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浮世絵の祖とも言われる岩佐又兵衛が描いた怪力僧「本性房」@東京国立博物館

ふらりと東京国立博物館へ行って、ぶらりと展示室を巡っていたら、特集『近世のやまと絵-王朝美の伝統と継承-』の中に、江戸時代の絵師、岩佐又兵衛さんの作品がありました。たしかに展示品リストの中に入っていたことは記憶していましたが……そういえば、この作品のことかと。

■岩佐又兵衛《本姓房怪力図》

作品の前に立っても、近視のわたしには何が描かれているのか判然としません。なんとなくグチャッとなにかが描かれている……。タイトルを見ると《 本姓房ほんしょうぼう怪力図》とあり、「 本姓房ほんしょうぼうが大石を敵中に投じて退散させたという逸話を描いています」と記されています。

でも、前から見ると下のような感じ……というよりも、もっと暗くて分かりませんでした。そのお陰なのですが、誰も見入る様子もありません。

岩佐又兵衛《 本姓房ほんしょうぼう怪力図》トーハク蔵

ただ、ジッと動かずに眺めていると、眼の露出やピントが合ってきて……暗闇で目を開けていると、じょじょに周辺の様子が見えてくるように……何が描かれているのか分かってきました。

まずは、どうやら画面の左上の方に、主人公の「 本姓房ほんしょうぼう」が描かれています。大きな岩石を頭の上に振りかざして、まさに下へ落とそうとしています。よく見れば、右側には仲間の武者たちも描かれていましたね(下の写真は、見やすいように色調などをいじっています)。

岩佐又兵衛《 本姓房ほんしょうぼう怪力図》部分・トーハク蔵

さらに視線を絵の下の方に移すと、おそらく 本姓房ほんしょうぼうが投じた岩石の下敷きになっている敵兵の姿があります。さらに写真を拡大してみると、兵だけではなく馬も何頭か倒れているじゃないですか。

岩佐又兵衛《 本姓房ほんしょうぼう怪力図》部分・トーハク蔵

解説パネルによれば、この 本姓房ほんしょうぼうは、南北朝時代の大和国(奈良県)の般若寺の僧侶。笠置山にこもる後醍醐天皇を、北朝の六波羅探題の軍が攻めた時に、 本姓房ほんしょうぼうが怪力をもって、敵兵を退散させるのに活躍した図が描かれているそうです。

美術的な特徴としては、「やまと絵と漢画とをみごとに融合させた、岩佐又兵衛の緻密な筆致が見どころ」とのことです。

岩佐又兵衛《 本姓房ほんしょうぼう怪力図》部分・トーハク蔵

ちなみにWikipediaでは、どこかから引用して「俵屋宗達と並ぶ江戸初期を代表する大和絵絵師だが、牧谿や梁楷風の水墨画や、狩野派、海北派、土佐派など流派の絵を吸収し独自の様式を作り上げた」と、岩佐又兵衛を評しています。そして、そうした和漢の画題と画技を融合した、見事な成果として『金谷屏風』という作品を挙げています。

■歌川豊国の《夕立雨宿り》

岩佐又兵衛さんの作品を堪能した後は、そのまま歌舞伎の部屋を通って、浮世絵の部屋を見てきました。見てきたと言っても、見たのは平台に展示されていた歌川豊国さんの《夕立雨宿り》。3組なのか……いくつかの連作なのですが、一つ一つを見ると、豊国さんの絵って描かれている人のキャラが立っていて、面白いですね。

歌川豊国《夕立雨宿り》部分

夕立を図柄にしている浮世絵ってとっても多いようで、トーハクではよく平台のケースに展示されていることが多いです。上の絵は、夕立に遭って、急いで大きな木の下へ駆け寄っている姿ですね。急に降ってきた雨に困っているというよりも、楽しんでいる……はしゃいでいるような気もします。

歌川豊国《夕立雨宿り》部分

上の走る人は、武士のようにも羽織袴の見えますが、持っているアンテナのような棒の先に掛かっているのはなんでしょう。なにかお祝いの品のようにも思えますが……。やたらと腕毛やすね毛が丹念に描かれているのも、豊国の特徴なんでしょうかw

歌川豊国《夕立雨宿り》部分

その武士の下に描かれている女性は、何かを拾おうとしていますが……懐紙の束のようにも見えますが、なんでしょうね。

歌川豊国《夕立雨宿り》部分

さらに左の作品に目を移すと、やっと木の木陰の下に辿り着いた人たちが描かれています。上の写真は、おいらんさん……芸者さんなどでしょうか。ほかとは異なり、きれいな服を来て、髪飾りも派手ですね。

歌川豊国《夕立雨宿り》部分
歌川豊国《夕立雨宿り》部分

《夕立雨宿り》は、九つ切判の錦絵・9枚続きです。上のが、そのうちの4枚、そして次の3枚、2枚と続きます。

歌川豊国《夕立雨宿り》部分

次の3枚続きの右端には、鷹を抱えた武士が大樹の下で雨宿りしています。鷹を飼うほどの身分なのか、それとも鷹を飼育する鷹匠なのか……。そういえば、狩り用の鷹は、人に慣らすために、人混みに連れ出すという話を聞いたことがあります。

歌川豊国《夕立雨宿り》部分

一瞬、柳亭種彦の『偐紫にせむらさき田舎源氏いなかげんじ』の主人公が描かれているのかと思いましたが、髷の形が異なりますしね。それにしても、髷がものすごく分厚いです。※『偐紫にせむらさき田舎源氏いなかげんじ』の絵を描いたいのは、歌川豊国の弟子である歌川国貞です。

歌川豊国《夕立雨宿り》部分

その大樹へ、次から次から人が集まってきます。

歌川豊国《夕立雨宿り》部分
歌川豊国《夕立雨宿り》部分

そして次が2枚続き。ここに描かれている人たちも、歩む方向からして、先ほど鷹を抱えた武士のいた大樹の元へ走っているようです。

まずは子供をおんぶしたお母さん?……その隣にいる女性は良いとして……足元には、つまづいたのか、倒れ込んでいるおじいさん。そしてよく見れば、その左にも……目の見えない男性2人が描かれています。

歌川豊国《夕立雨宿り》部分

なぜ、様々な身分の人を描いているこの9枚に、3人もの眼の不自由な人を描いているんでしょうね。それだけ、江戸には多かったということでしょうか。

歌川豊国《夕立雨宿り》部分
歌川豊国《夕立雨宿り》部分

浮世絵……おもしろいなぁ。

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