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ショートショート 月のお方

満月の夜がまた来た。

月から見える地球は
昔訪れた場所が
ハッキリ見えるようになる。

わたしは、あれから少しだけ、
年を重ねたけれど、

地球の方は大分、
時代が進んだようだ。

わたしが地球にいたころ、
わたしは喜びよりも、
悲しみの方が多かった。

たくさんの喜びにあふれていれば、
わたしは月に帰らなくてもよかったのに、

わたしの希望を聞いてくれる方は
いなかった。

今、わたしは月にいて、
まだ罰を受けている。

毎日毎日、
閉じこめられた部屋から
地球を眺める日々。

わたしはあの頃を思い出し、
小さかったときの楽しい思い出に浸る。

かあさまの、やさしさや、
とうさまの、想いを思い出しながら、
ため息をつく日々。

わたしには、
わたしの助けとなる方はなく、
わたしは受けた罰をかみしめる。

天上のあの方は、
地球を滅ぼすのをあきらめたわけではなく、

でも、わたしが罰を受けている間は
なにもしないと約束してくれた。

ときどき、あの方がわたしのところに
おいでになり、
わたしの気持ちに変わりがないかを
お尋ねになる。

わたしは変わりがないとお伝えすると、
にこやかに、その場を去られてゆく。

このやり取りを、1000年程も
つづけているだろうか。

わたしが地球に戻れることはなく、
わたしがあの方にもう罰は受けたくないと
お伝えすれば、
地球は滅ぼされるだろう。

何のためにわたしは罰をうけているのか。

わたしのことを覚えている人など、
最早、
誰もいないというのに。

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