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読書日記 『逝かない身体』ALS的介護が作られていくまで

■川上有美子・著『逝かない身体―ALS的日常を生きる (シリーズ ケアをひらく)』 医学書院

奥付を見たら2009年の12月の発行となっていた。この本を読もうと思ってから13年近くも、積読していたことになる。現在、買ったものの読んでいない本は、150冊くらいある。なんだかなあ、だ。

この本は、本屋で実物を手に取って、立ち読みして、これは読んでおくべき本だと思ったのだった。私が介護職に就いたのが2010年だから、そういう興味があったのだろう。が、読んでいなかった。それが何でなのかわからない。

この本は、1990年代に、夫の単身赴任でロンドンに暮らす主婦が、自分の母親のALSの発症にともなって、帰国し、実家で母親の介護をして、必要に応じてALSサポートの介護事務所を立ち上げて、看取った体験を書き綴ったものだ。現在、著者は、ALSサポートの第一人者的な存在になっているらしい。

全然気が付かなかったが、この本は、第41回(2010年)大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞している。

ALSとは、筋萎縮性側索硬化症という難病だ。神経の病気で、全身の筋肉を動かせなくなる。最終的には、舌、眼球も動かせなくなる。が、知性や聴覚、視覚、内臓機能はどはそのままだと言われている。最近では、ALSの患者二人が、れいわ新選組から国会議員になって、話題になった。

この本の母親は、ALSの中でも進行がとてもはやいケースで、発病してから、それこそあっという間に寝たきりになってしまった。

寝たきりになると、今度は、呼吸は人工呼吸になって、食事は胃瘻になる。話せなくなると、五十音の板を介して、視線とか瞬きとかで、コトバを読み取るコミニケションになる。

瞬きもできなくなり、眼球も動かせなくなると、今度は瞼を開けっぱなしにしておくか、閉じたままにしておくかを決めることになる。何らかの方法で、本人の意思を確認して、その通りにする。

最終的なコミュニケーションは、汗のかき方から、介護者が読み取る、なんていうところまで行く。


そんな感じで、自宅で13年間、24時間の介護が続いた。介護保険制度が始まる前の1990年代半ばから、2009年までのことだ。その間、家族のほかに、医師や介護者も加わり、試行錯誤を経て、いろいろなことが試みられていく。

ベッドで寝ている母親の気持ちやら、法律やら医学やら介護の技術やら制度と、家族の気持ちやら感情やら、経済状態まで入り混じって、さながら戦記のように読める。

同時に、一介の主婦が、ALSの熟練した介護者になるとともに、社会運動家になっていく過程も読むことが出来る。そこには、学ぶべき教えがとても多い。

が、気の弱い私は、圧倒的な事実の前に、押しつぶされそうになる。同時に、著者のバイタリティに、打ちのめされてしまう。そういう自分が面倒くさい。

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