして いま
夢を捨てたぼくらはもう
定時には起きない
君は君として
可憐な寝息をたて
すっかり消えてしまった肉欲の名残りが
君の菫色の臍にかすかにとどまるだけだ
そしてまた ぼくはぼくとして
バッハのチェロのプレリュードのように
過ぎた時間をおとなしくむかえいれようとしている
シンクに放置された食べ残しのメロンが
虚無を奏で
窓辺の秋の陽が
ぼくの孤独を見つめる
ぼくは
焼きすぎたトーストに塗るための
バターを冷蔵庫から出し
遅い朝食という 君との
ふたたびの初恋の準備に
とりかかる
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