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【美術館ニュース】北斎って実はアウトドア派だった? 『北斎 大いなる山岳』展 @すみだ北斎美術館

東京都墨田区にある「すみだ北斎美術館」にて、企画展『北斎 大いなる山岳』が開催されています。

北斎は、富士山をはじめ江戸時代にできた人工の低山・天保山に至るまで、さまざまな山を描きました。企画展では、北斎の描いた山を通して、山の信仰、生業、伝説や怪談を紹介し、日本人と山の関わりを見て行くとともに、北斎による多彩な山の表現とその魅力に迫るそうです。

前期と後期を合わせて、全国30座が見られます。各作品に設置された解説パネルには、作品解説のほかに、山の説明や「登山好き学芸員の現地レポート」が記されているそう。登山が好き! 特に低山が好き! という人に、ぴったりな企画展ですね。

※同企画展の展示物は、すべて「すみだ北斎美術館」に所蔵されているものです。ただし「すみだ北斎美術館」の提供による画像は少ないため、当noteではメトロポリタン美術館など、展示されるものと同じ作品を、ほか機関から引用しているものもあります。

■登山口(プロローグ)「日本人と山」

登山口と称する企画展のプロローグでは、日本人と山とのつながりを、北斎の絵を通じて辿っていきます。

明治の開国で始まった、近代登山が始まるずっと前から、日本人は山に登ってきました。古くは縄文時代にも好奇心による登山の事例が確認されているというから驚きです。また江戸時代には、富士講や大山講、立山講など、山をご神体として崇拝する山岳信仰のための、宗教登山が盛んだったんです。

上は富士講を描いた『富岳百景』の1ページ。笠(帽子)に「不二」と記されていますね。今も夏になると富士登山が人気で、特に富士吉田口の五合目から上は、大行列になりますよね。富士講が、頂上まで登ったものなのかどうかは分かりませんが、現在と同じように大人気だったことは間違いないようです。

そういえば、以前、東京都内の富士塚のいくつかを巡ったことがありました。近所の神社の境内にも富士塚があり、毎年6月30日と7月1日……もうすぐですね……は「お山開き」です。今年は金曜と土曜なので、行こうかな…。さらに本物の富士山も、そろそろ登山シーズンが到来するということです。

■一合目「富士山から低山まで北斎さまざまな山を描く」

企画展の第一章というか一合目では、「冨嶽三十六景」シリーズをはじめ、日本各地の山を描いた作品をエリアごとに紹介し、北斎一門が工夫をこらした多彩な山岳表現が堪能できるということです。

上は足利の行道山とのこと。聞いたことがありませんが、江戸時代は有名な名所だったんでしょうね。崖っぷちにお堂……というのは、まぁ各地にありますが、あんな橋が今も架かっているんでしょうか? そのあたりは、「登山好き学芸員の現地レポート」に期待したいところです。

《『北斎漫画』七編 筑波の積雪》画像:国立国会図書館

筑波山! 東京以東に住んでいると、富士山よりも筑波山の方が馴染み深くて、校歌にうたわれている学校も多いはず。ええ……わたしが通った千葉県内の小学校も、そうでした。小学校の遠足から数えて、これまで何度登ったことか……最近はケーブルカーですけどね。

それにしても北斎さん。この筑波山、どっから見れば、こんな風に見られるの? という描き方。ヘリコプターやドローンじゃなきゃ、こんな見え方はしませんよ。北斎に限らず、昔の人は、見たことがないはずの視点から、対象を描くのが得意ですよね(源氏絵とかもそうですけど)。

《諸國名橋奇覧 摂洲阿治川口天保山》画像:The Metropolitan Museum of Art

絶対にありえない視点から描いた鳥瞰図。天保山を描いた上も、その一つです。

関東育ちのわたしは聞いたことのない山名です。こちらは、江戸時代の1831年から2年をかけて築かれた人口の山……築山(つきやま)なのだそうです。現在の標高は4.53mですが、かつては約20mの高さがあったそう。その後「山には松や桜の木が植えられて茶店なども置かれ、大坂でも有数の行楽地となった」そうですが、1854年には、大阪湾の海防のために砲台が設置され、明治以降に削られて徐々に標高が下がり、高度経済成長後には地下水のくみ上げによる地盤沈下で、4.53mになってしまったそうです。

■二合目「山のくらし」

企画展の二合目では、「山のくらし」をテーマに展開されます。

北斎は山の姿だけではなく、木こり、猟師、金山の採掘など山中で働き暮らす人々や、山麓での営みも活写しています。高い木の上での伐採や断崖絶壁での岩茸採りなど、山ならではの危険と隣り合わせの仕事は、北斎の創造力、創作意欲を刺激したことでしょう。本章では、北斎とその一門による山のくらしを描いた作品の数々を展観し、風景だけではなく人々にも注がれた北斎のまなざしをたどります。

ということです。

《諸國名橋奇覧 飛越の堺つりはし》画像:The Metropolitan Museum of Art
《百人一首 うはかゑとき 源宗于朝臣》画像:The Metropolitan Museum of Art

■三合目「山と伝説 山怪」

「山は神聖な場であり、異界あるいは異界への入口であるため、不思議な存在がいると信じられてきました。それゆえに、山男や山姥、天狗、鬼をはじめとした山の怪奇な存在、さまざまな山にまつわる伝説や怪談が伝えられています。本章では、北斎と一門の作品を通して、山の怪や山に伝わる伝説、またそれらをモチーフとした物語を紹介します。」

とのことです。

《『絵本和漢誉』 足柄山 怪童丸》画像:国立国会図書館

上は、有名な金太郎ですね。

《『絵本和漢誉』 仁田の四郎忠常 富士の巌窟に入る》画像:国立国会図書館

仁田の四郎忠常さんは、曽我兄弟の従兄弟にあたると『曽我物語』には記されている……いとこかどうかは不明ですが……鎌倉時代前後の人ということ。

今回の出展作品は全て刷り物なので、「すみだ北斎美術館」以外に、例えばメトロポリタン美術館や国立国会図書館、富士美術館などにも所蔵されています。ただし、その時代に刷られたモノがズラッと並べられているものを、やはり見たいものです。

企画展+常設展の観覧料は、一般が1,000円(高校や中学、高齢者等は少し安いです。小学生以下は無料)。会期は8月27日(日)まで。開館時間は9:30~17:30(入館は17:00まで)。毎週月曜日は休館日。

↑このパンフレットのデザインがかっこいいですね。













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