ショートショート 明日、世界は終わるらしい

*はじめに
このショートショートは全て
フィクションです。
どこか地球に似た、ある星のお話しです。

明日、世界は終わるらしい。

僕は今日、会社に行かなかった。
誰も何も言わない。
だって世界は終わるのだから。

それは、突然のことだった。

テレビニュースを見ていたら
突然臨時ニュースに切り替わり、
政府から
「明日世界は終わります。」
と発表があった。

何のことだかわからない。
なぜ世界が終わるのか説明も無い。

でもしばらくしても、
誰も反論する人はいなかった。
皆、何となく感じていた。

このまま世界が続くなんてことは
ないのだろうと。
ただ誰もそれを口にしないだけだ。

ああ、やはりそうなのかと、
納得してしまったのだろう。

農作物は世界の胃袋を満たすことなんて、
とてもできない。

それどころか毎日当たり前にあった水を、
最近は手に入れるのが難しくなってきて
いる。

何を買うにも行列に並び、
毎日少しの食べ物で我慢せざるを得ない。

今はこんなことが
世界中で当たり前に起きていた。

一部の富裕層の人たちは、
こんなこの星を見限ってK星に移住して
しまった。

ずいぶん前から熱心に行っていたK星開発
は人類のためでなく、
一部の富裕層と権力者たちのためだった。

僕たちがそれに気づいたとき、
すべてが手遅れだった。

この星に取り残された僕たちは、
それでも何とか秩序を維持しながら、
地上で暮らしてきた。

それが政府のたった一言で、
見事に打ち砕かれてしまった。

「明日世界は終わりを迎えます。
みなさんは終わりを迎えるために
それぞれ準備をしてください。
くり返します・・」

延々と同じ内容が繰り返される。
この放送が政府から発信されたことは
確からしい。

そして世界中の政府は
この放送を最後に機能しなくなった。
どこに問い合わせても連絡が取れない。

世界中の政府の人たちが
いなくなった。

世界は僕たちを残して、
明日終わるらしい。

都会は危険なので、
俺と子どもたちはとりあえず、
田舎の街を目指して車を走らせた。

けれども同じことを考える人たちで
道はたちまち渋滞となり、
動けなくなった。

その日は車の中で一夜を
明かそうとしたのだけれど、

あちこちで暴徒化した人たちが
車を襲いはじめていた。

まるでゾンビ映画のようだが、
襲っているのは人間だ。
しかも彼らに言葉は通じない。

皆がそうするように
俺たちも車を乗り捨てて、
リュックだけを背負い
暗がりのなかをこっそりと走り出す。

幹線道路沿いには大きなスーパーや
お店が立ち並んでいるけれど、
どこも暴徒で溢れている。

行き場をなくした俺は呆然としたけど、
足を止めるわけにもいかず、
ただ歩き続けた。

でも、
もちろんいつまでもと
いうわけにはいかない。
直ぐに子供たちが動けなくなった。

俺には妻はいない。
ふたりの子供を育てて2年目になる。

K星への移住が始まってから、
世界は女性が少なくなっていた。

また、世界が不安定なせいか、
親のいない子どもが増えていた。

そこで政府は俺のような独り者に
子どもを育てさせる政策を打ち出した。

子育てをする代わりに配給制となっていた
食料や水の配給量が多くなるのだ。
食料や水に困らないことは有難かった。

しかし、ある程度大きくなった子どもを
育てることは経験のない俺には難しく、
限界を感じていたときに、
この事態となった。

道端にうずくまる子供たちを、
どうする事もできず、仕方ないので、
その道端で野宿することにした。

携帯用の簡易テントとシュラフを
乗り捨てた車から持ち出していた。

道端に設置して、その中で眠る。
幸い暴徒たちには見つからなかった
ようだ。

置いてきた車の荷物の方で
満足したのだろう。

食料、寝る場所、飲み水。
生きていくために最低限必要なものが、
確保するのが難しい。

まず頭に浮かぶのは避難キャンプの
ような場所だが、このような状況に
あっては情報収集が難しい。

ネットはまだ生きているようだが、
スマホはあっても電池がない。

昨日車で充電したのが最後だったから、
バッテリーがなくなりかけていた。

子供たちもネットで情報を集めていたらしく
どこそこに誰がいるなどの情報をしきりに
口にするけれど、そこへいく手段がない。

とりあえず歩きだしたけれど、
行くあてはない。

そのうち上の子供が騒ぎ出す。
お前と一緒にいても埒が明かないと。

そして上の子は、
ひとりで行動すると言い出して、
気づくといなくなっていた。
あるだけの食料をもっていかれた。

不安そうに俺をみる下の子を、
大丈夫大丈夫と、
根拠のない気休めを言いながら、
俺はもう絶望していた。

辺りを見回しても誰もいない街が続くだけで
お店を覗いても、本当に何もない。
全てが持ち出された後だった。

水道があれば水は飲めると思い探すけれど、
蛇口はあっても水は出ない。
というか、蛇口は開きっぱなしだった。
水は止められているのだ。

誰もいない、何もない店の中を、
ウロウロと水を探して動き回る。

子供はしゃがみこみ、動けなくなる。
仕方なく見つけたベンチに座らせて、
俺だけで水を探すことにした。

このベンチから動いちゃいけないよ
と伝え、子供はうなずく。

俺のリュックに残るのは一食分にも
満たない食料と、ほんの僅かな水が
ペットボトルに残るだけだ。

そのリュックを子供に渡す。

そして不安そうにベンチに座る子供を
置いて、振り返りもせずに歩き出す。

今日、世界は終わるらしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?