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「上達」って何?

「上達の法則」 

効率の良い努力を科学する      岡本 浩一 著 PHP新書

 著者は社会心理学者で、「上達の法則」を、一人でも多くの人に知ってもらい、「上達の喜び」が人生にどれだけの影響があるかということを熱意をもって説明している。
 語学でもスポーツでも、新しい知識や技術を身につけるということは、一体どういうプロセスを踏むのか。
 著者によれば、「本書で上達と考えるのは」ふつうの生活をしている私たちが、ある技能に「そう無理のない練習量で、まあまあ一人前のレベルに達しようとする過程」ということである。
 初級者、中級者、上級者にわけ、スポーツ、茶道、将棋、車の運転・・・さまざまな事例を使ってわかりやすく解説している。
「自分の新しい可能性を発見するのは大きな喜びだと思う。」
まずは「上達しようとしている対象に慣れ親しむこと」であり、
「急に心が躍動し、ワクワクするような瞬間がきわめて大切」
上級者に共通の特徴
「練習方法、取り組み方が理(上達の法則)にかなっている」
「スキーマ(知覚、認知、思考が行われる枠組み):上級者はスキーマがよりよく形成されている」
「コード化(知識が言語に準じた形式に思考の中で表されること)の能力が高い」「記憶検索(思い出す)正確さと速さは事象がうまくコード化され、整然と配列されているほど」高い。
「上級者の方が疲労しにくい」(鍛錬が行き届いているから、疲労までのキャパシティーが大きい)ため。
自我関与(課題に本気で取り組む度合い)が高く、価値観を持っている
ひとつのことで上級まで達成できた人は、仕事でも、なにか新しいことを覚える必要が本当に生じたときは、自分がきちんと自我関与して取り組めば、高い次元に昇り、洞察のある見方ができるという自己信頼を持つことができる。
上達の方法論
得意なものへのこだわりはアイデンティティの強化、強い自我関与を生む。(自我関与の深さが、ワーキングメモリから長期記憶への形成の鍵を握っている。)
 この段階まで順調に技能が習得されてきた人の場合、次第に、その技能に対する愛着が深まり、情熱が強くなってくる結果、役に立つか立たぬかというような打算なしに、覚えたいという気持ちが発生してくる
その人の生き方の一部になっていく。

 最後に著者は言う。
「本書執筆の動機のひとつに、現今の学校教育への危惧があった。」
「学習の場は知識習得の場であると同時に、自分自身の学習能力を発見し、それをとおして、ささやかながらも自尊心や、人生への肯定的な構えを獲得する場であるはずである。」
「自分なりに努力し、工夫し、友達などの応援を受けながら、やっとできたという喜びを経験させるためである。
その喜びを経験したときに、子ども達は、それぞれ、なにかを摑むのである。上達の法則がその延長にある。」
上達はたんに時間や努力の量だけでは達成できない。そこに、努力すること、ひいては生きることのロマンが存在するのである。
あのとき、あの人、あの言葉に接したからこそ、「見え方」が大転換したという記憶が、自分の生涯におけるささやかなひとつの奇跡として記憶されることになる。そういう奇跡の訪れは、生きるロマンの最高のものである。
上達への思いは、人との奇縁をも豊かに人生にもたらしてくれる。」

「上達すること」を考えていくうちに、何かしみじみと人生を振り返ってしまった。わかりやすくて、著者の情熱が伝わる本だった。
 まだお読みでない方、何か技能を身につけたい方…多くの方にお勧めしたい本です。

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