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埴輪や源氏物語とトレンドに乗った国学院大学博物館の展示に注目!……すべき“かも”しれません

今週末から國學院大学の博物館で、『榧園ひえん好古図譜ー北武蔵の名家・根岸家の古物(たから)』という企画展が開催されるそうです。以前から、母校の博物館へは行ってみたいと思っていたのですが……「渋谷かぁ……しかも駅から歩くしなぁ」と、怠惰な気持ちが勝って、行きたいと思ってから何年も経っているのに未だに行ったことがありません。渋谷って苦手なんですよね……おやじ狩りとか怖いし……。

それにしても、この企画展の名前…『榧園ひえん好古図譜ー北武蔵の名家・根岸家の古物(たから)』って、かなりマニアックですよね。パンフレットのビジュアルがなければ、なんのどんな展示会なのかはさっぱり想像できません。

でも、パンフレットの左上に載っている埴輪は!  《短甲の武人》じゃないッスか! なぜ知っているかといえば、これが東京国立博物館(トーハク)の所蔵品だからです。

ということで少し調べてみると…といういか同企画展の説明ページやWikipediaなどを読んでみると…どうやら「榧園ひえん」というのは、北武蔵……現在の埼玉北部の熊谷市の名家、根岸家の友山さんと武香さん親子のことのようです(どちらかの雅号かもしれません)。江戸幕末に生まれた同親子は、考古や郷土史に由来する、ものすごい好古家(蒐集家)……コレクターでした。それら集めたコレクションを図譜……図鑑にしたものを「榧園ひえん好古図譜」と称しているようです。

そして、その図譜に記されているのが、トーハク所蔵の《短甲の武人》であり、同じくトーハク所蔵の《馬形埴輪》も記されているはずです……図譜では《飾馬》。ちなみにいずれも重要文化財。《馬形埴輪》は、過去に切手のデザインにも採用されています。

企画展のタイトル……『あの《短甲の武人》も《馬形埴輪》も!……』みたいなのだったら、わかりやすいのにな……

重要文化財《短甲の武人》J-37057 埼玉県熊谷市上中条出土
重要文化財《馬形埴輪》J-838 埼玉県熊谷市上中条出土
画像はTNMより

お父さんの根岸友山さんは、明治10(1877)年に、埼玉県比企郡吉見町の黒岩横穴群を発掘。その近くにある吉見百穴については、息子の根岸武香が発掘の(おそらく主に金銭的な)支援をしています。

そんな好古マニアな根岸親子のもとには、現トーハクの開設に深く関わった蜷川式胤や、北海道を歩いて周りアイヌを記録し続けた松浦武四郎などの好古家や、シーボルトやモースをはじめとした多くの学者が訪れたと言います。

熊谷市立江南文化財センターの資料『明治の好古家 根岸武香コレクション資料 ―2』によれば、前述の馬や武人の埴輪が発掘されたのは、明治9年(1876年)12月のことでした。地元の中村孫兵衛さんが、根岸武香さんに「江森定之丞の土地で、ざくざく発掘されていますよ(想像)」と連絡。「おぉ、ありがとうございます。それではすぐにうかがいます(想像)」と武香さんが駆けつけたのが、翌12月のことだったといいます。

武香さんが発掘現場近くの、発掘された埴輪が並べられたところへ行くと……ずらぁ〜っと「(3月節句の)弥生のひな(雛)を並べたよう」だったと言います(ただし、武人埴輪については、それ以前の9月に発掘されていたもよう)。

なお、ここで発掘された出土品は、根岸武香さんが地主の江森さんから許可を得て、コレクションに加えたり、武香さんに急報した中村孫兵衛さんが自宅に持ち帰ります。その後、武香さんが埼玉県内の出土品を帝室博物館に委託する事業を行なったため、少なくない数の出土品が、トーハクに収蔵されているはずです。

また武香さんは、出土品の一部を、神田孝平という、探偵小説『和蘭美政録』の訳者で貴族院議員で好古家仲間に譲っています。この神田孝平さんが、同じく貴族院議員で大阪毎日新聞の社長の本山彦一さんへ譲り、その後に関西大学博物館の収蔵となったものもあります。

ただし、すべてが寄贈寄託されたわけではなく、4点の人物埴輪などが根岸家に残っているそうです。今回、榧園ひえん好古図譜を調査した、國學院大學の内川隆志さんなどの調査チームは、「(4点の人物埴輪を)フォトグラメトリによる3Dモデル化作業を実施」したと研究実績の概要に記しています。「これによってWEBサイト上でも当該資料の詳細な情報を公開できることとなる」と記しているので、近く公開されるのか……または既に公開されているのかもしれません。

それにしても今年の秋には、トーハクで特別展『埴輪』が開催されます。埴輪がメインの特別展は51年ぶりということで、おそらく気合も入りまくっていることでしょう。昨年、特別展『埴輪』開催からの50周年ということで、トーハクで特集を組んでいたのは、その準備というか、伏線だったのかもなぁと。

さらに今年の大河ドラマは『源氏物語』の作者、紫式部を主人公にしています。今はどうなのか知りませんが、『源氏物語』の研究では、國學院大學はかなり有名……文学部の先輩からそう聞いただけで、根拠は全くありません(わたしは法学部でした)。

いやぁ……同大には、トレンドに乗るのには十分な研究分野があると思われるのですが……なにせトレンドに乗るのが苦手な人たちが集まっているところなので、いまいち知名度が上がらないw ただ、今年の博物館の特別展・企画展のラインナップをみると「けっこう面白いんじゃない?」と期待できるものが多いです。

今週からの『榧園ひえん好古図譜ー北武蔵の名家・根岸家の古物(たから)
4月からは『春の特別列品「恋とさすらいの系譜―源氏物語と平安文学」
9月からは『特別展「蒙古襲来750年 Part 1」

常設展でも土器や土偶などの考古資料が多く展示されていると聞くし、しかも無料ですからね。ぜひ今年は行ってみたいと思います!!……でも駅から遠いんだよなぁ……バイクシェアのポートを設置してもらえばいいのに……。

<参考サイト>

特別展『根岸友山・根岸武香の軌跡』資料
・熊谷デジタルミュージアム「明治の好古家 根岸武香コレクション資料(PDF)」など
・Wikipedia「根岸友山」「根岸武香」「吉見百穴」など
・KAKEN「人文資料形成史における博物館学的研究 - 根岸有山・武香旧蔵資料の研究と公開
・埴輪とは全く関係ありませんが……『榧園泉貨譜稿本』国立国会図書館デジタルコレクション
・冒頭しか読んでいませんが……『冑山根岸家資料報告 1 考古資料・古瓦 (熊谷市史調査報告書)(PDF)』国立国会図書館デジタルコレクション

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