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泣く子も黙る……? 歌川国芳の浮世絵 @東京国立博物館

東京国立博物館(トーハク)で展示されている浮世絵コレクションが、久しぶりにわたしの好みだったので、何度かに分けてじっくりと見てきました。残念ながら、noteするのが遅すぎて、今週に展示替えしてしまいました……。

■人物を凛々しく描写する歌川国芳

今季は歌川国芳(くによし・1797~1861)さんの浮世絵が、ズラリ! と並んでいます。浮世絵師のペンネームって、同じような雰囲気の人が多くてなかなか覚えられませんが、描かれた絵の雰囲気は覚えられます。そんななかでも、歌川国芳さんの雰囲気は独特で大好きです。

《通俗水滸傳豪傑百八人之一個・浪子燕青(ろうしえんせい)》

「通俗水滸伝豪傑百八人之一個」は、梁山泊に立て籠もり政権に反抗する中国の物語『水滸伝』の豪傑を描いたシリーズ。カ動感あふれる描写が、勇み肌と粋を好んだ江戸庶民に支持され、国芳を人気絵師に押し上げました。白い肌に牡丹の物を入れた浪子燕青の活躍を描いています。

解説パネルより
《通俗水滸傳豪傑百八人之一個・浪子燕青》

作品をパッと見た時に、八犬伝のあのシーンかな(芳流閣の決闘)? って思ったのですが、水滸伝でした。水滸伝って、吉川英治さんのを何度か一巻を読みはじめては数十頁で挫折する…というのを繰り返していましたが、これだけ日本人を魅了してきた作品なので、いつか読破したいと思います。

《通俗水滸傳豪傑百八人之一個・浪子燕青》

主人公の浪子燕青(ろうしえんせい)の服が派手だなぁと思っていたら、これは服のガラではなく刺青(いれずみ)のようです。時々、近所の銭湯へ行くと、こうしてきれいに背中の全面に刺青をしている人がいますが……粋だなぁと思いつつ、自分では絶対に入れないだろうなぁと、ソッと背中を眺めます。

それを見た息子が「ねぇねぇ…あの人、刺青しているけどさぁ…刺青している人は銭湯に入っちゃいけないんじゃないの?」と、聞こえちゃうんじゃないかってくらいの声で尋ねてきたことがあります。「し〜っ……たいていの銭湯は、刺青はダメじゃないんだよ。銭湯でダメなのは萩の湯くらいなもんだよ」と教えると、「へぇ〜そうなんだぁ」と。今まで銭湯へ行くたびに刺青している人に出会うので、見慣れていると思ってたんですけどね……。多様性を許容できるようにする意味でも、(刺青禁止の)萩の湯以外の銭湯へ連れていくのも重要だなと、改めて思いました。

《通俗水滸傅豪傑百八人之一個・短命治郎阮小五》

歌川豊国の門人でしたが、なかなか画名が上がらず、文政(1818~30)末の「通俗水滸伝」シリーズで武者絵の国芳として人気絵師の仲間入りを果たしました。西洋画風を取り入れた表現やユーモアあふれる戯画など新奇な作品でも知られます。

解説パネルより
《通俗水滸傅豪傑百八人之一個・短命治郎阮小五》

「衛州石喝村の産にして身のうちにヒョウの彫り物を性勇猛にして、よく水中に永く身を潜ませる術を得たり。晁蓋(ちょうがい)とともに、梁山泊へ登り、林冲や王倫と害を○○〇〇杜遷や宋万を支える」

《東都富士見三十六景・新大橋 橋下きょうかの眺望》

大きな橋桁の下に浮かぶ舟と、その舟荷の上にすっくと立つ人のシルエットが凛々しい作品。歌川国芳さんが描く人物って、立ち姿がかっこいい! 

↑ スマホで見るくらいならOKですが、拡大するとブレているのが一目瞭然です。トーハクの浮世絵の部屋は暗いので、わたしのPEN Fだと難しい……。

《東都名所・てつぽふづ》

隅田川河口西岸の鉄砲洲で、岩場に腰掛け、釣竿を垂らす男性たち。釣れた魚を手に取る男性の先は画面を突き抜けています左からは猪牙舟が一艘、すーっと流れてきます。水平線には点々と帆船が浮かび、画面の枠に収まらない広大な海景が表されています。

写実的……というのとは少し異なるような気がしますが、とにかく今まで動いていた情景をピタッと止めて描いたように思えます。特に手前の釣人は、単に釣りをしているのが分かるだけでなく、この場所で釣りをしているのに慣れている……そんな雰囲気まで感じられます。さらに舟の上の傘……なんで傘を持つ人の表情が見えないんでしょうね?

これもブレているので、ColBaseからダウンロードした画像データを載せておきます。展示室で見る色と違うんだよなぁ……。

《東都富士見三十六景・佃沖晴天の不二》

これはどういうシーンなんですかね。舟の先に座るのはお武家さんのよう。でも漕いでいる人もまた町人などではなさそうな雰囲気です。

《東都御厩川岸之図》

歌川国芳さんは、人物を凛々しく描くのが得意だったようですが、こちらの《東都御厩川岸之図》は、少し様子が異なります。場所は現在の蔵前あたり……雨がざんざか降っております。長い柄の先端に採り物みたいな輪っかが着いた棒を肩に担いで、少し背を曲げて歩く人がいます。その前方からは3人の男が身を寄せ合って1つの傘に入って歩いてきます……なんでしょうねぇ……そんなに雨に濡れるのが嫌なんでしょうか……どうせ濡れるだろうに。粋で知られる江戸っ子ですけど、雨は苦手だったのかもしれません。

《二十四孝童子鑑・大舜》

家族に命を狙われながらも、恨むことなく黙々と農作業に勤しむ大舜。この健気な少年を助けるべく、象が土を耕し雀が草を啄んでいます。本図を強く印象づける象は、ニューホフ著「東西海陸紀行』の挿図から転用したもの。なお、徳を積んだ大舜は後に帝の位を与えられます。

解説パネルより

この象、おもしろいなと思ったのですが、ニューホフさんという方が著した挿絵をもとに描いているそうです。ちょっと悪そうな目つきが特徴です。

象って、江戸時代までの日本に、どれだけ輸入されたことがあるのか分かりませんが、ほとんどの日本人絵師が、先人の絵を真似て描いていたはず。それでも伊藤若冲をはじめ、様々な人が描いているあたり……大きな動物へのあこがれがあったのかもしれません。

ここに描かれた象のことなのかは不明ですが、面白い記事を見つけました。

■鳥文斎栄之の美人画

大判錦絵を横に5枚繋げたワイドな画面いっぱいに、屋形船や屋根船、猪船で船遊びをする人々が賑やかに描かれます。画面右手には大橋の橋脚を配して遠近感を作り出し、遠景には隅田川東岸の幕府の船を収納する御船蔵の並びと竪川を丁寧に描き込んでいます。

解説パネルより

■両国の花火

先日、隅田川の花火を見に行ってきましたが、その時に「そういえば、トーハクにも花火の浮世絵が展示されていたなぁ」と思い出したのが、歌川広重さんの《江戸名所之内・両國花火》です。

歌川広重(1797~1858)筆|江戸時代・19世紀

隅田川西岸から両国方面を眺めた図。空には巨大な花火が打ち上がり、左下の柳橋では人々が足を止めてこれを見上げています。隅田川に架かる両国橋、川面に浮かぶ屋形船や屋根船はいずれもシルエットで表されていますが、大勢が夏夜の納涼を楽しんでいる様子が伝わります。

花火を見ていると、反射的に「たぁ〜まやぁ〜」とか「かぁ〜ぎやぁ〜」とか叫んでしまいますが、あれって関東……東京だけでしょうか? というのも「玉屋」も「鍵屋」も、江戸を代表する花火師だったからです。それとも両店の花火が全国に販売されていたのでしょうかね……わかりませんが……。

先日のオリンピックの柔道を見ていて、花火のことを思い出しました。というのも、柔道の公式審判に、一人だけ日本人がいたからです。天野安喜子さん……先述した「鍵屋」の十五代宗家……当主?です。幼い頃から大学の頃まで柔道をされていましたが、その後審判になったそうです。あの誤審疑惑の続いたパリ五輪の柔道。くだんのスペイン人選手だけでなく、「待て!」が聞こえなかったという選手は、多かったのかもしれません。例えば、阿部一二三選手も、混合団体の決勝戦で全く聞こえていない様子でしたし、たしかに、テレビの音量を上げて、よぉく聞かないと「待て」はもちろん「はじめ」も聞こえてきませんでした。審判の声をマイクが拾っていないだけかとも思いましたが……天野安喜子さんがジャッジする試合を見ていると、「はじめ」も「待て」もはっきりと聞こえてきたところからすると……単にほかの審判の声が小さすぎるんじゃないかと思った次第です。

■湯上がり美人と猫を描いた人気作

ちゃんと記録していたわけではありませんが、ここ数年で何度も見たことがある……気がしている、勝川春英の《湯上り美人と猫図》。

スラリとした白い肌の女性の浴衣がはだけていて……でも、エロいというよりも、艶っぽいというか、きれいだな……というオーラが漂っているような作品です。ちょっと竹久夢二の作品を思わせる気がしますが……どうでしょう。

勝川春英(1762~1819)筆|江戸時代・18世紀・紙本着色

現代でもWebサイトのページビューを増やしたいなら「美人」か「かわいい動物」(それに食べ物)を載せろと言われますが、これは江戸時代の浮世絵から継承された日本の伝統なのかもしれません。

意外と足先が写実的に描かれていますね……。

画像はColBaseより

ということで以上になります。今週からは葛飾北斎の作品が多いです。また、トーハク本館2階の「浮世絵の部屋」ではなく、同館1階の「近代美術の部屋」には、明治の浮世絵師・川瀬巴水さんの作品が並んでいるようです。

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