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夜が生まれる遺跡

遺跡は何もないところがいい。
何もないことを象徴しているような、遺跡で感じる風の軽さが好きだ。

そんな軽い遺跡とは反対に、何か色々ある遺跡も全国にはたくさんあって、そういう遺跡も大好きだ。何か色々ある遺跡の代表的なところには、大規模なムラが復元されている青森の三内丸山遺跡なんかがある。この前行ってきた山梨の梅之木遺跡も、何か色々あるタイプの遺跡だった。

梅之木遺跡は約5000年前、縄文時代中期の環状集落跡で、住居跡が150箇所ほど見つかっている。場所は山の斜面にあって、斜面の反対側にある甲斐駒ヶ岳など南アルプスの北部が一望できる。現在もいくつかの竪穴住居の復元が進んでいて、その復元に使う道具には縄文時代にあったものを使っているそうだ。地面に穴を掘るときは鹿のツノを使ったり、木を切るときは切るための石斧を作るところから始めるという。

私が立ち寄ったときは現代の梅之木の縄文人がいて、完成した住居内に滞留する炉の煙を逃がしつつ熱を逃さないようにと、天窓の角度を調節しているところだった。

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天窓の調整に成功した住居内。
仄明るくて暖かく、燃える木の何となく懐かしい匂いがしていた。


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ひとつひとつの作業を試行錯誤しながら作られた住居。完成までに1年半かかったという。当時の本物の縄文人たちが大勢集まっていたら、もっと短期間で作れるらしい。


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屋根に土をかぶせている。よく見るような綺麗に復元された住居とは違って、当時の住居はこんな感じだったのかもしれない。


夜の帳が降りるという言葉がある。
帳とはパーテーションのように室内に垂れ下げる布のことなので、この言葉にある夜は上から降りてくるイメージだろう。私も夜というものには、空の高い場所から星などと一緒に降りてくるようなイメージを抱いている(あくまでもイメージだ)。けれど梅之木遺跡で見た夜は、空から降りてこなかった。

遺跡の向かい側に見えている南アルプスの奥に太陽が沈み始めると、山々は空よりもはるかに早い速度で翳っていく。切り立った山の稜線の凸凹は激しさを増し、黒々としたその姿は大きな壁、というより夜そのもののように見えた。

そんな景色を見ていたら、この土地の夜は大地から生まれていたのかもしれないと、そんな物語があったのかもしれないなと思った。

もともと私は土器の文様から読む神話とか、そういうものにはあんまり興味がない。けれどこの日見た山のすがたは、もしかしたら梅之木縄文人たちはそういう神話を持っていたかもしれないと思わせるようなものだった。

梅之木遺跡はまだまだ建築途中だけど、今の時期に行ってもとても美しくてとても楽しい縄文体験スポットだ。同行者で縄文にまったく興味のなかった人も、ここならデートにいいかもと言っていたので、私のひいき目だけではないだろう。都会の夜景を見るのもいいけど、たまには遺跡まで夜を見に行くのもいいかもしれない。

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梅之木遺跡から望む南アルプス


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